碁盤斬りのレビュー・感想・評価
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愚直で不器用で生きづらそうなのにかっこいい
すごく面白かった!
白石監督なのでアクションを期待されている方にとっては少し物足りないかもしれないけれど、私はその分柳田の静かなる怒りや、不器用に正義を貫く姿が丁寧に描かれていて、大変好みな作品でした。
碁の知識がもっとあれば、クライマックスシーンはもっと面白さがわかったかもなーとは思いつつも、そこまで碁のシーンも多くはないので、碁の知識が無い人でも、作品の魅力は十分に伝わると思う。
ストーリーの元は落語の話をベースに、オリジナルを加えたとのこと。鑑賞後にそれを知って、なるほどと思った。オリジナル要素が入ったからこそ、柳田という人間の解像度がグッと上がったと個人的には思う。
そしてそれを演じた草彅くんがハマり役すぎた。
口数が多いわけではなく、表情もあまり変わらない。けれど自分の信念はしっかりとあって、それを頑なに曲げない。
もっと楽に生きれば良いのに…と思うところも多いけれど、それは彼の信念を曲げることになるのだな…と感じられて、どんな落ちぶれた姿であっても、武士の魂が燃え続ける姿はかっこよかった。
後半にかけて、どんどん感情を露わにしていき怒りに震える姿への変化は素晴らしく、草彅くんの演技の良さって緩急のうまさだよなーと改めて気付かされた。
脇を支える清原果実ちゃんの、純粋で父親思いの娘役もとても魅力的で、國村隼さんの悪人にも善人でも演じ分けできる多彩さにも釘付けだった。
白石作品としては、言葉を選ばずに言うと地味目な作品かもしれないけれど、初時代劇監督作品で、現代で失われている武士の生き様みたいなものを見事に描いた良作だと思った。
かつて談志が「時代に合わない」と評した落語を令和エンタメにチューニング
落語を原案にしているようだが、その内容を知らなかったので、序盤のメイン描写である格之進と源兵衛の関係の変化から楽しんで観ることができた。
源兵衛の胡散臭さを漂わせる登場シーンから一転、格之進とほっこりするような囲碁友達になり、この2人の関係と、江戸の四季折々の街並みや行事風俗が中盤までじっくりと描かれる。リベンジエンターテインメントのはずだが、ここまではむしろ物語もビジュアルも癒しの雰囲気だ。
しかし、格之進の過去の因縁が明らかになった時点からにわかに緊張感が増す。彼は、宿敵柴田兵庫の追跡と消えた50両問題という2つの案件と対峙することになる。
草彅剛は、表情が上手い。正直台詞回しには独特の癖を感じることが多いのだが、ここぞという時に表情で役の気持ちを全て語るような瞬間があり、つい目を奪われる。おだやかな場面での静かな表情と、復讐に心を燃やす厳しい顔つきのコントラストが素晴らしい。
仇の柴田がいる碁会所で、長兵衛(市村正親)に表情で気持ちを伝える場面は白眉。
斎藤工が敵役というのは珍しい気がしたが、格之進に濡れ衣を着せたり、その罪をだしにして彼の妻を手籠めにするなどした卑怯な武士を意外と違和感なく演じていた。ただ、格之進の内部告発で路頭に迷った当事者家族のために探幽の掛け軸を売った(とかいいつつ売ってなかった)という設定で、悪役としての詰めが甘くなってしまった気もした。
個人的には、時代劇で主人公に斬られる悪役は、死んで心置きなくせいせい出来るくらい根っからの悪人である方が好み。それに、土壇場で綺麗事を言われても、でもあんた格之進の奥さんをだまして手籠めにしたよね、と思ってしまう。
50両問題の方は、結果的にはそんな原因で……と膝から崩れ落ちたくなるような顛末だが、徳次郎(音尾琢真)をもうちょっとこらしめてほしかった(笑)。
自分が格之進を疑ってるのに、上司の源兵衛に相談もせず若い弥吉(中川大志)をそそのかして格之進のところに聞きに行かせてさあ……弥吉も弥吉で、格之進が返金してきたからむしろ疑ったのかも知れないけど、無断で大将首まで請け合うってどうなのよ。万屋のホウ・レン・ソウはどうなってるんですか。
そんなツッコミ所はあるものの、全体的なクオリティには安心感があり各キャストの見どころも多い作品だった。終盤、兵庫と囲碁で勝負って殺陣はないの?と思ったらちゃんと殺陣もあって満足。きちんと作られた時代劇を見たという手応えがあった。
ろくでなし男の演技が上手すぎる印象が強かった奥野瑛太が格之進に寄り添う実直な左門を演じているのが新鮮で、いい役者さんだなあと思った。
長屋のシーンに出演した落語家の立川談慶が、本作についてプレジデントオンラインに寄せた記事を読んだ。
原案である人情噺「柳田格之進」を彼の師匠の立川談志は「今の時代に合わない」と言い切り、口演しなかったそうだ。
落語の方の物語には柴田兵庫との因縁に関する部分はなく、生真面目過ぎる性格が災いし主家から放逐されたという設定のみ(演者によるアレンジで細部が変わる場合はある。以下同様)。だから兵庫に感化され掛け軸をもらって流浪の身になるというラストもなく、碁盤を斬り源兵衛たちを許したところで終わる。
源兵衛との関係と50両に関するくだり、誤解が解け碁盤を斬るまでの大筋は落語でもほぼ同じ。弥吉と徳次郎のポジションには徳兵衛という番頭が登場し、この番頭が格之進を疑い、自分で柳田宅に50両について問いに行く。お絹は自ら吉原に身売りし、50両が見つかったら源兵衛たちを斬るよう彼女が格之進に請う。格之進は最終的に主家への帰参が叶う。そんな違いがある。
確かに、武士のメンツの重要性が娘の操や源兵衛たちの命に匹敵するかのような話は、談志の言う通り現代の感覚にはそぐわない気がする。
そこで白石和彌監督は現代の観客が受け入れやすいようアレンジをしたということなのだろうが、その線引きが絶妙だった。
女性の描写に関しては、まず話の主軸を妻の仇討ちに変え、お絹を穢さないようにする。そしてお庚の存在が効いている。彼女が見せる裁量によって落着するラストは、この物語を現代のジェンダー観で見ても受け入れやすいものにしているし、人情噺に自然に馴染む終わり方だ。
一方で、お絹は仇討ちに旅立つ格之進を「しっかり本懐を遂げてください」と潔く送り出すし、頼み事をされても余計な詮索はせず、吉原で泣いたりしない。格之進は源兵衛たちを、ぎりぎりまで本気で斬ろうとする。当時の武士や女たちの矜持を感じることができた。簡単なことのようだが、江戸や明治の人間に現代人でなければ言わないような台詞を安直に言わせる映画やドラマが多すぎるのだ。
物語の構造をアレンジしつつ、落語「柳田格之進」に息づく当時の人々の価値観も大切に描いた白石監督のバランス感覚が光る作品。
草彅剛の持ち味が見事なまでに溶け合った秀作
まずもって草彅剛という人間がいなければこの映画は何も始まらない。彼の内側からにじみ出る穏やかで実直で善良なる部分と、それがひとたび反転するや、瞳に阿修羅のごとき怒りと復讐の炎がほとばしる部分。一人の男の中でこれほど両極端な個性と感情が整合性を持って成立するのか心配にもなるが、この難行を難行に見せることなくナチュラルに成し遂げてしまうのが草彅の持ち味であり、白石監督流の演出の確かさと言えるだろう。時代劇という特殊な領域とはいえ、長屋暮らしの父娘の貧乏なれど心の底までは縛られることのない凛とした暮らしぶりや、國村準演じる質屋が辿る価値観の揺らめきは現代に通じるものがある。正義のあり方をめぐる主人公の葛藤も単純な勧善懲悪の公式では解き明かせない問いかけを伴って深く突き刺さる。要となる囲碁の攻防において、観客がルールを知らずとも演者の表情や雰囲気だけで手にとるように状況が感じられるのも非常に巧い。
物語、演技、演出をおおむね楽しめたが、若干の物足りなさも
ほぼ予備知識なしで鑑賞。所々不満に思う部分はあるものの、おおむね楽しむことができた。藩を追われ食い詰め浪人になった格之進を演じる草彅剛は静から動への振り幅が素晴らしく、ジャニーズ事務所退所後にテレビの仕事が激減するなど彼自身の不遇の時期が役柄に重なるのも感慨深い。格之進の娘・お絹を演じた清原果耶の可憐さ、仇の柴田兵庫役・斎藤工の憎々しさがうまくはまっていたし、國村隼、中川大志、奥野瑛太もそれぞれ持ち味を発揮。白石和彌監督は時代劇のメガホンをとるのは本作が初だそうだが、それを感じさせない安定した演出ぶりだった。
古典落語の「柳田格之進」という人情噺を基に、白石監督とは2019年の「凪待ち」(こちらは香取慎吾が主演だった)でも組んだ加藤正人が脚本を担当。調べてみると、娘とつましく暮らす格之進が、囲碁仲間の両替商・萬屋源兵衛の家を訪れた際になくなった五十両を盗んだと疑われて……というのが元の落語の筋。そして、格之進と兵庫の確執から対決へと向かう筋が映画のために追加された創作パートのようだ。時代劇の目玉である殺陣を見せるため仇討ちの話を挿入したのは理にかなっているが、活劇のボリュームとしてはやや物足りないか。白石監督の美学なのだろうが、漫画で言えば見開き大ゴマの“決め絵”に相当するアクションの一番の見せ場となるであろうショットを、大写しのスローでじっくり見せるとか別アングルで繰り返し見せるといった手法を用いず、さらっと流してしまうのがもったいない。
囲碁を知らない観客への配慮が希薄なのも、物足りなく感じた一因。源兵衛の下で働く弥吉が格之進に囲碁を教わるエピソードをせっかく入れたのだから、あのやり取りの中で囲碁の基本ルールをほんの少しでも示していれば、それ以降の碁盤上での勝負に対する興味が増したはず。主要キャストの顔ぶれから見て比較的若めの観客の動員を期待していると思われるので、囲碁人口を増やす好機にもなりそうだが、果たしてどうなるか。
ガチ過ぎ
失念
清廉潔白を貫く生き様を感じる話
感想
武士が己の正義を生き様として清廉潔白を貫く事は時に周りにいる人々を窮地に陥れる時もある。人と約束するという事が生命を賭した如何に大切なものであるのかを痛感する話。囲碁を通して其々の自己が持つ正義の在り方と生き様が交差し衝突しまた共鳴する。
人の世は不得貧勝を以って動いている事をを知るべきである。囲碁の手である石の下「詰碁の死活」と登場人物の人生模様を物語に掛け合わせ据え置き、人生もまた己の利だけを貪れば必ずその裏を罹れて身を滅ぼしてしまう。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれという江戸期の市井の人情とはどのようなものであったか、さらに貧困の中であっても力強く生きる武士の姿を描くことにより究極の意識である武士の本懐とは何かが克明に描き出されていた。
配役・演出・脚本◎
草彅、市村、國村、小泉、斎藤、清原、中川、各氏の演技について其々の配役の持つ己の正義観とその道の筋というものを理解した上での演技が大変素晴らしく、江戸時代に生きる人の行動や性格表現が明確になされていた。他の出演者の方々の演技も気合いが入っており感動し時代劇の秀作であると感じる。
演出に関しては個人的には本編内、大晦日の吉原の門限に走り逢う場面にもう少しの盛り上がりの演出が欲しかったが全体的によく纏まっていたと感じる。白石監督に関しては大期待作品「十一人の賊軍」が俳優陣の素晴らしい演技にも関わらず作品の構成が今一つ芳しくないと個人的に感じていたが、本作に関しては観遅れてしまい初鑑賞が今となってしまったが鑑賞した後、評価を再び高く見直した。
脚本は素晴らしい出来であり、その時代の気風や武家、町人の心理や気質が大変良く表現されていて没入感が半端なく映像に引き込まれた。劇中に流れるストリングス、ピアノとのマリアージュも美しく印象的であった。
監督 白石和彌
脚本 加藤正人
脚本協力 三浦毎生
音楽 阿部海太郎
柳田格之進 草彅剛
お絹 清原果耶
弥吉 中川大志
梶木左門 奥野瑛太
柴田兵庫 斎藤工
お庚 小泉今日子
横網の長兵衛 市村正親
萬屋源兵衛 國村隼
⭐️4.5
草彅さんの妙な存在感
時代劇のこれからの可能性を感じさせる素晴らしい映画
映像 4.5
演出 4.0
ストーリー 3.5
演技 4
総合 4.0
見ながら「ファントム・スレッド」(映像の豊穣さと流麗さが。特に前半)と「人情紙風船」(長屋の雰囲気や建物や人物造形など)を思い出した。
映像的に、時代劇のこれからの可能性を感じさせる素晴らしい映画でした。
白石和彌監督を見直しました。けっこう映画を見ている人ですね。上に上げた以外にもいろんな映画を思い出す作品でした。以前の作品を(あまり見ていませんが)見直したいと思います。
2回目見てこようと思います。
<2回目>
やはりシナリオが良くない。
後半の話の付け方が無理がある。落語とそれを復讐劇を絡めたシナリオとやはり質が違うのだと思う。後半は、腑に落ちない。
キョンキョンは、助演女優賞ものだね。
話が転調するまでの前半までは、うっとりするぐらい素晴らしい。
後半は、そこそこ見せるが、話がチト乱暴。
草薙剛さんの魅力が堪能できる丁寧に作られた時代劇
落語の「柳田格之進」をベースに作られた時代劇だというので、落語のほうも見ましたが、よく話をふくらませてあって、映画を作るにあたってのストーリー作りをとても丁寧に時間をかけたんだろうなあと感心させられる作品でした。
陥れられて浪人になった柳田格之進の苦悩しながらも武士の誇りを捨てず懸命に生きる姿を、SMAPを辞めて仲間と独自の道を歩み続ける草薙剛さんが演じるとあって、いい作品になっているんだろうという期待しながら見たのですが、期待を裏切らないどころか、スクリーンに登場した草薙さんは、ガリガリに痩せて、食うや食わずの生活をしていることが一見してわかるような「清貧の武士」として登場して、「うわあ」と声を上げてしまうほどでした。草薙さんの全力投球がすばらしい!
ガリガリで心配になる柳田格之進でしたが、居住まいを正して品格ある生き方を貫いており、柳田格之進の喜怒哀楽のひとつひとつの演技に、草薙さんのこれまでの艱難辛苦が反映されているような気がして、「つよぽんも苦労したんだろうなあ」と共感して、格之進を応援しながらストーリーを見守りました。
『碁盤斬り』というタイトルからわかるとおり、囲碁と殺陣の両方が出てくる話で、浪人柳田格之進は囲碁の名手。何を斬るかは見てのお楽しみ! 囲碁のルールが分からない人は「さっぱり意味が分からない、面白くない」という感想も出てくるようですが、最初の方で囲碁のルールが分かるようにさりげなく、説明するシーンがあるので、ざくっとルールが分かってしまえば、最期まで楽しめると思います。
主役がとにもかくにも魅力的で、ストーリーもとてもよく吟味して作られているし、丁寧に作られた時代劇で、これ現場の雰囲気最高だっただろうなというのが伝わってくる良作でした。
日本の時代劇はこうやって志高い人たちによって継承され、今も発展しているんだなあということが感じられて、胸アツな作品でした。
当時の人の考え方?価値観?が釈然としない
疑い
正直過ぎると苦労するということかな。
草薙の演技が冴えた作品。演技派がそろっていて見応えはありました。何を考えているのかよく分からない役が草薙にピッタリだとも思いました。しかし、50両取ったと疑いをかけられて、50両借りて返してまで、娘を女郎屋に出してまでして、敵討ちに旅立ってしまう。昔の武家の人は真っすぐな考えでそうしたかもしれないが、現代人はそうは考えないと思うし、ストーリーになんか矛盾があるような感じでモヤモヤが残りました。斎藤工も腕を切り取られて、叫びもせず、静かに「介錯を願いたい」と申し出るのがまた違和感が残っています。
2024 100本目
正々堂々と
私ゃオセロは分かるが、チェスや将棋は全くと言っていいほどルールすら知らない。ましてや囲碁など。
さらに本作は落語の演目がベース。落語もほとんど縁が無い。
そんなんで本作を見れるのか躊躇したが、作品的には正統派のヒューマン時代劇であった。
一応原作ナシのオリジナル脚本時代劇となっているが、話はベースの落語『柳田格之進』にかなり沿っている。
妻と死に別れ、娘のお絹と共に長屋で貧乏暮らしの柳田格之進。落ちぶれたものの、誇り高い武士の精神は失っていない。
囲碁打ちが好きで、囲碁を通じて商人の萬屋源兵衛と知り合い、囲碁を打つのが何よりの楽しみ。
ある月見の宴の席で、途中厠に立った源兵衛の五十両が紛失。その場に唯一居た格之進が疑われるが、身の潔白を訴える。
源兵衛は格之進を信じるが、手代の弥吉は疑う。
辱しめを受けた格之進は自害しようとするが、お絹が思い留め、吉原でお金を工面。
五十両は用意立てが、もし消えた五十両が見つかった場合、首を差し出せと格之進は約束させる。
格之進が長屋を立ち去った後、源兵衛が厠の最中に無意識の内に隠し置いた五十両が見つかり…。
ここに、本作のオリジナル要素を追加。
格之進父娘が長屋貧乏暮らしなのは格之進の真面目過ぎる性格が災いして…が元の落語演目の設定だが、本作では、
元彦根藩士であった格之進だが、囲碁でもライバルであった柴田兵庫によって身に覚えない罪を着せられ、藩を追われる。浪人になったのも妻の死(柴田に関係を無理強いされ)もこれが原因で…。
ある時旧知の藩士と再会し、濡れ衣が証明され、格之進は柴田に復讐する為旅立つ。
それが五十両事件とほぼ時同じく。
格之進はかつての冤罪事件と五十両紛失嫌疑、武士の誇りを懸けて毅然と立ち向かう。
これによりドラマチックな物語に深みが増した。
訳あり浪人は時代劇の王道。
主人公像もそれに相応しくあってこそ。
実直。穏やか。
その性格は囲碁にも表れ、嘘偽りの無い正々堂々とした対局を心掛けている。
格之進の囲碁はケチ商人だった源兵衛を真っ当な商人に変えたほど。
人情味もあり。度が過ぎるほどの囲碁馬鹿っぷりはよくよく考えたらユーモラスでもある。その一方…
不名誉や納得いかない事に見舞われたら非情にもなる。
真っ直ぐで正々堂々だからこそ、曲がった事は許せない。
嫌疑を掛けた弥吉への憤り。自分をハメた柴田への憎しみと執念。恐ろしさと凄みすら感じた。
世の中にはいるではないか。絶対に怒らせてはいけない人って。
穏やか物静かな雰囲気から、目付きも口調も佇まいも変わる。草彅剛は映画で『ミッドナイトスワン』に続き新たな代表作と名演を魅せた。
囲碁馬鹿の父に呆れながらも責めはしない。不器用な父をしっかり支え、金の工面の為に吉原へ行く意志。善き娘は復讐しようとする父を止めるものだが、私の仇でもある。凛とした美しさと強さ。清原果耶はますます魅力的な女優になっていく。
囲碁を通じて親交を深める國村隼、図らずも嫌疑を描けてしまう中川大志も好助演。
斎藤工が仇で憎々しさを放つ中、ある的を射た一言に唸らされもした。それは嘘ではあったが、格之進の最後のある行動を押す事となり…。
見る順番が逆になってしまったが、白石和彌監督の時代劇としては『十一人の賊軍』よりずっと好み。
撮影・美術・音楽も一級。
確かに話の盛り上がりや見せ場に欠け、少々退屈に思える作風でもあるかもしれないが、本作はチャンバラ時代劇ではない。ヒューマンドラマ時代劇なのである。
しかししっかりと、仇討ちや武士の本懐も貫き、囲碁や落語に通じていなくとも見れる、ツボを抑えた時代劇となっている。
仇を討ち、嫌疑も晴れた。
落語の演目では庇い合う源兵衛と弥吉に打たれ、碁盤を斬って罪を憎んで人を憎まず。高らかに笑うとあるが、映画では晴れ晴れしさを感じ得なかった。
碁盤を斬ったのは、格之進の中で何かを絶ち切ったかのよう。
その後お絹と弥吉の結納の席には出るが、それはあくまで父として娘の幸せを見届ける為。源兵衛が持ち越しの対局をしようとするが、姿を消す。
築いた新たな人間関係も斬り捨て、自身の総てであった囲碁の碁盤を斬ったのがその証し。
あらぬ疑いを掛けられ、自身に罪なくとも失ったものはもう取り戻せない。
自分自身へのけじめ。嘘偽りなく、正々堂々と。
シリアスなんだかコメディなんだかよく分からない、
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