ヨーロッパ新世紀

劇場公開日:2023年10月14日

ヨーロッパ新世紀

解説・あらすじ

「4ヶ月、3週と2日」などで世界的に高く評価されるルーマニアの名匠クリスティアン・ムンジウが、トランシルバニア地方の小さな村で起こった些細な対立が深刻な紛争へと発展していく様子を通し、多くの火種を抱えた現代ヨーロッパの危うい状況をあぶり出した社会派サスペンス。

出稼ぎ先のドイツで暴力事件を起こし、トランシルバニアの村に帰って来たマティアス。しかし妻との関係は冷えきっており、森で起きた事件をきっかけに口がきけなくなった息子や衰弱した父との関係も上手くいかない。元恋人シーラに心の安らぎを求めるマティアスだったが、シーラが責任者を務める地元の工場がアジアからの外国人労働者を雇ったことをきっかけに、よそ者を異端視する村人との間に不穏な空気が流れはじめる。

2022年・第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品。

2022年製作/127分/G/ルーマニア・フランス・ベルギー合作
原題または英題:R.M.N.
配給:活弁シネマ倶楽部、インターフィルム
劇場公開日:2023年10月14日

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(C)Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022

映画レビュー

4.5 現代グローバル社会の不寛容さ

2023年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

直接的には移民に対する差別、格差の問題など、多くの国で抱える社会問題を描いた作品と言えるが、もっと広く人間は根本的に不寛容さを抱えた存在ではないかと問いかけている。
主幹産業だった炭鉱の閉鎖以来、貧しい状況から抜け出せない村。新しくできたパン工場に補助金目当てで外国人労働者を雇い入れると差別が発生していく。外国人労働者の受け入れが経済的には村の助けになるわけで、合理的に考えれば村の人々にとっても良いことなはず。しかし、人々は経済合理性だけで物事を判断しない。
そうした外国人労働者の追放を訴える集会が教会で開かれる。教会でそんな話し合いをすることに、なんとも言えない気分になる。心の拠り所としての宗教は、時に排他的になる理屈としても機能してしまう。
排他的な村であることは確かだが、それをすべて断罪して終わりにしない作品でもある。よそからやってきたフランスのNGO職員の言葉は正しいが空虚である。複雑なグローバル社会がきしんでいる、機能不全であるとこの映画は描いている。

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杉本穂高

4.5 対立と分断が激化する2020年代の世界との悲痛な共鳴

2023年10月31日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

知的

東欧ルーマニアの村を舞台にした映画だが、欧州各国で深刻さを増す移民・難民をめぐる問題をはじめ、ロシアによるウクライナ侵攻、そしてこの10月に勃発したパレスチナのイスラム組織ハマスとイスラエルの武力衝突など、人種や宗教の違い、利害の不一致、歴史的な不和に根差した対立と分断が激化する今の世界と悲しいくらいに共鳴する。

監督・脚本のクリスティアン・ムンジウが提示してみせるのは、多様性・融和の理想と差別・憎悪の現実という痛ましくも埋めがたいギャップだ。もともとルーマニア人、ハンガリー人、ドイツ人の多民族コミュニティーが危ういバランスで共存してきたトランシルヴァニアの斜陽の村に、パン工場経営者がEUの補助金目当てでスリランカ人労働者を雇い入れたことにより、外国人への反感や憎悪の感情が次第に高まっていく。

不仲な両親のもとから子供が消える点では「ラブレス」、差別をめぐる議論が大きなウェイトを占める点では「ウーマン・トーキング 私たちの選択」、村の閉鎖性と“熊”つながりでは「熊は、いない」といった比較的近年の力作を思い出した。

ラスト1分の畳みかけるような展開が強烈で、黙示的でもある。何かを象徴するような、予言するような幕引きの“その後”を想い続けることが、観客に課された宿題なのかもしれない。

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高森郁哉

4.0 静けさの中、やがて嵐がやってくる

2023年10月31日
PCから投稿

原題「RMN」はルーマニア語でMRIという意味だとか。なるほど本作には年老いた父親が医療施設でMRIを受けるシーンが描かれるし、この映画そのものもまた、現代ヨーロッパの田舎町をめぐって、表層からは窺い知ることのできない内部状況をつぶさに探ろうとする構造を持っている。えてして我々はヨーロッパをひと括りにして考えがちだが、本作からは地方の閉鎖性、外国人への差別意識、EU補助金をめぐるジレンマ、東西格差の問題など、様々なものがマグマのごとく溜まりたまっている様子が伺える。これらを観客に突き付けてただただ嫌な気持ちに浸らせるのでなく、事態が最大風速を迎えるくだりでムンジウ監督があえて固定カメラで長回しに打って出るところなど、我々の理解と映画の魔法とを深く交わらせようとする趣向もまた大きな魅力だ。このような病巣は世界中に溢れている。本作はさながら鏡のような存在であり、かつ現代の寓話とも言えるだろう。

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牛津厚信

3.5 【”弱き民族が更に弱き人たちを差別し、排斥する。”今作は民族間対立の根底に潜む格差と差別意識と狂気を小さなルーマニアの村を舞台に描いた作品である。】

2025年12月13日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

難しい

■出稼ぎ先のドイツで、雇い主からジプシーといわれた事で、暴力で反撃し首になったマティアスがルーマニアの寒村に帰って来る。
 妻アナとの関係は冷え切っていて息子のルディは通学途中の森で”何か“を見て以来、口がきけない。マティアスは、仕方なく元恋人のシーラの元を訪れ、最初は拒絶されるが、直ぐに関係を持つ。
 だが、シーラが責任者を務めるパン工場が、人手不足のためにスリランカ人を二人雇った事から、小さな村に波紋が広がって行くのである。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・冒頭のシーンから、この映画は”民族間対立の根底に潜む格差と差別意識と狂気”を延々と映し出していると言っても、過言ではない。

・マティアスと言う男も、息子ルディに対しては”男らしくあれ!”と接し、猟銃を持ち歩く古い思想の男だが、そのルディがドイツ人に差別されるのである。

・村では医者が”外国人が新しいウイルスを持ち込む”と非科学的な主張を平気で述べるし、民族間対立に全く動こうとしない教会の聖職者の態度も、何とも名状しがたいが、これが現代ヨーロッパの経済的小国ルーマニアの実態なのであろうか。
 村には若者が居ない。皆、海外に出稼ぎに行っているからである。
 そこに、スリランカから最低賃金でパン工場に2人がやって来る。工場長の女性は、それがEUの補助金を得る為と説明をするのである。

■見せ場としては、終盤に村人たちが公民館と思しき所に多数集まり、論戦を交わすシーンである。スリランカ人が作ったパンは食べられないと主張するルーマニア人達。では、彼らを辞めさせたら誰がパンを作るのか、誰も意見を述べないのである。

 ここでは、各人が経済的弱者のルーマニア人や国内で更に少数のハンガリー人達が、更に経済的弱者の言葉の通じないスリランカ人を差別・排斥しようとするのである。
 それは、ヨーロッパでは比較的立場の低い彼らが、更に立場が低い出稼ぎにきた弱者を叩く事で、自分達の優位性を保とうとしているように見えるのである。

 繰り返し書くが、差別・排斥しようとする意見を述べるのは、出稼ぎに行っていない高齢者たちである。
 ”井の中の蛙大海を知らず”の典型的なシーンであるが、この風景がヨーロッパの田舎では、普通なのであろうか・・。
 ー このシーンは、レイシストたちが跳梁跋扈する現代世界を容易に想起させるのである。ー

・ラストシーンも、意味深である。
 父が森の中で縊死したマティアスは、妻と息子が実家に帰り、再び猟銃を持って彼の元を去ったシーラの家を訪れるのである。
 詫びながら逃げるシーラに発砲するマティアスだが、そんな彼を森の中の多数の熊の被り物をした人たちが“幽鬼のように浮かび上がり”彼を見るのだが、彼らはマティアスを襲わないのである。
ー このシーンは、マティアスも”加害者”であるというメタファーであろう。ー

<今作は民族間対立の根底に潜む格差と差別意識と狂気を小さなルーマニアの村を舞台に描いた作品なのである。>

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NOBU