井上真央、無欲がもたらした“狂言回し”としてのコメディセンス

2013年9月28日 07:00

コメディエンヌとしての 才能も開花させた井上真央
コメディエンヌとしての 才能も開花させた井上真央

[映画.com ニュース]  女優の井上真央が、水田伸生監督の最新作となるオリジナルコメディ「謝罪の王様」に出演し、コメディエンヌとしての才能を開花させている。上から目線、ピンクのレオタード、土下座……と、井上のこれまでのイメージをことごとく覆すキーワードが頻出。しかし目の前に座る井上からは、女優としてこの状況を純粋に面白がっている節が見て取れる。役作りをはじめ、コメディというジャンルについて何を思っているのか話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/堀弥生)

今作は、「舞妓Haaaan!!!」(興行収入20億8000万円)、「なくもんか」(同13億5000万円)で新機軸のコメディを打ち出した脚本・宮藤官九郎、主演・阿部サダヲ、水田監督のゴールデントリオが3度目のタッグを組んだ意欲作。阿部が架空の職業「謝罪師」を生業とする主人公・黒島譲に扮し、ケンカの仲裁から政府を巻き込んだ国家存亡の危機までを、土下座を超える“究極の謝罪”で解決に導く、ブラックな社会風刺コメディだ。

井上は、大小さまざまな6つの物語で構成されるなかで、「CASE1 怖い人達に謝りたい!」に司法書士を目指す帰国子女・倉持典子として登場する。自らの過失で追突事故を起こしたものの、暴力団員風の男たちに対し、海外で「とりあえず謝るという考え方は命取り」と教育されたためにうまく謝罪ができず、不条理な誓約書に判を押してしまう。

苦境に立たされた典子は、腕を組み上から目線の状態で東京謝罪センターの黒島に相談したところ、“最悪の事態”を回避。トラブル処理の迅速さに感銘すら覚えた典子は以後、最終エピソードまで黒島のアシスタントという“狂言回し”としての役回りを得る。井上には「自分が何かをしようとか、そういう欲はなかった」そうで、「コメディセンスのある方々ばかりが集まっているので、きっと面白くしてくるだろうと感じていました。それに対して、『負けずに自分も』っていう精神はやめようと思いました」と説明する。

そう思うに至ったのには、「太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男」でも共演している阿部の存在があった。「阿部さんは、ご自分で何かを仕掛けていくタイプではなく、決められた台本のなかで、監督に言われたことを忠実に表現しながら自分の色を出される方。これはすごいなと感じました」と感嘆の声を漏らす。だからこそ、「『このシーンでどこかに足跡を残そう』じゃないですけれど(笑)、そういう欲は出さないようにしたんです。自分が面白いと思っていることが、必ずしも他の人から見て面白いわけではないですし、人によって千差万別。そこは水田監督にお任せして、私も台本と監督の演出に対して忠実に演じようと思っていました」と振り返る。

綱引いちゃった!」、ドラマ「トッカン」で苦楽をともにしているだけに、水田監督の井上への信頼度は絶大なものがあり、監督たっての希望によりキャスティングが実現したことから、もはや“水田組のミューズ”といっても過言ではない。井上本人は「とんでもないです」と謙遜するが、自らの立ち位置は敏感に察知した様子で「メイクや衣装が固まっていくなかで、どこかの要素を誇張していければいいかなと感じました。あとは、現場の流れに柔軟でいよう、空気をちゃんと読めたらいいなと思っていました」と自然体を貫いた。

また、謝罪にまつわる記憶について聞くと、2010年に主演した「ダーリンは外国人」撮影時のことを話し始めた。共演のジョナサン・シェアとの何気ないやり取りのなかで、「日本人って謝る文化があるよね」と話していたことを述懐。「確かに謝罪文化は、日本特有だなあと。それをどこまで広げていくんだろうというワクワク感が今作にはあったんですよね。物語の中にいろんなケースがあるなかで、どれもぶっ飛んだ設定ではありますが、『確かに!』というところを突いているじゃないですか。日本ならではの謝罪文化って本当に面白いですね」。

この話からも分かるように、井上にとってかつて関わった作品全てに対し、等しく思い入れがあるからこそ点と点がつながり線となる。この先にも連綿と続く点が同じようにつながっていったとき、井上にはどのような光景が見えてくるのだろうか。進化を続ける国民的女優の今後を、追い続けていきたい。

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