最高の満足度を記録した「ショート・ターム」の監督が語る、人と人とが触れあうことの大切さ
2014年11月14日 12:47
[映画.com ニュース] 昨年度、映画祭の観客賞をはじめ30もの映画賞に輝き、実名レビューサイト「ロッテン・トマト」で満足度99%をたたき出した作品「ショート・ターム」。公開を前に監督のデスティン・ダニエル・クレットンが来日し、映画への思いを語った。(取材・文・写真/若林ゆり)
「ショート・ターム」は、家庭環境や心に問題を抱えたティーンエイジャーの保護施設を舞台にしたヒューマンドラマ。これはクレットン監督が、実際に保護施設でケアスタッフとして働いた2年間の経験に基づいており、「強烈な、実り多い時間だったよ」と振り返る。
「それまでの僕は、島(ハワイのマウイ島)育ちで世界観が狭かったし、人生経験も乏しくてね。苦境に直面している人を見るのも生まれて初めてで、どうしたらいいかわからなかった。でも、2年の経験は僕を変えたよ。それは自分の中にあった恐怖というものに向き合う経験だった。傷ついた子たちをさらに傷つけてしまうんじゃないかと恐かったし、傷つけられるのも恐かった。でも、子どもたちを知れば知るほど『思ったほど恐くはないんだな』と思えるようになってね。その人を知れば知るほど、わかればわかるほど恐怖は消えていく。そうしているうちに彼らとの絆が生まれて、自分を発見することにもつながったんだ」
映画は施設で働くグレイスが、ティーンの少女ジェイデンと心を触れあわせることによって変わっていく姿を温かい眼差しで描いている。「映画の中の出来事はどれも、自分が経験したことやほかのスタッフに起きたことをミックスしたり強調したものなんだ。キャラクターみんなが僕の一部だし、僕のなかのそれぞれ違った一面を反映していると言えるよ。たとえばグレイスの感じている恐怖とか、葛藤とか不安は自分の実感に基づいたものだ。新入りのネイトは、最初の2カ月で自分が感じたままを表している人物。グレイスの恋人のメイソンは、自分がこうありたいと思う人物だ。なぜって彼はいつだってポジティブだから。ウンコをもらした悲惨な体験をユーモアに転じてしまえる余裕もある。僕自身はとてもああはできないよ。でもなりたいという気持ちを持ち続けていれば、いつかはあんな人間になれるかもしれないよね(笑)」
映画に宿るリアリティは、俳優たちの演技によって実現した部分も大きいという。「映画作りでいちばん難しかったのはキャスティング。真実味を出せて、演じるキャラクターの心情に寄り添えるような人を見つけるのは難しかった。とくにティーンエイジャーはね。ロサンゼルスに住んでいるティーンはとくに、自分のことしか考えられないような、幼い子が多いから。でも今回、出演してくれた子たちは心が大人で、他人を思いやれる子ばかり。キャストは全員そうだった。だからこそ、演技に真実味があるんだよ。手持ちカメラで撮影したのは、彼らが立ち位置とかに気をとられず、感じたままに演技ができるようにしたかったからなんだ。映画の中で笑い合っているシーンや抱き合っているシーンは、本当に笑っているし抱き合っているんだよ」
この映画は見た人の心に火を灯し、希望と癒やしを感じさせる。監督自身、観客たちからの反応にハッとさせられることが多いそう。
「観客とのQ&Aでは、実際に虐待を受けていたり、痛みを抱えている子たちから強いコメントが寄せられることが多くてね。映画と自分の人生とがいかに共鳴したかって話を聞いて、何度も泣かされたよ。とくに印象的だったのが、あるQ&Aセッションで後ろのほうに座っていた16歳の女の子。最後の最後に手を上げて、話し始めた。『数年前まで、私はジェイデンでした。人生のどん底からはい上がろうとしていたんだけど、誰も自分を愛してくれないんじゃないかと悩んでいた』。そして、隣の女性を指さして『これが私のグレイスです』って言ったんだ。僕は希望というものを感じたよ」
マウイ島での少年時代は「6人兄弟でいつも日が暮れるまで外で遊んでいた」という監督。クリエイティブな資質はそこで強化されたようだが、そんな少年にも「心の問題、家族の問題がなかったわけではない」という。「だからこそ、僕は施設にいた子たちの気持ちに寄り添い、理解することができたんだと思う。問題を抱えていない人間なんていないよ。映画に出てくる登場人物誰かしらに、見る人たちは共通点を見つけることができるんじゃないかな。頭をぼこぼこに殴るような母親をもっていなかったとしても、何か子どものころに傷ついたことを思い出すことはあると思う。それが、他人を理解したり、心を触れあわせることにつながればうれしいね」
「ショート・ターム」は、11月15日から全国で公開。
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