墨東綺譚

劇場公開日:

解説

墨東(ぼくとう)、玉ノ井に咲いた可憐な娼婦お雪との狂おしいまでのロマンスを中心に、文化勲章受賞作家であり、一代の遊蕩児であった永井荷風の半生を描く。脚本・監督は「さくら隊散る」の新藤兼人。撮影は同作の三宅義行がそれぞれ担当。

1992年製作/116分/R15+/日本
配給:ATG=東宝共同(提供 ATG)
劇場公開日:1992年6月6日

ストーリー

1879年、良家の長男として生まれ育った荷風(津川雅彦)は父の意向に反し、早くから文学の道を志した。荷風文学の真髄は女性を描くことで、特に社会の底辺に生きる女性達に目が向けられた。そのため紅燈に親しむことも多く、荷風は文人たちから遊蕩児とみなされた。文壇という特殊世界に入って文士と交わることを嫌い、究極において紳士である荷風は、常に女性から手痛い被害を被る。それは女性に真の愛を求める荷風の人生への探究でもあった。やがて玉ノ井のお雪(墨田ユキ)と出会った荷風は、社会底辺の世界に生きながらも清らかな心をもった彼女に、運命的なものを感じる。しかし、57歳の荷風にとって、年のひらきのあるお雪と結婚するには、互いの境遇が違い過ぎた。それでもお雪の純情さに惹かれた荷風は、彼女と結婚の約束をする。だが、昭和20年3月10日。東京大空襲の戦火に巻き込まれて、2人は別れ別れになってしまう。戦後、昭和27年のある日、お雪は新聞で荷風が文化勲章受章者の中にいるのを見て驚くが、あの人がまさかこんな偉い人ではないだろうと、人違いだときめてしまう。そして2人は二度と出会うことはなかった。それでも孤独の中に信ずる道を歩き続けた荷風は、昭和34年4月30日、市川在の茅屋で誰に看取られることなく80歳の生涯を終えるのだった。

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スタッフ・キャスト

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受賞歴

第16回 日本アカデミー賞(1993年)

ノミネート

脚本賞 新藤兼人
主演男優賞 津川雅彦
新人俳優賞 大森嘉之
新人俳優賞 墨田ユキ
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映画レビュー

5.0タイトルなし

2023年11月11日
PCから投稿

津川雅彦、乙羽信子が良かった。
杉村春子も出ていてびっくり。

荷風その人より、娼妓や客の人物がいきいきと描かれていた。
墨田ユキの白粉を塗った白い肌と林光の音楽が抜群に良かった。
1つ気になったのは序盤でセックス中に挿入される蒸気機関車が走るカット、あまりにもあんまりだ…。(観るの辞めようかしらと少し思った笑)

荷風の時代の文人達がかつて付き合っていたり文通していたり、ストーキーングしていたりした市井の女性が今になって相手が有名な小説家だったと分かり、地元紙のちょっとした記事になったりすることが00年代頃まではチラホラあったなあなどと映画のラストを見て思い出した。

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抹茶

5.0中途半端な反戦脚色はあるものの濃密な人間的魅力がいい

2021年11月27日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

永井荷風に関しては金子光晴の酷評や、三島由紀夫の罵倒、江藤淳の詳細な分析的厭味を読んだことがあるが、それでも小生は原作「墨東綺譚」や「断腸亭日乗」の様々な断片が好きだ。というより、きちんと読んだのがそれくらいだから、嫌いにならずにいられるのかもしれない。

さて、映画作品はどうか。これは原作とはまったく別ものの観を呈している。原作にある寂寥たる心象風景はどこかに消し飛び、やたら元気にカフェや私娼街を歩き回って快楽に耽りながら、国家権力を批判したり、女給に脅されたりする、愉快で金持ちで有名人の中年男と、彼を取り巻く女たちとの関係が描かれている。
そして気づかされるのは、本作品は「墨東奇譚」の映画化ではなく、反骨文士・荷風の後半生を軸に、「墨東奇譚」のフィクションを織り交ぜたものだということである。その意味では、小説の世界を期待する向きには不評だろう。

しかし、閨中秘技絶妙な八神康子、結婚の約束までする娼婦墨田ユキ、夜の世話まで含めた意味での家政婦瀬尾智美、抱かせたうえで法外な賠償を強請り取ろうとする女給宮崎美子、街娼窟の経営者音羽信子…役者たちは生き生きとした、色気のある演技で私娼街の男と女、女経営者の世界を描いていて、そこには何か濃密な人間的魅力が漂っている。津川雅彦や音羽信子、墨田ユキの好演が光る。

ところで、音羽の息子に赤紙が来たので、墨田が筆下ろしをしてあげるとかの話は「墨東奇譚」にあるわけがない。これは監督新藤兼人とATG流の、常套的な「反戦的脚色」であり、ほとんど無意味である。よせばいいのにと思うが、永井も小説中に反権力的コメントがしょっちゅう入るような作家だったらしいから、文句もいえないか。
このような中途半端な反戦的脚色はやめて、反骨と好色以外の荷風の人間性をもっと多面的に取り上げれば、さぞ素晴らしい映画になったろうにと惜しまれる。

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徒然草枕

4.0さらっと学徒出陣の映像。これがいい

2018年12月9日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 給仕の女、宮崎淑子がいい。荷風と関係を持っても金を堂々と請求する。警察沙汰になると、売春行為になるぞ!と脅される始末。

 その後は荷風の女遍歴みたいなストーリーだが娼家のユキにはまってからは、そこの宿での物語となる。

 学徒出陣のドキュメント映像。女を知らない学生さんに体をゆだねるユキ。明治神宮で万歳三唱する姿はこの映画に関係ないといえば関係ないが、これが新藤兼人らしいところ。終盤になると東京大空襲を受け、焼野原をさまよう荷風。終戦となった浅草で、置屋の女将(音羽信子)とユキ(墨田ユキ)が「あの人違う?」などとヨタヨタと歩く荷風を見て噂する。

 晩年は寂しい死に方。よほど吉原が好きだったんだなぁ・・と感ずる辞世の句。

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kossy
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