ぼくたちの哲学教室

劇場公開日:

ぼくたちの哲学教室

解説

北アイルランド、ベルファストの男子小学校で実施されている哲学の授業を2年間にわたって記録したドキュメンタリー。

北アイルランド紛争によりプロテスタントとカトリックの対立が繰り返されてきたベルファストの街には、現在も「平和の壁」と呼ばれる分離壁が存在する。労働者階級の住宅街に闘争の傷跡が残るアードイン地区のホーリークロス男子小学校では「哲学」が主要科目となっており、「どんな意見にも価値がある」と話すケビン・マカリービー校長の教えのもと、子どもたちは異なる立場の意見に耳を傾けながら自らの思考を整理し、言葉にしていく。宗教的、政治的対立の記憶と分断が残るこの街で、哲学的思考と対話による問題解決を探るケビン校長の挑戦を追う。

アイルランドのドキュメンタリー作家ナーサ・ニ・キアナンと、ベルファスト出身の映画編集者デクラン・マッグラが共同監督を務めた。

2021年製作/102分/G/アイルランド・イギリス・ベルギー・フランス合作
原題:Young Plato
配給:doodler
劇場公開日:2023年5月27日

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(C)Soilsiú Films, Aisling Productions, Clin d'oeil films, Zadig Productions,MMXXI

映画レビュー

4.5善く生きるための授業

2023年9月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

アイルランド、ベルファストの男子小学校の哲学の授業を撮ったドキュメンタリー映画だ。小学生が哲学を学ぶのは早すぎると感じるかもしれないが、ここで教える哲学は頭でっかちな学者が難しい言葉を振り回すようなものではなくて、自ら人生や社会について考える力を身に着けることを目指している。本来、哲学は難しい概念を振り回すことが目的じゃない、本当の哲学の目的は、ソクラテス風に言うと「善く生きること」だ。この小学校の哲学の授業はまさに「善く生きるため」の学びを実践している。
ベルファストは、ケネス・ブラナーの映画でも描かれたようにカトリックとプロテスタントの大きな対立があり、悲劇的な紛争を経験している。いまだに町は分断されており、争いの火種はくすぶっている。そういう町に生きる子どもたちに、争わずに生きる方法を教える一つの方法が、哲学の授業なのだろう。
教育のあり方として見習うべき点が多いのも注目だが、中心的な存在である校長先生ケヴィンさんのキャラクターがいい。エルヴィス・プレスリー好きで筋トレが趣味、地域の顔役のような存在になっていて、誰からも信頼されている。地域と教育のつながりのあり方としても参考になるものがいくつもある。

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杉本穂高

3.5ルイス・キャロルからバズ・ラーマンへ。アイリッシュ魂が受け継がれたドキュメンタリー

2023年6月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

アイルランドのダブリン市街地にあるその男子小学校には校長が直接教える特別な授業がある。
エルヴィス・プレスリーをこよなく愛するスキンヘッドの先生は、子どもたち一人ひとりの瞳を見つめながら哲学を教えている。
では、哲学とは何か。
それは自分に対して問い続けること。正解もなければ結論もない。しばしの思索の過程で子どもたちには気づきがもたらされる。

その行為は是か、非か。
急ぐことなく、慌てることなく、心に問いかけてみる。間を置くと言っても良いかも知れない。湧き上がる怒りの感情に任せて即断せずに、しばしの間考える。殴りかかることは是なのか非なのか。相手を捻じ伏せることで満たされるのは、ちっぽけな自尊心だけではないのか。

キャロル・リード監督の名作『邪魔者は殺せ(けせ)』(1947)では、ベルファストの街を舞台にIRAの男の長い一日が描かれる。アジトでの会合の後、銀行強盗でしくじった男は、銃弾を受けて防空壕に逃げ込む。その後、居場所を求めて右往左往する。ベルファストの街を陰影深い映像に収め、行き場を失った男の心象を見事に掬い取った傑作だ。

「ここには人生のすべてがある」…だから離れたくない。
ケネス・プラナーの『ベルファスト』(2021)で最も心に突き刺さったセリフは、愛してやまない故郷を離れたくないと願う母の願いだった。アイルランド出身のカトリーナ・バルフが演じた母は、子どもたちの未来のためにロンドンへの引っ越しを決意する。諍いで問題が解決することはない。頭では解っていても心は理解しない。今もその連鎖は続いている。

みんなで手を取り合って歩ける世界を夢見ることができれば、それは叶う。
なのに、僕の夢は叶わない。
『僕たちの哲学教室』の前にバズ・ラーマンの『エルヴィス』(2022)を観ておいて本当に良かったと思った。何故ならば、この作品の冒頭と結びに、アイリッシュの血を汲んだエルヴィス・プレスリーの名曲『If I Can Dream』が流れるからだ。

夢見る強い力を持ち、心を解き放てば、僕たちは羽ばたけるはずだ。
目の前で起こる諍いに対して、エルヴィスは初めて自分の言葉を歌った。校長が愛するエルヴィス、その出自は1775年に移民したウィリアム・プレスリーの血を汲む。

人と人がつながり、映画がかくも人をつなぐ。このドキュメンタリーはとても素敵なことを教えてくれる。

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高橋直樹

5.0哲学の授業が子供たちにもたらすものとは?

2023年5月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

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笑える

北アイルランドの首都、ベルファストにある公立学校、ホーリークロス男子小学校で実践されている哲学の授業風景と、背景にある社会的な問題にフォーカスした本ドキュメンタリー。ベルファストと言えばケネス・ブラナーが監督した同名の劇場映画が描いたように、街を分断するカトリック教徒とプロテスタントの長い対立が市民にもたらした悲劇を想起させる。

本作のベースにもそれがあって、子供たちに対して「怒りを怒りで返すことは無意味」と説き続ける先生の切実な願いが、画面を通してひしひしと伝わってくる。哲学教室の担当で校長でもあるケヴィン・マカリーヴィーの教え方は徹底して子供たちの視点に立っていて、「やられたらやり返す」と答える少年と、「そんなこと続けているともっと酷いことになる」と反論する少年とを対話させることによって不戦の意味をじんわりと浸透させていく。そのプロセスが実に微笑ましく感動的で今日的なのだ。

根底にあるユーモアが生々しいテーマをソフトに包んでいる。マカリーヴィー校長はスキンヘッドのエルヴィス・ファンで、鼻歌混じりで学内を歩いている。校長室にはエルヴィスの人形が飾られている。そんな校長を"ボス"と呼ぶ生徒たちは、毎朝、登校時に出迎えてくれる校長と嬉しそうにハグし合っている。厳しい現実と笑いが台頭に渡り合っているところが本作の最大の魅力だ。とにかく、子供たちの笑顔を見ていると、絶対に彼らを守らなくてはいけない。そう思わせるのだ。

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清藤秀人

3.5In a Corner of the UK

2023年5月8日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

Reminded me of the 2002 French documentary To Be and to Have. It follows a schoolmaster and his work educating young Belfast youth to live good lives in what I didn't know were still the rough streets of Belfast, a city that took some Oscar cinema spotlight last year. It's a supplement of slice-of-life existentialism in a corner of modern Western society. The mood-setting soundtrack is on point.

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Dan Knighton