PLAN 75のレビュー・感想・評価
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映画ならではの作品を久々に観ました。
戦争の足音が気になる今だから
介護保険制度が始まって20年が過ぎ、介護費用の高騰が報じられています 私はこういった施設に勤めていますが、入所施設なら一人の要介護者にかかる介護費用が月25万、定員100人なら月2500万、年3億、1割の自己負担を差し引いて毎年2.7億円が100人の要介護者の介護費用として介護保険から振り込まれ、その多くは40名のスタッフの人件費となります 2.7億円の半分は税金、半分は40才以上の方が納めている保険料が原資です 軍事予算を増やしたい人は、こういった費用が税金から賄われることを「もったいない」ときっと思っているでしょう そんなお金があれば「兵器」が買えるわけですから
営利目的で多くの事業者が「介護」に参入してきて、本編でもありましたが保証人を確保できない住宅に困窮している高齢者にアパートを与え、食事(弁当)を与え、生活保護を申請させて、医療づけ・介護づけにして月50~60万を一人の要介護者から稼ぎ出す事業者も蔓延っています こういった「不正」事業者の存在が、障がいや高齢者福祉の「切捨て」の口実となり、その延長線上に「自分の生死は自分で決める」とさも個人を尊重しているかのような、この「PLAN75」に近い発想が権力者から生まれてくる気がします
倍賞さんのあの声は、寅さんを始め松竹映画で昔から聞きなれていて、どのような逆境にも胸を張る、そういった姿を思います どんなに寂しくても、頼れなくても、最後の場面施設から飛び出して歌う姿は、私たちの知っている倍賞さんそのものでした
私のまわりの施設でも介護職としてインドネシアやフィリピンから働きに来ている女性がたくさんいます こういった外国の人たちに、私たち自身の老後を託さなければならない現実がある一方、「国の方針を忠実に実行する公務員」「優しい言葉を使って寂しい高齢者を操る事業者」もいるわけですが、倍賞さん・磯村さん・河合さん演じる人物がそれが誤りであることに気づく姿に、希望を持ちました 皆さんおっしゃる通り、私が観た劇場も高齢者の方がほとんどで、時代劇以外でこういった方々が映画館に足を運んでくれるのは嬉しい一方、強い衝撃を受けられたでしょうね
(6月23日 MOVIX京都 にて鑑賞)
直球のヘビー級
身につまされますね
同調圧力
同調圧力が強い日本の様な国だと、「PLAN75に申し込まないなんて、図々しい老人だ」「こんなんなっても、まだ生きたいのか?」とか言われそうです。障害者にも同調圧力がかけられそうですよね。
戦争中、「お国の為に死にます」と無理やり言わされていた人も少なくなかったと思うので、全員が全員本人の意思だけでPLAN75に申し込みをするかは分かりません。腐敗した行政が主導だと、中抜きやPLAN75への誘導ノルマがありそうですし、なかなか辛い社会になりそうだと想像しました。
私はずっと老人になったら安楽死したいと思ってましたが、そう簡単ではないかもしれません。また、見送る側も普通ではいられなさそうです。
「わたしを離さないで」を思い出してしまいました。
自己責任論の行き過ぎた世界
構成もキャスティングも上手く、おそらく作り手の狙い通り、腹立たしく感情を誘導されてきました。
公的安楽死、自殺推進のお話。
古今東西、『ソイレント・グリーン』『ハッピーエンドの選び方』など、過去に安楽死やディストピアを扱った映画はあるけども、これは日本に蔓延る「自己責任論」の行き着く、邦画らしい映画に仕上がっていました。
描かれているのは「いずれ自分が老いる」ことが想像できない、自分は生き残る側と勘違いした人々が作り出しそうな未来。
若者と老人とで分断された世界。
そこには、人間に対する敬意、尊厳といったものは存在せず、効率だけを目指し、「国のために国民はあるべき」といった戦前までの思想が、観客に感じ取られるように表現されていました。
また同時に、多くの老人たちが口にする「他人や子供たちの負担になりたくない」「迷惑をかけるのは恥ずかしい」という考え方もまた反映されているように見えました。
そして、日本人には割と多い、親方日の丸・お上への追随精神、「政府が何かやれと言ったら、やらなければならない」という考え方。
同調圧力の強い村社会の中で、「出る杭は打たれる」にならないよう、目立たないよう、大勢(たいせい)に流される生き方を望むうち、自滅していく。
そんな日本人の在り方をありのまま描くことで、不快感を喚起し、「それでいいのか?」と問題提起しているので、当然不愉快に感じるのです。
映画が作られた背景には、間違いなく高齢者施設での虐待事件や、障害者施設における大量殺人事件があるのでしょう。
しかし、人は死ぬまで生きるために、生きているもの。
本来なら、「生きていたくない」「生きづらい」世の中を作らないことこそが肝要。
生きづらさは「いつか我が身」になります。
年寄りの生きにくい世の中は、子どもや若者にも生きにくい。
そんな世の中でいいのか?
という問いかけ。
「政府や役所の人間が、産業廃棄物業者とつるんで、遺品を売ってキックバックを受けている」
「『老人が死ぬ気を無くさないよう』コールセンターで働く若者にマニュアルを渡し、教え、彼らの給料を中抜きする派遣業者の存在」
「老人殺し事業が、3年で1兆円超規模の一大産業になったので、75から65に拡大の案が進行」
などを匂わせるシーンやセリフが挿入されていて、監督の世の中への不信感が随所に滲み出ていました(是枝さんの影響が大きいのだろうなぁ)。
「きっと映画の世界で法律を通した政治家は75歳以上だけども、絶対にPLAN 75は利用しないのだろう」と想像しながら劇場を後にしました。
この映画に同調して、自分もこんな制度があったら利用したいと思った方は、深呼吸して心に余裕が必要です。
落ちついて。
生きていくことは、結局誰かの力を借りて(貴方の力も貸して)みっともなく迷惑をかけていくことですから。
歳を取るのは素敵なことです。
身体のガタは、頑張ってきた証です。
恥ずかしくはないのです。
私は若者でも老人でもない、若者でも老人でもある中年のオッさんですから。
その両方だ。
狭間だからこそ見えることもある。
「老後」という概念が崩れた社会
75歳以上になったら、自分で死を選べるという制度が導入された世界を描いた本作。
カンヌでも高く評価されており、初週から平日でもまあまあ入っている。劇場数も多くないからというのもあるが、より身近に感じる人も多く、かなり注目作であるのは間違いない。
本作は、静かに淡々と話が進んでいく。大衆向けとは言い難く、映像もセリフもかなり抽出している感じがする。倍賞千恵子さんの演技が秀逸で、ミチという女性の真っ直ぐさで純粋な様を表現している。
磯村勇斗演じる役所のPLAN75担当の岡部や、河合優実演じるコールセンターの成宮を通して、若年世代がこのプランを通して命をどう見るか、と言う点もシンプルによく描かれている。特にこの役所のPLAN75担当の岡部と、たかお鷹さん演じる叔父の関係性が、絶妙である。
マリア(ステファニー・アリアン)と言う役どころもまた近未来を想定したような設定で絶妙である。
娘の命を救うためにより収入の良いPLAN 75の最期の施設で働くことになるのだが、命を救うために、命の終わりの後始末をしているという立ち位置はなかなか巧妙である。
本作は、割と観る側に委ねられていると思う。映画を通して、我々は映画の世界を観ているのではなく、自然と自分とその家族を想像してしまう。多分、観た人全員そうだと思う。
あとは、「老後」という概念がもはや崩れている社会を描いている。70歳を越えても働かなければならない人たちが多くいて、自然と働く意志が芽生えている。ここに、社会の需要と供給のアンバランスが生じている点も描いている。
平均寿命が延び、人生100年時代なんて言われているが、それはもうデメリットの方が大きくなっている日本社会。それに対応する社会システムがあまりにも脆弱であることをこの作品を通して感じてしまう。
命の選択。見せかけだけは良く振舞ってるこの国ではそんな法案が到底通るとは思ってないが、我々は自然と自分の命の終わり時を選ぶ時がくるのではないかと思う。
1点だけちょっと雑だなと思った点は、コールセンターのマニュアルでは顧客とバれないから直接会うというのは100%不可能なので(振り込め詐欺のセンターとかならまだしも、政府から委託されてるようなセンターでは全部録音されている)、あそこはコールセンター業の専門家の意見を入れてほしかったかな。
あくまであり得ないフィクションだという前提
フィクションだと解っていても、見るかどうするか迷ってしまった。悲しく辛いものを感じることがわかっていたからだ。
この映画は、ブレードランナーのような近未来的設定演出で撮ることも出来たはずだが、あたかも現代の日本でこういう制度がスタートしたら、というドラマになっている。恐らく高齢化問題解決策の愚かな例を描きたかったわけではなく、そういう設定を通して見える、人との繋がりや距離感、そこで生まれる感情、価値観に気付く瞬間などを表現したかったのかなと思う。
個人的には余計な説明や表現が削ぎ落とされ、情景や設定、表情から読み取らせるこの描き方が見やすかったように思う。やはり賠償千恵子さん、素晴らしい。あの表情と歩く姿で語り尽くしている。それでいて発する声が全く衰えておらず、滑舌もはっきりしているところは普通のお婆さんではない!だからこそ、まだ頑張れるんじゃない?と思えるのかもしれない。
親には見せたくない作品だなあ、と苦笑しつつ非常に難しい設定を作品にした勇気に拍手したいと思う。
人間の尊厳について考えさせられる
日本ではタブー視されている安楽死。そこに踏み込んだ作品。
高齢を理由うに仕事ができなくなる、住む場所も無くなっていく。
そんな希望を断たれた上で得られる、生死を選択する権利。
なんと残酷な権利なのだろう。
また主演の倍賞千恵子がとにかくすごい。
80歳だというのに立ち姿も美しく言葉もすっと出る。しっかりとおばあちゃんなのは間違い無いのだが、どこか瑞々しさすら感じる。
しかしながら先のない芝居はものすごく寂しく、その空気は終始重い。音楽もとても良く作用していた。
そんな中、磯村勇斗や河合優実の立ち位置は良かった。
深く考えず流されている若者を作り、「本当に良いのだろうか?」という光を示していた。
ラストはどちらとも取れる描き方で、観るものに委ねられるというより、作品の中のように選択を問われている気がしてならなかったです。
人間の尊厳について、改めて考えさせられた作品でした。
柴又帝釈天の団子やの女将であればこういう最期は迎えない
カンヌでの受賞とか新人監督、多国籍出資、倍賞千恵子さん主演で高齢者の安楽死問題を扱っているなど気になる情報が入って来てしょうがないので公開初日に行ってしまった。ある程度想像していたとおりの映画でちょっと残念な部分が多かった。まず冒頭の前ピンでぼやぼやの長いフィックスがかなり異様でただものでない感が満載なのだが進むにつれて同様のカットが多くこれは撮影の浦田秀穂氏の趣味なのだろうかと思ったりどちらかというと予算の事情で全部描かずとも行間で感じさせる手法であるのかなと思うと一気に学生映画っぽく見えて興ざめやるせなさが募る。倍賞千恵子が素晴らしい。というか彼女でなければ成立しなかったであろう。日本の超高齢化問題と安楽死の是非、そこがテーマであるかのうように見せかけて避けてしまっているので肩すかしをくらわされて監督の若さゆえの視点の違いに戸惑う。中学生の時に観た「ソイレント・グリーン」を想起する。安楽死施設はもっともっと極楽浄土でなければ…こんな野戦病院みたいな寒々しく暗い施設で誰が安心して死ねるものか。もっと暴れあがく数人がいてしかるべし。75歳で死を選ぶ権利が与えられるというテーマに迫るべきなのに、葬り方埋葬の仕方がひどいとか遺品処理のスタッフがひどいとか、コールセンターのトークマニュアルがねぇとか本筋と外れた部分でばかりこの制度を貶める台本にあきれました。
前向きに利用する❓
何が正解なのか…?自身の死生観と向き合う作品
75歳以上が自ら死を選べる制度が施行されている日本の近未来を通して、観客に“死生観”を問う問題作。
2016年、相模原で起きた障害者施設殺傷事件に着想を得て作られた作品だとか
次々と襲いかかる老後の問題、厳しい社会と冷酷な行政…。倍賞千恵子演じる主人公の姿は他人事ではなく、40年の自分の姿かもしれない。そう思うと想像するだけで心が憂鬱に。
キャストがいいよね。倍賞千恵子と河合優実の邂逅、電話のやりとりに心が揺さぶられる。
磯村勇斗とオジとの関係性も…。
華やかなエンタメ映画が話題の中、本作のような静かに暗く、じんわりと沁みる、ある種問題作がかなり新鮮。
“自分ならどうする?”を突きつけられる、死生観と向き合う作品。
良かったのはテーマだけ
あえて書きます。
とても大切なテーマで 大事にしてほしかったテーマだけど、 何でもっとストレートに素直に作れなかったのか。
もっとストレートに、こういう法律が成立して それはこういう流れで、そのなかでこういう戸惑いを感じる人がいて…。と構成してほしかった。
私の好みとかでなく今どういう流れなのと こちらで理解しようとしないと分からない場面がいくつかあった。
なおかつそこに(間に)挟んだ 少なくないワンシーンたち(ボーリングで若者と喜ぶシーンとか路上の女の子を見つめて手を振るシーンとかとかのエピソードぽいやつなど)が邪魔。
流れを遮断している。 必要ない。
そして、ここでのテーマ
「高齢では生きにくい今の世の中」
「政府も負担になっている高齢者対策」 を、もっと全面に出してほしかった。
最後の展開。そして光を背に浴びた山々の風景は何を意味する?
「生」への期待か?
「生きる喜び」か?
「プラン75」の意味するものじゃないだろ、と言いたい。
命あっての物種
「PHP蛭子能収さん」
これが『一億総活躍社会』の現実か
よくぞこんな問題作を作られたという気持ちでいっぱいです。
内容からして賛否両論は確実。カンヌでカメラドール特別賞を得た今作ですが、恐らくは観た方の中には「こんなのが日本の現状と思われたら堪らない」「高齢者へのリスペクトもないのが今の日本なのか」などという気持ちを持たれる方もいるかもしれません。
それが本来抱くべき正常な気持ちだと思います。
『PLAN75』という仕組みはフィクションです。
しかし、今の日本の高齢者で単身&低所得の方については、実際にこんな生活を送られている方が大半かと。
年金だけじゃ生きていけない。
けれど、高齢者なので(健康面でのリスクが高いので)仕事がもらえない。
生活保護も受給出来ない。
そうこうしているうちに、賃貸の更新時期が来る。
収入もなく、身寄りもないので、更新を断られる。
住む場所すらなくなる。
たまに立ち寄る炊き出しだけが頼みの綱。
恐らくは『PLAN75』というシステム自体が取り沙汰されそうな今作ですが、それ以上に現在の『一億総活躍社会』の矛盾を浮き彫りにさせた貴重な作品でもあります。
なお、これべつに75歳以上の方に限った話じゃないんですよね。
他者との絆もお金もない人生。
改めて、人との繋がりやお金を大切にして生きることの意味を学んだ映画でした。
良作。今のところの今年ベスト。
優しさの仮面の下
本作は早川千絵監督長編デビュー作という事らしいですが、間違いなく名作だと思えるが好き嫌いは結構分かれると思える非常に厳しい内容の作品でした。
テーマ自体は今までにも似たような作品は沢山思い浮かびますが、自分がこの年齢にどんどん近づいているせいもあるのか、これ程切羽詰まった感覚で観たのは初めてかも知れません。
基本、もしこうなったらというSF設定だと思うのだが、余りにも現実社会に近くリアル過ぎるので、この設定(75歳以上になったら、死を選択できる制度)自体を絵空事と思えなく息苦しさまで感じられる程でした。
逆の尊厳死を求める側の作品も過去何作もありましたが、国の制度として尊厳死を勧めるというのは、全く意味が違ってきて、それは国家としての今までの政策の誤り(失敗)を国民になすり付けるという意味となり、いくら社会としての正論であったとしても国家的な暴力であり許されるべきものではない筈なのに、これが日本人の国民性をも利用した優しさの皮を被った残酷さ非道さを見せつけられられ、ある意味恐怖映画の要素も感じてしまいました。
本作は説明台詞を一切排除して、観客は映像だけで物語を理解しなければならない様に作られています。
私は基本的にはこのやり方に賛成なのですが、私が観に行ったのは平日で客層の大半はこの作品のタイトルの様にほぼ70歳以上の方ばかりが目立ち、66歳の私が若く感じられる程で、そういう客層にはこの作り方はひょっとしたら不親切だったかも知れないと思いました。
ラストの主人公の行動や、ヒロムの行動の意味が理解出来たかどうか?、一瞬でもスクリーンから目を離すと、重要なシーンを見落とし理解出来ない部分が多々あったように思えました。
本作の倍賞千恵子の代表作でもある『男はつらいよ』シリーズが何故国民的作品に成り得たのか?を考えると、あれ程の名作でありながら非常に分かりやすかったという事です。それは作品の源流と同様の“優しさ”で作品が作られていたからだと思います。
本作の場合は監督のデビュー作であり、作家としての才能に溢れた作品ではありましたが、客層(高齢者)に合わせた優しさがもう少しあれば完璧だと思いました。
ここで客層と言ってしまいましたが、本作の場合高齢者対象の作品という事では決してありません。
むしろ、本作の主要登場人物のヒロム、瑤子、マリアなどの年齢層こそが本来のターゲットの客層であるべき作品でした。
本作の様な政策(過去の失策に対する尻拭い政策)が現実化した場合、当然その職務に就くのは彼等世代であり、彼等はこの職業に対してどういう考えや気持ちで就くのか?、これこそが本作の最も重要で核心となるべきテーマなのです。
という事で本作は是非、若い人達に観て貰いたい作品であり、くれぐれも“優しさ”の仮面に騙されず、本来の人間性について考えて頂きたいと切に願います。
追記.
もし私がSFとして物語を作るなら『PLAN 75』ではなく『PLAN 15』にすると思います。
自殺大国の日本なら15歳から死の選択権を与え、どの世代が一番多く希望するかで、今の国の実態が分かり、国の完成度・成熟度を測る通信簿作成という皮肉を込めたストーリーにしてしまいますが、これだと『世にも奇妙な物語』テイストになってしまいますが、テーマは分かりやすいかなと…(苦笑)
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