劇場公開日 2023年6月2日

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「怪物は自分たちだった」怪物 saiko *さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5怪物は自分たちだった

2023年6月22日
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鑑賞方法:映画館

まず、是枝監督の作品はやはり面白い。
それから田中裕子さんの実力がすごい。
少しの動きとわずかな表情だけで憎らしく思えたり、苦しさを飲み込んでいるんだなと思わせる。
社会問題を提起する作品だけれど、サスペンス要素が軸となり、交錯した3者の視点で展開する。終始引き込まれて見ごたえがあった。

何が「怪物」であるかという認識は、個人の立場によって大きく異なる。母親であれば学校であったり、教員にとってはモンスターペアレンツだったり。しかし、最終的に私たち自身、つまり「世間」こそが怪物なのではないか。他人の過ちを糾弾し過剰に攻撃を仕掛ける社会が。

このような「怪物」から自身の社会的立場を守るため、教師たちは必死になる。彼らは身を守ろうとするあまり、自らも怪物と化し、その行動はエスカレートしていくのだ。
皆が自分を守るために権力に屈したり、忖度によって嘘をついたりするようになる。
子供の世界であっても同様で、影響力のある側に付くことも、見ない振りをしたり、間違っていると思っていても抗わない術を既に身につけている。

息子に依存する母親、嘘の自供をしてしまう教師、みな自分自身が怪物になっているとは気付かず、むしろ被害者だと思い込み続けている。

子どもたちを犠牲にしてしまったのは、他ならぬ大人たち自身だったのではないか。
人を傷つけ、犠牲にし、怪物と化した自身の行動が。
大人たちも罪悪感を抱え苦悩していたという事実が、せめてもの救いと言えるだろう。

根源は人間の弱さにある。この弱さが保身へと走り、結果として世間の目という形で人を罰する怪物となるのだ。多くの人が、寛容さを失った今の世の中を異様に感じながらも、その流れにただ身を任せている。自分の手を汚していないようでいて、知らず知らず加害者になっているのかもしれない。

saiko *