衝撃作「イエローキッド」で長編劇映画デビューの真利子哲也監督
2010年1月29日 17:34
[映画.com ニュース] これまで、国内外あわせて18の映画祭から招待され、15の賞を受賞してきたインディーズ映画界の雄、真利子哲也監督の長編劇場映画デビュー作「イエローキッド」が今週末より公開となる。黒沢清、阪本順治といった名監督が絶賛する本作は、ボクサー志望の青年が生きる過酷な現実と、マンガ家の妄想を交錯させながら、現代の若者の苛立ちを描いた青春ドラマである。
「映画の中の現実と非現実が混ざっていくイメージをもとに、キャラクターを作って、ストーリーに落とし込んでいった感じです。これまで作ってきた自主映画では、はじめに映像を撮って、それを見ながらストーリーを考えるやり方だったので、人に見せられる脚本を書いたのは今回が初めて。自分の中からわき上がる言葉を紡いでなんとか書き上げましたが、撮影も含め苦労しました」
東京芸大大学院映像研究科の卒業制作として、予算200万円、10日間の撮影で製作された本作。真利子監督は「限られた予算と日程だったので、逆に出来ないことは絶対にやらないと決めて準備を進めた」という。
「例えばボクシングだったら試合シーンは撮りたいけど、もし撮れば他のシーンを縮小するような影響を与えてしまうので、それを撮らないで映画として完成させるという意味では、『レイジング・ブル』の最初のシーンを想像しました。ロバート・デ・ニーロ扮するジェイクがリング上でシャドウボクシングをしているところをスローモーションで撮ったシーンなんですが、あれが僕の中では究極的なボクシングのイメージ。それを自分なりの表現にして一番の見せ場として使いたかったんです」
ベトナム帰還兵を通して70年代の都会の孤独を描いた「タクシードライバー」、大量消費社会を生きる若者の虚無感と怒りを描いた「ファイト・クラブ」といった作品の雰囲気とともに、本作には真利子監督が東京芸大で師事した北野武監督が青年ボクサーの挫折を描いた「キッズ・リターン」の雰囲気も漂う。
「東京芸大の1期生は黒沢清さんが作るような映画を目指す人が多かったんですけど、2期は、その空気が薄れてきて、3期の僕らの頃には、それがまったくなくなったんです。それは尊敬していないということではなく、それぞれが別の方法論で映画を模索したということです。同じ理由で、北野さんの真似をしても意味のないことなので、模倣したわけではないのですが、『キッズ・リターン』は好きな映画の一つですし、東京芸大でボクシングを題材に映画を作る以上、意識した部分もあります」
その北野監督からは、どんなことを教わったのだろうか?
「印象的だったのは『映画をやるんだったら、映画以外で金を稼げ』という言葉ですね(笑)。要するに映画作家として生きていくならば、お金のために映画を作るなということなのだと思います。これは、これからどんなに大きな映画を手掛けることになっても心掛けていきたいです」