渡辺謙「いつでも顔出して」と涙 700人が蟹江敬三さんと最後の別れ
2014年5月14日 13:30
[映画.com ニュース] 胃がんのため3月30日に亡くなった俳優・蟹江敬三さん(享年69)の「お別れの会」が5月13日、東京・青山葬儀所でしめやかに営まれた。家族ぐるみで付き合いのあった渡辺謙をはじめ名取裕子、松下由樹、香川照之、能年玲奈らファンも含め約700人が参列。蟹江さんに最後の別れを告げた。
渡辺は、「お別れの言葉」の一番手として、蟹江さんの笑顔の遺影と対じ。「蟹さん、驚いちゃった。具合が悪いなんて何も聞いてなかったし、知らせを聞いた時はしばしぼう然としていました」と唇をかみしめた。
1992~1998年の日本テレビの火曜サスペンス劇場「わが町」シリーズなど数多くの作品を共にし、蟹江さんの長男で俳優の蟹江一平とも共演。「近況や家族のことを話すようになり、親せきみたいな気持ちでした。一平が青年座に入る時も、蟹さん悩んでいたよね。僕が『親父の背中が素敵に見えるなんてなかなかないよ』って軽口をたたいたら、よく分からない笑顔で返してくれました。最近は、一平と仕事をすることも多くなっちゃった」と涙をこらえながら思い出を吐露した。
蟹江さんが出演したNHK朝のテレビ小説「あまちゃん」にもふれ、「気持ち良さそうに、いい加減なおじいちゃんをやっていたし、いつも気になる存在でした。あったかく厳しく、本当にかわいがってもらいました」と追悼。そして、「もっと目ヤニと鼻水とよだれと、グズグズの蟹さん、見てみたかった。今でもひょっこり顔を出しそうな、そんな気がしています。いいんだよ、いつでも。メイクしている隣でニッコリ笑ってよ。待っているから、待っているから…」と自らも鼻をすすりがなら、遺影に訴えかけていた。
「あまちゃん」に主演の能年は献花後、取材陣に囲まれ「お別れはできましたか?」と問われると、「そうですね…。なんとか」と話しだけで、大粒の涙をこぼしながらスタッフに支えられ会場を後に。蟹江さんが所属した「劇団青俳」時代からの盟友・石橋蓮司は、「蟹江、共に演劇活動をしていたあの頃は、耽美で素敵な時代だったよなあ」としみじみ話した。
2003年から続くテレビ朝日「京都地検の女」シリーズで、蟹江さんと上司・部下として共演した名取は、「寡黙でしたが、笑顔に思いがあふれる本当に優しい方でした。どんな役でも全精力を注ぎ、ものすごい集中力で演じられる。役者として、人としても尊敬する方です」と哀悼の意。同局の土曜ワイド劇場「おとり捜査官・北見志穂」シリーズで17年にわたりコンビを組んだ松下は、蟹江さんが病名を告げられた昨年12月に同作の撮影があったことを振り返り、「寒い中でのハードな撮影も普段通りでした。あの時、つらかったことに気付けず、何もできなかった自分が歯がゆいです」と悔しさをにじませた。
喪主を務めた一平は、「父は本当にシャイで無口で人見知り。それでも色気のある男だった。それに反して僕は幼少のころからヘラヘラして不肖の息子だった。全く人見知りをしない僕が、唯一、人見知りをした人が父だった」と述懐。蟹江さんは抗がん剤治療の効果で、一時は5月に胃の摘出手術をする計画も立てられたが、その後病状が急速に悪化。蟹江さんが「誰にも言うな。黙っていろ」と厳命したため、一平は「それだけは守ろうと、いつも以上にヘラヘラしていたので、2~3月の僕の現場での評価は最悪だったと思う」と苦笑いで振り返った。
親子共演が実現しなかったことが心残りで、蟹江さんは「おまえとはやらない。父親の感情が芽生えたら俺の仕事ができない」と拒み続けてきたという。一平も今年俳優デビュー15年を迎え、「今の私なら、あなたをつぶすつもりで焦らせることができたかもしれない。できないかもしれないけれど、蟹江先輩に立ち向かう覚悟は持っていますよ」と天国の父に語りかけた。
病床での最後の会話も、一平の年収を聞いた蟹江さんが「情けねえな」とこぼしただけだったそうで、「最後までそういうスタンスで、訓示めいたことは1度もなかった」。それでも、「もう、情けない姿は見せられないので、心機一転、ヘラヘラを脱します。父を超すことは無理だけれど、自分のスタイルを貫きしっかり仕事をしていきます」と決意を新たにしていた。
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