新藤兼人監督の通夜に約1000人 津川雅彦「おめでとう」撤回
2012年6月2日 21:33
[映画.com ニュース] 5月29日に老衰のため100歳で死去した新藤兼人監督の通夜が6月2日、東京・芝公園の増上寺で営まれた。遺作となった「一枚のハガキ」や日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた「午後の遺言状」に出演した津川雅彦が弔辞を読んだほか、豊川悦司、竹中直人、奥田瑛二・安藤和津夫妻、星由里子、川上麻衣子らが弔問に訪れた。
胡蝶蘭や白ユリなどで彩られた祭壇は、新藤監督の代表作で海外でも絶賛された「裸の島」(1960)の舞台である瀬戸内海の宿彌島(すくねじま/広島県三原市)をイメージしたもの。遺影には「一枚のハガキ」撮影時の2010年に撮られたものが使用された。
弔辞に立った津川は「先生、今日は先生の弔辞を読むお役目を頂戴しました。(津川が出演した)『墨東綺譚』以来の大役、ありがとうございます。最後のラブレターだと思ってください」と優しく語りかけるように話し始めた。
先日、新藤監督の逝去直後に、報道陣の取材に応じた津川は、100歳での大往生ということで新藤監督に「おめでとう」という言葉を送っていた。だが、新藤監督が死去前夜まで「日本語と英語の2回撮ろう」と寝言でまで撮影に臨んでいたという話を聞き、弔辞の場で前言を撤回。「先生、『おめでとう』なんて言ってごめんなさい。先生の執念に降参です」と頭を下げた。また遺作「一枚のハガキ」の打ち上げで津川の手を取り、涙を流しながら「津川さん、これで最後かな。もう会えないかな」と語ったというエピソードを披露し「その手の強さにびっくり。先生の手の感触は生涯忘れません」と語り、最後に「愛しています。ありがとうございました」と言葉を振り絞った。
竹中は、2000年の「三文役者」に出演。棺の中の監督と対面し「深い感謝の思いを伝えました。優しい素敵なお顔をしていました。『三文役者』の思い出を語りましたが、受け止めてくれたと思います。凝縮した1本が撮ることができてよかったです」と静かに語った。永島は「地平線」(84)のアメリカロケを振り返り、「砂漠で40℃の暑さの中、監督が一番元気でした。僕らは食欲ないのに(妻で女優の)乙羽信子さんと2人でハムステーキを食べていました」とおしどり夫婦ぶりを懐かしそうに明かした。
奥田は監督作への出演はなかったが、自宅が近所で、新藤監督の孫娘で映画監督の新藤風(かぜ)が車椅子を押している姿を間近で見ていたという。新藤監督が独立プロダクションで作品を撮り続けていた点に触れ、「いかに独立プロが日本映画を支えてきたか。その魂を我々がキッチリと継いで、へこたれずに映画を撮り続けないといけない。今日、僕は敢然と100歳(まで生きること)を目標にしました」と誓っていた。
川上は10代で新藤監督と出会い「地平線」に出演したが、「しごいていただき、最初のうちは怖くて緊張する監督でした」と告白した。「撮影で『川上さんが歩けないので今日の撮影は中止です』と言われたこともあって、撮影所で2人きりで歩く特訓をしてもらった」と述懐。
弔辞を終えた津川は「情の濃い方で、気安く付き合っていただきました」としみじみ。「先生を見習って、一歩でも先生の根性に近づきたい。それまでお別れは言いません」と言葉に力を込めた。この日、足を運んだ弔問客は約1000人。長年にわたり助監督を務めた神山征二郎監督のほか、篠田正浩監督、山本晋也監督、安藤モモ子監督、安藤サクラ、平田満、原田大二郎、渡辺大らの姿も見られた。告別式は明日6月3日、同寺で執り行われる。
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