ツユクサ 劇場公開日:2022年4月29日
解説 「かもめ食堂」の小林聡美が主演を務め、過去を抱えながらも今日を明るく生きる女性に訪れる小さな奇跡をつづったヒューマンドラマ。「at Home アットホーム」の安倍照雄によるオリジナル脚本を基に、「愛を乞うひと」の平山秀幸監督がメガホンをとった。小さな港町で暮らす五十嵐芙美は、気心の知れた友人たちと他愛のない時間を過ごしたり、歳の離れた小さな親友・航平と遊びに出かけたり、車の運転中に隕石がぶつかるという信じがたい出来事に遭遇したりと、楽しい毎日を送っている。しかし彼女がひとりで暮らしているのには、ある哀しい理由があった。ある日、彼女は町に引っ越してきた男性・篠田吾郎と運命的な出会いをする。芙美が新たに出会う男性・篠田を松重豊、友人たちを平岩紙と江口のりこが演じる。
2022年製作/95分/G/日本 配給:東京テアトル
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2022年4月29日
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鑑賞方法:試写会
私の中では小林聡美といえば、人気シリーズドラマ「やっぱり猫が好き」(1988~1991)における、とにかく明るい末っ子役で輝いていた。笑いの間や動きも抜群だった。 映画では『かもめ食堂』(2006)や『めがね』(2007)で、何気ない自然体の演技が必要な難しい役どころを演じ、独特な存在感のある代え難い役者となった。 本作『ツユクサ』では、人生の折り返し地点である50歳を目前にした主人公・芙美を演じている。 キャストはベテラン揃いなので、どんな映画なのか想像できずにいたが、意外と普遍的で、よくありそうな「大人の日常」を描いていた。 芙美は、ボディタオルを作る会社で働きながら一人暮らしをしており、同じ職場の直子(平岩紙)と妙子(江口のりこ)とのやりとりは見ていて微笑ましい。 ところが、そんなほんわかとした日常に、隕石が落ちてきて(隕石に遭遇する確率は1億分の1とのこと)、その破片が芙美の車にぶつかるという出来事が。面白いことに、彼女は動揺する様子もない。 やるべきことを毎日こなして普通に暮らしている芙美は、一見、感情の起伏が少ないように見えるが、親友(直子のひとり息子)とのやりとりでは、彼女らしい情熱が見え隠れする。 実は、アルコールを断つために会合に通っていたり、何気に謎めいた女性でもある。その謎も、温かいストーリーを通して徐々に明らかになっていく。 色々あっても、丁寧に生きる大切さと、前に進む元気を与えてくれる本作。 ちょっぴりコミカルで、じんわり心に沁みてくるベテラン俳優陣の味わい深い掛け合いも見所。
2022年4月24日
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鑑賞方法:試写会
平山秀幸監督と脚本家の安倍照雄が10年前から温めてきた企画だそう。当然、コロナ禍が長引く昨今の状況など予見できるはずもないが、現在大勢が抱いているであろう心労や閉塞感を、ファンタジックなときめきと安らぎで少しばかり軽くしてくれる、結果的にタイムリーな好企画となった。 小林聡美が演じる主人公・芙美が運転している車に隕石が衝突するという序盤のファンタジー(とはいえ1億分の1の確率で起きると劇中で説明される)はあるものの、それ以外は西伊豆の小さな港町を舞台に、平岩紙、江口のりこが演じる友人たちとの一見ありふれた、しかしそれぞれに感情の起伏を伴う日常が穏やかに流れる。そして、ツユクサの葉で草笛を吹くのが得意な男性・篠田(松重豊)と芙美の出会い。この二人の関係もほのぼのと進むが、一方でそれぞれが抱えた過去や葛藤があり、だからこそ応援したい気持ちが高まるのかもしれない。 めったにない隕石遭遇と、ありふれたツユクサという、好対照な二つの要素。これらが無理なく物語の中に同居している点も、本作の妙味だろう。
2022年11月8日
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鑑賞方法:VOD
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陳腐な言い方だけど、 長い長いトンネルがあって、このトンネルから抜け出せっこない・・・ そう思った瞬間、ふっと明かりが見えて来る・・・ そんな希望の物語りでした。 芙美さんも吾郎さんも経験した哀しみに必死で闘った日々があった。 芙美さんには「断酒会」に入るほど酒に溢れた日々があった。 (どこでもいい、 (東京から遠い、 (遮断機の音のしない町) 消すことの出来ない記憶は辛い。 (酒で誤魔化せる訳がない) 吾郎さんは奥さんの自殺を乗り越えるために、ツユクサを吹く。 (うつ病の奥さんをどうやっても救えなかった) たった一枚の平凡は葉っぱから流れる力強いメロディ。 人が希望を託す何か! 人は希望を持たずには生きられない。 航平君には《隕石》そして《宇宙》 妙子さん(江口のりこ)には僧侶ジュンイチロー(桃月庵白酒) 直子さんには(平岩紙)には夫の貞夫さん(渋川清彦)と息子の航平君(斎藤汰鷹) 芙美さん(小林聡美)にはずうっと《航平君》だった。 人間はどの人も乗り越えて来たモノ (不幸な出来事とか、 (心の行き違いとか、病気とか、)が それぞれ必ずある。 芙美さんが素敵なのは、 日々の暮らしの豊かさ。 毎日洗濯物にはアイロンをかけ、 裏山の坂道をジョギングで駆け上がり、 一人分の食事にも手を抜かず、 住まいは清潔で居心地良い、 趣味のいい雑貨に囲まれた生活。 「かもめ食堂」2006年 「めがね」2007年 「プール」2009年 小林聡美は洗い立ての白いシャツ、 ショーカット、 ちょっとルーズなパンツ、 無印良品みたいな親しみやすさと上質感がある。 普通なのに普遍。 そんな立ち位置の役者だ。 この映画は珍しくラブシーン(キスシーン)なんかあって、 186.7センチの松重豊と、156センチの小林聡美。 30センチの身長差がとても好ましく映る。 お似合いのカップル。 “ようちゃん、終わりました“ “ちょっとだけ、女の子、しちゃった“ 独り言の相手は亡くした息子のようちゃん。 預かったインコが“ようちゃん“と覚えるほど、 芙美ちゃんは毎日呼びかけてるんだね。 ようちゃんと航平君は、どうしても重なる。 “ふみちゃん、ボクがいなくても、 “ふみちゃん、幸せになれる?“ 航平君がそう言う。 この映画は名台詞だらけ。 備忘録を兼ねて少し記してみよう。 “お経が私には口説き文句に聞こえた” “女はどこにいたって、男で世界が広がる“ ……………………………………by妙子(江口のりこ) “女と車の運転は似ている。いずれ衝突する“ ……………………………………byバート・レイノルズ ”別れる時はもう、次の恋が始まっている” ………………………………………………byアントニオ・猪木 隕石が人にぶつかる確率は一億分の一。 その確率の隕石が芙美ちゃんの車(軽)に当たった。 “わたし、50前で隕石にぶつかったんです。 “篠田さんにも会えて・・・それだけで、幸せ!!“ そんなことない。 そして芙美ちゃんは一歩踏み出した。 人生にはきっと御褒美がある・・・ 一人には一人の苦労 二人には二人の苦労がある。 でも二人はお似合い! そう信じられる物語りだった。 舞台になった西伊豆の海、 海に沈む夕日、 航平君が貞夫さんを、お父さんとはじめて呼んだ防波堤、 山から望んだ集落と海、 西伊豆の海に、映画に、 心から癒されました。
2022年10月9日
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鑑賞方法:試写会
山の彼方(あなた)の空遠く/幸い住むと人のいう/ああ、われひとと尋(と)めゆきて/涙さしぐみ帰り来ぬ/山の彼方になお遠く/幸い住むと人の言う それでも、本当の幸せは、実は身近なところにあるのかも知れませんね。 そのことに想いが至りました。評論子は。この作品を観て。 精いっぱい生きることの大切さにも、改めて気づかされたようにも思います。 (追記) それにしても、松重豊さんという俳優は、こんなにも味のある演技をなさる方だったでしょうか。 そのことにも、改めて想いが至りました。評論子は。