劇場公開日 2022年4月15日

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ハッチング 孵化 : 特集

2022年4月8日更新

幸せ家族をアピールする母が怖い!
抑圧された娘の狂気が加速する、美しく恐ろしい北欧ホラー

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話題の映画を月会費なしで自宅でいち早く鑑賞できるVODサービス「シネマ映画.com」。本日4月8日から10日まで、ホラー映画専門の動画配信サービス「OSOREZONE (オソレゾーン)」セレクト作品「ハッチング 孵化」が3日間限定で劇場公開直前プレミア上映されます。

新鋭女性監督ハンナ・ベルイホルムの長編デビュー作で、長女が見つけた謎の卵の孵化をきっかけに起こる恐ろしい事件により、家族の真の姿が浮き彫りになっていく様を描いたフィンランド製ホラー。明るく美しいビジュアルとは裏腹に、主人公の少女が抱える闇、誰が見てもうらやむような家族の秘密が恐ろしい異色作です。このほど、映画.com編集部が見どころを語り合いました。

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ハッチング 孵化(ハンナ・ベルイホルム監督/2021年製作/91分/PG12/フィンランド)

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<あらすじ>

北欧フィンランドで家族と暮らす12歳の少女ティンヤ。完璧で幸せな家族の動画を世界へ発信することに夢中な母を喜ばせるため、すべてを我慢し自分を抑えるようになった彼女は、体操の大会優勝を目指す日々を送っていた。ある夜、ティンヤは森で奇妙な卵を見つける。ティンヤが家族には内緒で、自分のベッドで温め続けた卵は、やがて大きくなり、遂には孵化する。卵から生まれた「それ」は、幸福に見える家族の仮面を剥ぎ取っていく。


座談会参加メンバー

和田隆、荒木理絵、ドーナツかじり、今田カミーユ

■幸せそうな家族、美しい北欧の景色の中で繰り広げられる少女の狂気

和田 本作はフィンランドの女性監督によるホラーですね。幸せそうな家族や美しい北欧の景色などとの対比、そして無垢な少女の狂気に背筋が凍りました。皆さんはいかがでしたか?

荒木 さすがメタルの国フィンランド……と思いました。少女の心の闇をここまでド直球で描いてくれたホラー映画は久々に見た気がします。画作りがとても美しいですね。

今田 鑑賞前に見たポスターや場面写真のビジュアルのインパクトに惹かれました。かわいく美しいのに恐ろしいという……鑑賞後、そのイメージを超える、あのような展開になるとは思いませんでした…。

ドーナツ とても美しく洗練された家なのですが、少女趣味すぎて、完璧に整えられ過ぎていて、居心地の悪さを感じさせますよね……! そして完璧な家にカラスが迷いこむ……という不穏な展開になるのが、予想よりもかなり早かったです。

和田 なるほど、まず、ビジュアルの美しさやかわいらしさは皆さん共通に挙げられていますね。ネタバレしない範囲で、この作品はいわゆる少女の通過儀礼の物語として捉えて良いのでしょうか? 

荒木 かなり記号化されてはいますけど、少女だけでなく、誰もが抱えている「本当の自分」と「理想の自分」の葛藤の物語だなぁと思いました。特に子どもの頃はこういう悩み、抱えがちですよね。

■それは愛情か? 自分だけの幸せを追い求める歪んだ母が怖い
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和田 私は母親も恐ろしかったです……。

荒木 冒頭からかなり明確に母親の歪みがあらわになりますよね。構造はとても分かりやすいけど、細かな描写にも「闇」が紛れ込んでいて上手いな…!って感じました。

今田 いわゆる毒母ものですよね。母の狂気も子どもじみているので、彼女も不幸な少女時代を送って、自分の願望を今の家族を使って果たしているのかなとも思いました。欲しかった幸せをああいった形で満たそうとする姿がつらかったです。負の連鎖でしょうね。

ドーナツ 自分が愛情を注いで幸せにするのではなく、自分の思い通りに動いてくれて、幸せを与えてくれる人を探しているようなスタンスでしたよね。

荒木 自分が一番大事で、自分を幸せにしてくれる道具くらいにしか他者を見られないんですよねぇ。程度の差はあれど、ああいう人はざらにいますね……そして抑圧されるのは子どもや、優しい人たちで……

ドーナツ 本当に、意外とこういう人いるよなぁ……と感じられることも恐ろしいですよね!

荒木 母が、娘を共犯にして自分の罪をごまかすシーンがツラかったです……!大人ってああいう振る舞いするんだよ!って、私も子ども心に戻っちゃいました……。

ドーナツ あのあっけらかんと秘密を背負わせるシーン、イヤですよね……。板挟みになって、ますますティンヤの苦悩は深くなっていきます。体操の練習のし過ぎでできた血マメや、母の秘密を知り溢れる涙など、彼女の痛みに卵が反応していたのも、後々つながってきますよね。

和田 表面上の幸せや明るさの裏に潜む「歪み」や「闇」、そして「抑圧」が徐々に見えてきますね。

ドーナツ 母もかつてアイススケートの選手だったことなども語っていますし、バックグラウンドなどを想像すると、より深く読み解けるのかもしれませんね!

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■母娘だけではなく、父と息子も……

荒木 基本は母と娘の話ですが、父と息子も実はだいぶ歪んでいましたね……

和田 ある意味、父の物わかりの良さ、やさしさも変な恐ろしさがありましたw

ドーナツ 事なかれ主義の父と、ティンヤ以上に愛情に飢えている弟も不気味で……。弟はティンヤに、ティンヤは“ある人物”の子に嫉妬しているという構図も見えてきました。母も、例えば弟の寝かしつけを早々にティンヤに任せたり、弟のハグをやんわり拒否したりと、愛情の欠如が随所に見られますよね。

今田 父も、母(妻)のヤバさを見て見ぬふりしてますよね。父が、ある人物に対して、男としての敗北感をぐっと呑み、良き家庭人であることで自分の居場所や権威を保とうとする姿が不憫で。心優しき文化系男性と、サバイバル能力高いセクシーな男性との位置関係から、弱肉強食の世界を見た気がしました……。幸せな家族という枠や言葉にとらわれて、みんなが本音を隠しています。

和田 確かに、夫と真逆の魅力を持った男に恋しますからね。そして父も息子も同じような眼鏡をかけているという……w

ドーナツ 双子のように見える瞬間があり、ますます不気味でした……

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■1200人のオーディションから選ばれた主演のシーリ・ソラリンナに注目!

和田 1200人のオーディションから選ばれたという主演のシーリ・ソラリンナの演技も見どころだと思います!

今田 エル・ファニング系の美少女でしたね。家族の中で板挟みになる長女の内面を豊かに表現していて、今後の活躍も期待したいですね。

荒木 見るからに完璧な女の子、という感じですが、ちょっとしたときに見せる傷ついた表情とか、葛藤して苦しむ様子が生々しく素晴らしかったです。

ドーナツ シーリさん、演技力の高さを見せつけていますよね。狂気的に叫ぶ激しい“動”の演技はもちろん、母の顔色を窺い、その期待に押しつぶされていく“静”の演技も素晴らしかったです。体操も軽々とこなしていますし、逸材ですよね。

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■国民幸福度が高いことで知られる北欧から、傑作ホラー作品が生まれる理由は?

和田 フィンランドって、表向きには見えない何か抑圧されたものがあるのでしょうか?

荒木 国民の幸福度の高さで有名な国、ってイメージですが、反面でヘヴィメタルの国でもありますからw 雪に覆われ夜も短く、闇を抱えがちなのかもしれません。昔北欧のメタルバンドが「こっちじゃ自殺するかメタルバンドやるかしか若者に選択肢はねぇんだよ」みたいなこと言ってたの思い出しました。

ドーナツ それこそ母が夢中になっているSNSと一緒で、表向き、ネガティブな感情は受容されなかったりするのでしょうか。

今田 確か、この映画の設定もキラキラとした太陽や自然が美しい春夏でしたよね?

ドーナツ 家族の装いから、恐らく春夏シーズンではと思います!

和田 何かが違う違和感というか、違ってくる恐ろしさでいうと、近年では、スウェーデンを舞台にした「ミッドサマー」がありました。北欧から良質なホラーが出てきていますね。

荒木 どちらも内面から湧き上がるような恐怖ですよね。この作品はもっとわかりやすく、ベタなホラー描写も出てきたりして、そこも好感持ちました。

ドーナツ ポスターや予告編などのビジュアルが秀逸、という点でも共通していますね。

荒木 ビジュアルが本当にいいんですよね。グロ過ぎたり、陳腐になりがちな部分もうまく表現されていてお見事でした。

今田 ホラーではありますがビジュアルが美しいので、これまで敬遠していた方も楽しめそうですよね。ドーナツさんは、ホラーやグロ描写が苦手だそうですが、大丈夫でしたか?

ドーナツ はい、ホラー・グロは苦手なのですが、ポスターなどの宣伝ビジュアルの美しさから、「見たい!」が勝ってしまって、勇気を出して見てみました。実際グロ描写がきつ過ぎず、ちょうど良い塩梅で。ビジュアルの力なのか、どこか幻想的に見える瞬間もあったので、グロ苦手な方にもおすすめしたい作品です!

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