「ほぼ怖くない、楽しい感じのパニックホラー」きさらぎ駅 映画読みさんの映画レビュー(感想・評価)
ほぼ怖くない、楽しい感じのパニックホラー
邦画のホラー映画はあまり観てきていない。
洋画は学生時代にそれなりに触れた記憶があるが、邦画は『リング』『呪怨』ぐらいだ。
『リング』は大丈夫だったが『呪怨』がめちゃくちゃ怖かったので、以来避けてきていた。
都市伝説は知っていたが、この映画がSNSで話題になっていたので配信サービスで視聴。
仕方ないもの(?)とは思うが、開幕から制作会社のロゴとスタッフの名前がいっぱい出てきて「あれ? こういうものだったっけ」となる。
バリバリに「私たちが作品(商品)として作りました!」のアピール。都市伝説系のホラー映画とは相性が悪い資本主義の匂い。ボランティアで作ってるわけではないので、そりゃアピールしたいだろうとは思うが…
スタッフロールは最後に入れる形で、開幕
「この映像は、編集部に送られてきた差出人不明のビデオテープである…」
「この映画は、関係者たちへの入念な聞き取り調査を元に再現した『再現映像』である…」
とかいうお約束の前振り形式は大事だったんだな、と思った。
MMRですらそこらへんはちゃんとやる。レジデントオブサン、講談社編集部に手紙送りすぎ。
映像は、アクションゲームか昨今の仮面ライダーのようなばりばりの爆発四散CG以外はちゃんとしていると思った。工夫もあると思った。どう観ても日中晴天の撮影に青系のフィルタをばりばりかけて不穏世界を出しているのは努力。役者たちも撮影時は心情的に頑張っただろう。
が、脚本としては、ストーリーを楽しむものではないゆえにストーリーを抜きにしても、キャラづけ、セリフ、極限状態下での行動は雑すぎてもう少しどうになからなかったのか……と思う内容。それらは徹頭徹尾一貫してひどすぎるので「そうは思わんやろ!?」「そうは動かんやろ!?」が数十秒おきにリズミカルに繰り返され、一周回って面白くなってくる。ある意味、この超B級脚本ラインを裏切らない安心感になってくるのだ。皮肉っているのではなくて、これはこれでエンタメとしてアリと本気で想わされる。
かつて、極限下の館で、キャラクターたちの言動が終始このノリで書かれた本格ミステリ小説に遭遇し、憤慨した覚えがある。作者は人間が全く書けていない、これは最低限の物語にすらなっていない、子供がとぎれとぎれ語る作り話状態だと。超頭がいいと作中で持ち上げられてるキャラの、実際の行動がどれもおバカすぎると。
が、同系統であるこの映画を観て「作者はこういう作品ばかり観てきていた愛好者で、これをプロレベルの話作りだと思っているのではないか? だから自作も疑わず自信満々に書けたのではないか?」という可能性を得た。たぶん当たっていると思う。あの小説は、パニックホラーの、衝撃的な映像を取るためにキャラの思考言動を雑処理してヨシな文化を、小説でやってしまっていただけなのだろう。
登場人物たちも怪異側も「真面目にやってんのか」とツッコミどころ満載な作品なので、いい感じに全然怖くない。映像はCG爆発四散を除いてちゃんと観られるし、話の謎みたいなのも一応あるので、私のような怖がりの邦画ホラー入門・再入門にはいい作品なのではないかと思った。傑作、というのとはちょっと違う。良作とも違う。快作。ホラーで快作ってどうなんだ。
ノリのいい友人たちでツッコミながらウォッチパーティとかしたら盛り上がりそうな作品。