「親子の複雑な心情に遅いかかるモンスター」ハッチング 孵化 悶さんの映画レビュー(感想・評価)
親子の複雑な心情に遅いかかるモンスター
【鑑賞のきっかけ】
ネット上で、高評価されているのを発見して、動画配信可能であったことから、早速、視聴してみることとしました。
【率直な感想】
<思いがけない形態のモンスター>
日本ではあまり見かけない、フィンランド製の映画。
ごく普通の両親と子ども二人(少年と少女)の4人家族。
主人公の少女が、ある日、森の中で卵を発見し、自宅に持ち帰り、寝室で温めていると、題名のとおり、「孵化」してしまう。
この作品で大きな興味を引くのが、どんな形態の生物が誕生するかなのですが、割と早い段階で、卵の殻を破って、その生物は誕生します。
瀕死のカラスの近くに転がっていた卵なので、その視点で見てみると、誕生直後は、鳥のようにも思われます。
しかし、次第に姿を変えていき・・・その形態の変化は、私は全く予想していなかったものでした。
そして、ホラー作品ですので、その生物は人間を襲うようになっていくのですが、ラストは、またもや、想像していたものとは全く違う展開となっており、大変に驚かされました。
印象的なワンシーンで終了し、エンドロールが流れ始めると、これから、この一家はどうなっていくのだろうか、という疑問符がずっと頭から離れない、そんな余韻を残すラストでした。
<モンスターは、親子の複雑な心情に侵入してくる>
鑑賞後に、作品を振り返ってみると、その顔立ちが、少女は母親似であり、少年は父親似であることに気づかされます。
特に、少女と母親については、劇中で他人から、よく似ていることを指摘されるシーンがありました。
現実の世界でもよくあると思うのですが、親は顔立ちの似ている子どもの方を可愛がる傾向があると思います。
本作品では、母親は少女を可愛がり、父親は少年を可愛がっている様子が窺えます。
ただ、可愛さゆえの厳しさもあり、母親は少女を床運動の選手に育てようと、必死です。
ところが、少女は、今ひとつ、母親の期待に応えられないでいます。
そんな日々を送る中、少女は、卵から帰った生物を母親にも内緒で育てていきます。
本作品は、ホラー映画独特の残虐な描写もないですし、その生物自体も、恐怖を感じるようなものではありません。
では、どこが、「ホラー」なのかというと、「可愛さゆえの厳しさ」という人間の親子独特の複雑な心情の隙を突いて、その生物が襲ってくるからだと私は考えています。
【全体評価】
ホラーとしては、おとなしめの描写であるにも関わらず、親子間の複雑な心情に侵入してくるモンスターの怖さが、鑑賞後にじわりと伝わってくる良作と感じました。