イブ・サン=ローラン伝記映画2本が同時進行 関係者を巻き込んだバトルが勃発
2013年9月28日 17:35
[映画.com ニュース]イブ・サン=ローランといえば、フランスが世界に誇る伝説的なデザイナーのひとり。1957年、弱冠21歳で故クリスチャン・ディオールの後を継ぎデザイナー・デビューした後、26歳で自らのブランドを設立。2002年に引退するまで、スモーキングやサファリ・ルックなどファッション史に残るコレクションを発表した他、「昼顔」のカトリーヌ・ドヌーブの衣装を手がけて以来ドヌーブとの親交を深めたりと、映画界とのつながりも深い。そんな彼のストーリーがこれまで映画化されなかったことが不思議だが、ここにきて2本のプロジェクトが同時進行し、関係者を巻き込んだ穏やかならざるバトルを繰り広げている。
一本は監督兼俳優のジャリル・レスペールが制作する「Yves Saint Laurent」。コメディ・フランセーズ在籍の注目株、ピエール・ニネイをサン=ローラン役に抜擢。公私にわたるパートナーとして彼を支えた実業家ピエール・ベルジェ役に、同じくコメディ・フランセーズのベテラン、ギョーム・ガリエンヌ、サン=ローランの片腕ルル・ド・ラ・ファレーズにローラ・スメット。YSL創世期における、サン=ローランとベルジェの激しい恋愛ドラマに焦点を当てる。プライベートなストーリーだけに、レスペールは制作を希望した時点でベルジェに会いに行き、承諾を取り付けたという。監督によれば、ベルジェは内容には干渉せず、脚本を読んでいないにもかかわらず全面的な協力を約束し、ピエール・ベルジェ、イブ・サン=ローラン財団の所有するアーカイブのコレクションも貸し出してくれたとか。この夏すでに撮影を終え、現在ポスト・プロダクションの最中だ。
もう一本は「メゾン ある娼館の記憶」のベルトラン・ボネロが手がける「Saint Laurent」。ギャスパー・ウリエルが主演し、ベルジェ役に「最後のマイ・ウェイ」のジェレミー・レニエ、他にはレア・セドゥーとともにオルガ・キュリレンコの名も挙がっている。もっとも、こちらはベルジェへのコンタクトを怠ったばかりに、プロジェクトの噂を知った彼が激怒。とくに自身の肖像権に関しては、「場合によっては告訴も辞さない」と息巻いているという。この反応に驚いた監督は、「内容が固まるまでは彼に相談に行くことを控えていたまで」と弁明。だが、こちらのストーリーがサン=ローランの30代をメインにし、華やかな名声の陰でプレッシャーによるドラッグやアルコールへの依存が加速するさまや、奔放なナイトライフを描くというだけに、監督としてはなるべく水面下で動きたかったのではないか。ボネロはこれまでトランスセクシュアルを描いた「Tiresia(原題)」、ジャン=ピエール・レオーが疲れたポルノ映画監督に扮した「Le Pornographe(原題)」など、大胆で議論を呼ぶ作品が多かっただけに、本作もかなり思い切った内容になるのではと言われている。制作にはリュック・ベッソンのヨーロッパ・コープが参加し、ブランドの現株主であるケリング社のバックアップを得ている。
監督としての評価は、今回が3作目のレスペールよりも、すでにカンヌ映画祭に何度も出品しているボネロの方が優位であり、映像美の点でも、「メゾン」で怪しくも美しい娼館を描いたボネロならファッション界のあでやかさを出すのに適している気はする。だがキャスティングに関しては、ニネイもウリエルもそっくり度では甲乙つけがたい。いずれにしろ、作風はかなり異なるものになりそうだ。両作品とも公開は2014年予定。作品に付随するゴシップも含めて、来年前半のフランス映画界の話題をさらうことは間違いないだろう。(佐藤久理子)
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