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ムルナウの「サンライズ」にオマージュを捧げた「シルビアのいる街で」

2010年8月6日 17:38

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デビューは85年だが、 長編劇映画は本作が3本目
デビューは85年だが、 長編劇映画は本作が3本目

[映画.com ニュース] 2008年の東京国際映画祭で絶賛された「シルビアのいる街で」が公開される。古都ストラスブールを舞台に、青年が6年前に会ったシルビアという女性を街中で発見し、彼女の後を延々と追跡するシンプルかつミステリアスな物語だ。ホセ・ルイス・ゲインは名匠ビクトル・エリセによって「今のスペインで最も優れた監督」と称賛された逸材だ。

「エリセは私が最も尊敬し、心を割って話ができる唯一の映画監督です。私は90年に『イニスフリー』という『静かなる男』の撮影現場を訪れたドキュメンタリーを撮りましたが、それは単なるジョン・フォードへのオマージュではなく、イニスフリーという街に住む人々が高齢であるために、すぐにでも亡くなってしまうのではないかという切迫感から撮り始めた作品です。私が撮りたいと思うのは、常に『人間』なのです。映画はテレビと違い、常に記憶を意識します。私は時代から取り残され、過去の記憶を背負って生きている彼らがウィスキーを飲み、バラードを歌っている光景をどうしてもフィルムに収めておきたかったのです」

シルビアのいる街で」も記憶、あるいは記憶の不確かさをめぐる映画と解釈することができる。

「ある批評家から、私の映画には、神話的な過去という時間が“現在”の中に流れ込んでいる。“時の二重性”があると指摘されて、とても驚いたことがあります。確かに、『シルビアのいる街で』も過去が現在に重力を与えるという作品になっていますね」

ふたりの追跡劇には街中を走る市電が実に効果的に使われている。ゲリン監督が深く心酔するF・W・ムルナウの「サンライズ」の影響を強く受けているのではないだろうか。

「それはもちろんです。『サンライズ』の市電は、映画史上最も重要なものです。『サンライズ』は愛をめぐる物語ですが、主要人物は3人しか出てきません。ムルナウは、そんな数少ない人間関係を表現するために、セットの中にひとつの街をつくり、路面電車を走らせました。それはすべてを支配できるユートピアであり、その完ぺきな調和のなかで映画を撮れるというのは、映画監督の究極の夢といってよいでしょう。私がストラスブールを選んだのは、中世の街のセットのような雰囲気があったからです。看板やネオンもなく、すべてがそぎ落とされ、路面電車が走っている。そこにエキストラをおけば、街の人たちがいても、物語をつくることができると思いました。もし、この映画に緊張感があるとすれば、それは自分がコントロールしている部分と、それができない偶然の事象との間のせめぎあいが起こっているから。その瞬間をとらえることこそが私の映画なのだと思っています」


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