劇場公開日 2022年2月4日

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「肉食系の女性の中にある優しさを見せた作品」355 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5肉食系の女性の中にある優しさを見せた作品

2022年2月9日
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鑑賞方法:映画館

 冒頭のシーンで疑問が浮かんでしまって、最後までその謎の答えを思いつかなかった。無差別の電子機器を通信で制御できるのだが、通信を発するのもまた電子機器である。ということはそのシグナルを飛ばした段階で、当の電子機器も制御されてしまうというパラドックスに陥る。
 どこかでこのパラドックスの説明がされるのかなと思っていたが、その後の無理やりな展開を観ると、パラドックスどころではないことが分かる。取り敢えず映画の設定を何も言わずにすべて肯定して観ることにした。こういう荒唐無稽なストーリーにリアリティを求めるのは野暮である。

 序盤のパリでの追いかけっこが、本作品の一番のみどころかもしれない。ジェシカ・チャスティンのドレス姿のハイヒールダッシュは、本人が演じているとしたら見事である。サプレッサー付きの拳銃を持った女性が街なかを走っているのは非現実的ではあるものの、想像するとかなり怖い。逃げたロシア系ドイツ人エージェント役のダイアン・クルーガーも同様だ。この人とは縁がなくて、本作品で初めて見たが、美形でプロポーションもいい。45歳とは驚きである。とはいえジェシカ・チャスティンが44歳でペネロペ・クルスは47歳、ファン・ビンビンも40歳だ。みんな若く見えるし、肉食系である。
 チャスティンがクルーガーに大丈夫かと問いかけて、あなたこそ大丈夫なのと問い返されたときに、震えているわと答えるシーンがある。極限状況でも他人を心配するのは心の余裕であり、本作品においては、女性ならではの優しさだと思う。というのも、ペネロペ・クルスが心の叫びとして言うのが、安心して街を歩ける国にしたいの、という意味の台詞である。これも女の優しさだろう。このふたつのシーンが強く印象に残っている。
 無理くりに女性ばかりを集結させて戦わせているような映画ではあるが、そこかしこに女性ならではの光るシーンがあった。物語の整合性よりも、肉食系の女性の中にある優しさを見せた作品である。それなりによかった。

耶馬英彦