鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー : インタビュー
新田真剣佑は世界を征く “復讐者スカー”役から発展した新たな目標と願望
2001年に「月刊少年ガンガン」で連載開始した「鋼の錬金術師」(著:荒川弘)。言わずと知れた大ヒット作となり、アニメ化・ゲーム化とメディアミックスに発展。2017年には、山田涼介主演・曽利文彦監督で実写映画化された。その実写版「鋼の錬金術師」シリーズの新作が、2部作で連続公開。「鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー」は5月20日、「鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成」が6月24日に封切られる。
「完結編」と銘打たれたとおり、この2作で描かれるのはエド(山田涼介)とアル(水石亜飛夢)の兄弟の旅のクライマックス。かつて母親を錬金術で生き返らそうとしたふたりは、エドが右腕と左足、アルが体全てを失ってしまった(エドが自身の右腕を対価にアルの魂を鎧に定着)。自分たちの体を取り戻すために「賢者の石」を探す過程で、様々な試練に見舞われる兄弟。やがて、国全体を巻き込んだ巨大な陰謀に巻き込まれていく。
完結編では、キング・ブラッドレイ(舘ひろし)やお父様(内野聖陽。ヴァン・ホーエンハイム役と兼任)といった強力なキャラクターに加え、凄絶な運命を背負った“傷の男”・復讐者スカーも登場。タイトルにも入っている通り、物語の一翼を担うキーキャラクターであり、“原作勢”のファンも多い。実写化するにあたってその役目を託されたのが、「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」での熱演が記憶に新しい新田真剣佑だ。
スカーはただならぬ雰囲気を醸し出すも、極端に無口な男。佇まいで魅せる必要性が生じる役に関して「毎回頑張りますが、佇まいは本当に難しい。何もしていない時の姿で語れるようになったら一人前ですよね。『スカーがそこにいる』と思える状態になればと願いながら演じていました」と語る。
「カッコいい悪役には必ず“弱み”があって、過去の出来事で心に傷を負っていると思います。そういった意味では(『るろうに剣心』で演じた)縁(えにし)にも似ているかもしれませんね。だからこそ、魅力的なキャラクターになる。表情ひとつとっても、その過去があるからにじみ出てくるものがありますし。主人公側から見たら敵役かもしれませんが、ただの悪じゃない。見る角度を変えれば信念を貫こうとしていますし、全く違う世界がそこに広がっている」
なお原作内では、スカーは主人公のエドに明確な「死のイメージ」を植え付ける存在。まさに宿敵といえるが、エド役の山田とは「最初こそ『何かあれば言ってください』とお話ししましたが、それ以降はお互いのプランでぶつかり合っていった」そう。「最初の共演シーンがバチバチに戦うシーンだったので、そこで一気につかめた気がします。関係性や空気感をつかむまでどうしても時間がかかってしまうものですが、今回は最初が対決だったからこそスムーズに入り込めました」と振り返る。
スカーの戦闘スタイルは実に荒々しく、「破壊の右腕」で敵の顔面にアイアンクローを食らわせてから粉砕する。この表現では、VFXと生身の動きを融合させていかねばならない。そこで効いてきたのが、曽利監督との密なコミュニケーションだ。
「曽利監督とは角度や構え方含め、普段しない話をたくさんできて楽しかったです。今回は、過去に経験したことがないくらいのスケールでCGが駆使される作品。どうしてもグリーンバックしかない状態で演じるとなると難しさが生じますが、曽利監督のコンセプトは非常に明確でわかりやすく、おかげですごく演じやすかった。『こういう映像にします』『こういう風に見えます』というイメージ映像を作って来てくれるんです。それを見て監督の頭の中にあるイメージを理解して『じゃあこんな動きですね』と話し合いながら作っていきました」
このエピソードに象徴されるように、イメージの共有作業のうえで、新田がアクション部分をアップデートしていくこともしばしば。当日にワイヤーアクションに切り替えることもあったという。「やっぱり、自分でできるのであればCGに頼りたくない。みんなが大変になりますし、僕の部分でまかなえたら最高じゃないですか。なかなか当日にそうなることはないしスタッフの皆さんに気を遣っていただきましたが、『できます』と伝えました。やれなかったらちゃんとそう言いますが、できるから言った。それだけです」とさらりと言ってのけるのが新田らしい。
なお、このインタビューが実施されたのは新田が海を渡り、海外を俳優活動の拠点にする前のタイミング。撮影順は前後するが、公開・配信順は「鋼の錬金術師」の後に主演を務めた「聖闘士星矢」の実写映画「Knights of the Zodiac(原題)」、ロロノア・ゾロ役を務めたNetflix実写ドラマ「ONE PIECE」と続く。
「いまは日本の作品が注目されているものすごくいいタイミングだと思います。『シャン・チー テン・リングスの伝説』もそうですが、アジア人が主役の作品が大ヒットするというこれまでだったらあり得なかった認められ方をしている。その流れのなか、日本の漫画やアニメ作品を実写化するならいまが絶好機だと思います。その波に乗れるか、乗れないか。僕には『●●(人物、作品)を目指す』というゴールはなく、あくまで僕自身がどこまでいけるかで考えています。自分が何十年後に目標とされるような人物になれたらというのが、いまの新たな目標です」
とはいえ孤軍奮闘ではなく、前回の渡航前には「綾野剛さんが見送りに来てくれました。自分にとってお兄ちゃんのような存在です」とほほ笑む新田。「日本でこれができるのは曽利監督だけじゃないでしょうか。現場でもそのすごさをひしひしと感じました」という「鋼の錬金術師」を“置き土産”に、新田の世界を征(ゆ)く者としての旅路が始まる。
「アメリカといえば、やっぱりアメコミ。『アンブレラ・アカデミー』が大好きなので、ゆくゆくはアメコミ作品で超能力者を演じられたらという願望があります。『ストレンジャー・シングス』もそうですが、超能力を持った子どもが隔離されて……という設定になぜか惹かれるんです」
(取材・文/SYO)