「とにかく救われない映画」月 プライアさんの映画レビュー(感想・評価)
とにかく救われない映画
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東日本大震災を題材に本を書いたら売れた宮沢。
だがやがて書けなくなり、障害者施設でパートで働くことになる。
震災を取材に行った時には、汚いものや臭いものも多く見た。
但しそれらをありのままに書くことは編集者が許さず、美化して書いた。
それで書けなくなったのだった。日の当たらない障碍者施設を経験すれば、
また何か書けるのではないかという期待も持っていた。
しかし働いてみると最悪で、職員が利用者に障碍者を振るうこともあった。
また近づくことを禁止されてた部屋に、夜勤時に行くと衝撃の光景を見た。
閉じ込められて糞尿まみれで放置されてる障碍者だった。
一緒に目撃した職員の青年のスイッチが、これで入ってしまった。
心を失った者はもはや人間ではなく、存在する価値などない、
だから施設の260人ほどを全部自分が殺す、と言い出したのだった。
もちろん宮沢らは、それは間違ってるとか色々言って止めようとする。
が、結局予告通り最悪の事件が起こってしまい、ジ・エンド。
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とにもかくにも、救われようのない映画。
上記の悲惨な本筋以外にも、色んなエピソードが描かれる。
同僚で小説家の卵の二階堂ふみの話、売れない映画監督の夫が受賞する話、
夭折した2人の子供は病気で「心を失ってた」話、宮沢がまた妊娠した話、
宮沢が障碍者施設を題材にまた書き始めた話・・・。
が、どれも本筋とはそんなに関係して来ない。
青年は言った。誰かがやらなければならない、これは国のためでもある。
ほとんどの人間は単にラクな選択だから善を選んでるだけであり、
本当は手を下す勇気がなかったり、責任を負いたくないだけ。
確かにその主張自体は鋭い所をついてると思う。
またこの青年の、生きる姿勢自体は素晴らしいと思う。
見てはならないものを見て方向性がおかしくなってしまっただけで、
もともと真面目で一生懸命、思いやりもある優しい人間。
また事件を起こした理由に私利私欲が一切ないだけに、救われない。
心を失った者は本当に人間なのか?難しい問題である。
施設での描写を見てると、心のない人間に存在価値は感じない。
周囲に迷惑をかけるし、本人も暴れたりして苦しんでる。
そのまま存在が消えたらいいのにと思ってしまう。
そして普段から目を向けないようにしてる。
これは、きっとほとんどの人間がそうだろう。
自分が被害を被ってないから、殺そうとまでは思わないし、
また殺すなんて可哀想という気持ちがはたらいてそう行動しないだけ。
この映画を見て、こういう問題が実際にあるであろうことを知った。
でも、これからも目をそらし続けたいと思ってるズルい自分がいる。
とにかく色々と考えさせられる映画。そしてとにかくやるせない。
なるほど、実際に見て来た方のご経験は説得力があります。
誰でも何かのきっかけでその経験をする可能性はありますが、
大半の人は実際に経験することがなく知らないまま。
そういうことって、世の中に多くあるのかも知れません。
各個人が自分の環境で得た経験をどう次に生かすか、
それが最も大事なことなんだと思いました。
私が精神科の病院に入院していたとき、老若男女たくさんの方々が、映画の映像のほどではありませんが、同じような状況に置かれていたのをみてきました。
看護師の言うことを聞かずに暴れてしまう患者が隔離室に入れられたり、認知症かな?と思われる方から臭いが漂ってきたり、夜中に叫び声が聞こえたりとするのはよくあることでした。
だからこそ、手の届く範囲の人々には同じ思いはさせたくない。
自分が幸せだと思った先に残っているのはその感覚です。
だから、せめて身の回りの方々を幸せにしてほしいと私は思います。