「リトル・フォレスト」サン・セバスチャン映画祭でディナー付きプレミア上映
2014年10月1日 18:00
[映画.com ニュース]9月27日まで9日間にわたって開催されたスペインのサン・セバスチャン国際映画祭のキュリナリー・シネマ部門で、森淳一監督の「リトル・フォレスト 夏・秋」のディナー付きプレミアが開催され、話題を呼んだ。「キュリナリー(料理の)シネマ」とはあまり馴染みのない言葉だが、要するに食べ物に関わる映画のことだ。ヨーロッパでは最近このカテゴリーで映画をあらたな角度から捕えることが流行っており、ベルリン国際映画祭にもこの部門が存在する。もっとも、ベルリンに比べて何軒もの星付きレストランを抱えスペインでも有数の美食の街として名高いサン・セバスチャンは、ガストロノミックなディナーをウリにする。あらかじめチケットを購入した観客は、映画鑑賞後レストランに移動し、特別に招かれたシェフが腕を振るったコース・メニューを食するのだ。今年でまだ4年目ながら、この映画祭でもっとも人気の高い部門のひとつに成長した。今回は森監督の他、ラッセ・ハレストロム(「The Hundred-foot Journey」)、エリック・コー(「Recipe」)、ウェイン・ワン(「Soul of a Banquet」)ら、7本の作品が招待された。
五十嵐大介の漫画を原作にした「リトル・フォレスト」は、岩手県の農村で母親が家を去って以来、畑を切り盛りしながらひとりで自炊するヒロインの物語。映画ではグミの実のジャム、野菜のシチュー、合鴨など、さまざまなメニューが登場し、観ているだけで食欲をそそられる。この日の食事会を担当したのは、ガストロノミック・レストラン「Ni Neu」でシェフを務めるミケル・ガジョさんと、人気寿司バー「Kenji」を経営する高橋健二さんのふたり。まずは健二さんが自ら握る寿司が披露された後、レタス、アンチョビ、クレソンを使ったアーモンドクリーム・ソースの前菜(写真)、鯛茶漬け、備長マグロの一品、鴨肉のヘーゼルナッツ添え、そしてデザートに富士林檎のスペイン甘草風味、フレッシュチーズアイスクリーム添えと、2人のシェフが交互に担当した贅沢な献立が続いた。ガジョさんは、「最初は日本の食材でどれだけアレンジできるか不安だったが、映画を見ると必ずしも日本的な食材だけではなかった。一番の自信作は鴨料理かな(笑)」と語った。
森監督は、「今日の日本は食料の自給率が40パーセントを下回っている。もっと自分で作って食べるということの大切さを伝えたいと思いこの映画を作りました。また日本は四季が美しく、田舎では時間がとてもゆっくりと過ぎていく。そんな時間の流れも丁寧に描きたいと思い、四季ごとに一編ずつ映画を分けることにしました」と語り、「来年の映画祭にはぜひ冬と春編を披露したいです」とコメントして会場を湧かせた。
ちなみに今年初の試みとして、この部門と提携した「東京ごはん映画祭」(http://tokyogohan.com)が、10月に日本で開催される。上映作品は今回「東京ごはんアワード」を受賞した、モダン・ペルー料理の鬼才ガストン・アクーリオを追ったドキュメンタリー、「Buscando a Gaston(ガストンを探して)」。ご飯付き上映会もあるので、詳しくはURLを参照のこと。サン・セバスチャンのディレクター、ホセ=ルイス・リボルディノスは「この提携が実現してとても光栄です。映画祭の友好が世界の食文化、食の伝統を繋いでいくことを期待します」と語った。(佐藤久理子)
フォトギャラリー
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。