ハウス・オブ・グッチ : 映画評論・批評
2022年1月11日更新
2022年1月14日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
煌びやかでコミカルなソープオペラ 家族内の人間スケッチは痛烈そのもの
フェンディやミッソーニと並んで家族経営で財を成したイタリアを代表する老舗ブランド、グッチが、家族経営ゆえに亀裂を生み、脆くも崩壊していく様子を、巨匠リドリー・スコットが豪華配役で再現していく。
父が営む運送会社で経理を担当していたパトリツィア・レッジャーニが、創業者の孫で弁護士を目指していたマウリツィオ・グッチに出会ったのは22歳の頃。上昇志向が強いパトリツィアはマウリツィオとの関係を一気に深めて、彼女の野心を見抜いていたマウリツィオの父、ロドルフォの反対を押し切り、2人は結婚。ロドルフォの兄でグッチの実質的な経営者だったアルドに気に入られたパトリツィアは、家業に興味がない夫を説得してアルドからブランドを引き継がせる一方で、アルドとの関係が芳しくない息子のパオロがデザインする商品と契約を交わすことで、親子関係を悪化させる。すべては、マウリツィオにブランドの経営権を集中させ、自らはCEO夫人に君臨しようとしたパトリツィアの思い通りに進んでいた。
しかし、パトリツィアの野望は家族というビジネスには不向きな人間関係の緩みを突いて達成されるかに思えたが、マウリツィオの浮気が発覚したことで肝心の夫婦関係が破綻し、それが代行殺人事件へと発展していく。
スコットがこの「ゴッドファーザー」(70)のソープオペラ版的な実話の映画化を思い立ったのは2006年のこと。以来、様々な紆余曲折を経た後、2019年になってようやくグッチの協力を取り付け、さらに、主演のレディー・ガガやマウリツィオ役のアダム・ドライバー以下、理想の配役が立て続けに決まって昨年の2月末に撮影はスタートする。グッチ一族からは映画の製作途中や完成時に「家族の名声を汚し、利益を得ようとしている」等のクレームが付くが、スコットは冷静に対応している。確かに、アルド役のアル・パチーノはお得意様最優先のお調子者として、大仰なメイクでパオロに化けたジャレット・レトは自分を天才デザイナーと勘違いしている悲しい3代目として描かれる等、家族内の人間スケッチは痛烈そのもの。でも、そこがこの物語の可笑しさであり、当事者たちの気持ちはどうであれ思わず笑わずにはいられないのだ。
イタリア系アメリカ人のレディー・ガガは、台詞、仕草を研究し尽くし、100%イタリア人になることでイタリア人とグッチの歴史に敬意を表したかったと語っている。同時にそれはリドリー・スコットの製作意図ではなかったかとも思う。パトリツィアの野心も、家族の仲違いも、結局、殺人事件を境に中東マネーに飲み込まれ、今やグッチの経営陣に創業者一族の名前はなく、同社は巨大企業の傘下に入りシーズン毎にトレンドを生み続けている。煌びやかでコミカルなソープオペラは、同時に、とある一族がビジネスでギリギリ寄り添えた時代へのオマージュでもあるのだ。
(清藤秀人)