「さがしてはいけない。」さがす レントさんの映画レビュー(感想・評価)
さがしてはいけない。
人間の心の闇を軽はずみに探ってはいけない。その暗闇をのぞき込むものなら自分もその暗闇に引きずり込まれてしまうから。
当時世間を騒がせた自殺サイト殺人事件。自殺を望む者同士がネットで仲間を募りともに死ぬ。それだけでも闇が深いのにさらにそんな人たちの弱みに付け込み自らの快楽のために殺人を行った犯人たち。
この事件の概要を検索して読むだけでも陰鬱な気分にさせられる。本作のモデルとなった犯人の性的倒錯っぷりは通常人ならばとうてい理解できず、ただそのおぞましさに気分が悪くなる。そしてしばらくは犯人の心の闇の部分に触れてしまったことでなかなか陰鬱な気持ちから抜け出せなくなる。
妻の難病介護に苦しむ智はそんな人間とかかわりになってしまったことからどんどん深みにはまってしまう。そんな父をけなげにも探し出そうとする娘の楓。
ようやく父を探し出したものの、知りたくなかった父の秘密まで知ってしまうことに。
前作と同様、この監督の作品は人が思わず目をそむけたくなるような人間社会の闇を否応なく見せつけてくる。
快楽殺人者の心の闇だけでなく、難病に苦しむ患者やその家族が抱える生き地獄ともいえる苦悩。ただ平穏に暮らしてる人間にとっては目を覆いたくなるような描写が突き付けられ頭をガツンと殴られたような感覚を覚える。しかしこれこそ映画でしか味わえない醍醐味ともいえる。
「セブン」を撮ったデビット・フィンチャーはラストの衝撃的シーンのカットを要求された時、頑なに拒んだそうだ。このシーンがなければ、本作は十年もたてば忘れ去られてしまうだろうからと。確かにあの作品を観た時の衝撃は今も忘れられない。
片山作品もそういった人が見たくないような不快感を覚える描写をあえてスクリーンに映し出す。まるで見た人の心にくさびを打ち込むかのように。自分の表現したいことを相手の心に奥深く刻むことができれば監督冥利にも尽きるだろう。
ただ観る者を不快にさせるだけではなくてユーモアを交えながら人間の持つ業の深さを描いてる点でポン・ジュノ作品を想起させる。やはり少なからず影響を受けてるのだろう。
本作は前作ほどメッセージ性は強くないが、前作同様人間社会の嫌な現実をこれでもかと見せつけてくる。見たくないけど見ずにはいられない人間社会の闇をのぞかせてくれるこの監督の次回作が楽しみだ。
娘を演じた伊東蒼、そして佐藤二朗氏も素晴らしかった。