庵野秀明「エヴァ」シリーズを語らぬ理由、そして宮崎駿から学んだ「仕事の流儀」とは?
2014年10月24日 09:10
[映画.com ニュース] 第27回東京国際映画祭の目玉企画、特集上映「庵野秀明の世界」の主役である映像作家・庵野秀明が取材に応じ、「エヴァンゲリヲン」シリーズについて本人が多くを語らぬ理由や、原画を担当した「風の谷のナウシカ」(1984)で“師匠”宮崎駿から学んだ「仕事の流儀」について語った。
スタジオジブリの鈴木敏夫氏の発案で実現し、庵野監督にとって初の大規模な特集上映となる「庵野秀明の世界」では、学生時代に自主制作した短編に始まり、「風の谷のナウシカ」「火垂るの墓」など原画を手がけた作品、95年に放送が始まり社会現象を巻き起こした「新世紀エヴァンゲリオン」全話、「ラブ&ポップ」「式日」「キューティーハニー」といった実写監督作など、全編・抜粋を含めて計53タイトルが上映される。
「ここまで大事になるとは思っていなかったので、『こりゃ大変だ』というのが率直な感想。でも、今は過去につくった作品も客観的に見られるようになり、結構面白いことをやってきたなという思いも沸いてきますね。そういう意味では、本当にありがたいです」(庵野監督)。
大きな節目を迎えたのは「風の谷のナウシカ」だといい、「学校(大阪芸術大学)も放校になっていたし、あの作品にかかわることで、東京でアニメーターとして食っていける自信になった。僕らの仕事は依頼がないと成り立たないから、自分で『食っていける』と言うのは少し違うんですが」。何より、間近で宮崎監督の仕事ぶりに触れる機会は、若き日の庵野監督に大きな感銘を与えた。
「宮崎さんに教わったのは、作品づくりの姿勢ですね。こんなに一生懸命やるんだと。寝る間も惜しんで、机の上でクオリティを維持し続ける精神力と集中力がすごい。仕事をすればするほどクオリティは上がるし、逆に作業から離れた分はクオリティが下がるということを教えられました。今の自分もまさにそうですし、体力の限界までは常に頑張ります」(庵野監督)。
メガホンをとったOVA「トップをねらえ!」(88)、総監督を務めNHKで放送された「ふしぎの海のナディア」(90)と過酷な製作現場に身を投じ、「心身ともに出し切ってしまい、ボロボロになりました。次の作品にたどり着くまで、4年かかってしまった」。次の作品とは、もちろん当時一大ムーブメントを巻き起こした「新世紀エヴァンゲリオン」のこと。現在も「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズとして新たなドラマが進行中だが、一方で庵野監督本人は同シリーズについて多くを語らない。
「ファンの皆さんの夢や想像力を壊したくないというのが、一番の理由ですね。自分が何かしゃべってしまうことで、それが正解になってしまうので。過去にそういう経験もあり、『ヱヴァ』の内容に関しては話さないようにしています。こちらとしては作品がすべてであり、皆さんが議論してくださる楽しみのあるまま、終わってほしいんです。いずれ(説明をする)時期が来るかもしれないですけど、それはずっと後でいいと思っています」。
今後の創作活動については、どのような展望を見据えているのか。スタジオジブリ鈴木氏から「宮崎駿が引退した後、日本のアニメは庵野がけん引していく」と“後継者”に指名され、以前にも増して注目を浴びているが、当の本人は「鈴木さんの主観ですからね。後継者という意識はないです」と断言。「もともと将来を見た作品づくりってしてきていないので。今まで通りその瞬間、やりたいこと、面白いなと思うものを形にしていければ」と抱負を語る。
「ものづくりで大切なのは、製作費や製作期間といった環境のなかで最上を目指すこと。効率よく作品を面白く仕上げるのが、監督の仕事だと思っています。実際にはそんなことはありませんが、仮に時間も予算も自由だと言われると、逆に何も作れないかもしれない。枷(かせ)は少ないほうがいいですけど、枠は絶対に必要ですね」。
「作品がすべて。その瞬間、やりたいこと、面白いなと思うもの」という言葉通り、アニメや実写の垣根を超えたバラエティ豊かなラインナップとなった特集上映「庵野秀明の世界」で、日本が世界に誇るクリエーター・庵野秀明の神髄を体感してほしい。第27回東京国際映画祭は10月31日まで開催。