「ぬるい毒」初舞台に意気込む吉田大八監督を本谷有希子が激励
2013年8月5日 13:01
[映画.com ニュース]昨年「桐島、部活やめるってよ」で日本映画界を席巻した吉田大八監督が、この秋舞台に初挑戦する。題材は本谷有希子の小説「ぬるい毒」で、映画「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」以来6年ぶりのコラボレーションとなる。本谷が「舞台化不可能」と言い切る作品に挑む吉田は「突っ込むしかない」。稽古入りを目前に控えた吉田と本谷に話を聞いた。
第33回野間文芸新人賞を受賞した小説「ぬるい毒」は「私のすべては23歳で決まる」と信じる主人公・熊田が、ある日突然電話をかけてきた謎多き男・向伊に魅了され、やがて24歳を迎えるまでの5年間の物語。夏菜、池松壮亮という注目の若手俳優をメインキャストに起用し、「劇団、本谷有希子」の特別公演として上演する。
脚本・演出と初の舞台に挑む気構えを吉田に問うと、「まだ暗中模索です。自分の中に演劇で使えるボキャブラリーがどの位あるかわからないまま、目をつぶって突っ込むしかない」ときっぱり。本谷に「ほかの作品にした方がいい」と説得された上で、最終的に「ぬるい毒」を選んだのも吉田自身で「やる以上は彼女がやらないことをやることに意味がある」。そして、「本谷さんの小説の読者として、この作品はついに“芯をとらえた”と感じた。彼女の書き手としての覚悟や気合いみたいなものが、段違いにレベルアップしていて、刺激を受けた」と、原作にひかれた理由を明かす。
今回の企画が決まった後に“桐島ブーム”が訪れたそうで、本谷は「演劇をやるって言ってくださったときの状況と、大八さんの状況が変わってきたと思った。大八さんにとってチャンスなので、今、演劇なの? と第三者的な視点で考えました。だから残念だけれど今回は流してもいいかな、邪魔をしたくないなという気持ちがあった」と気遣いを見せる。一方吉田は「新しい何かをやれること自体が最大のチャンス。(舞台の)話をしているだけで、細胞が沸き立つような感じがします」と今回の舞台にかける思いは強い。
劇場デビュー作でもある「腑抜けども」から大ヒットを収めた「桐島」まで、原作を持つ映画で吉田の脚色は高く評価されている。今回脚本を手がける「ぬるい毒」は「今までで一番難しい」と明かすが、「本谷さんの世界へ入って行くのは二度目だし、『腑抜け』の時より更に高みまで昇りたい。読んで本当に『ぬるい毒』に体中が侵されたような気がした、その読後感を舞台上に叩きつけるつもりです」と話す。
原作ものの実写化について本谷は「原作者の理想は、映画や演劇を見た後に、その本を読んでみたい、その作家のほかの作品も読んでみたいと思わせるものが、成功のような気がする」と書き手としての意見を述べる。「やっかいなのは、本谷さんは小説も演劇もプロだということ(笑)」と吉田が冗談めかすように、目下本谷はこの舞台へのかかわり方を模索しているという。「楽しめたらいいですね。台本など、とことん自問自答して、追及の手をゆるめず厳しい目線で書いていってほしい」と吉田を激励した。
「ぬるい毒」は、東京・新宿の紀伊國屋ホールで9月13日から26日まで公演予定。チケットは現在発売中。
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