劇場公開日 2022年1月21日

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さがす : インタビュー

2022年1月18日更新

佐藤二朗「“あの時”の片山だったのか……」 片山慎三監督と創り上げた唯一無二の衝撃作

インタビューに応じた佐藤二朗、片山慎三監督
インタビューに応じた佐藤二朗、片山慎三監督

「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」

大阪の下町。そんな不穏な言葉を残して、父は姿を消す。彼のことをさがす中学生の娘。2人の日常に忍び寄る連続殺人犯。それぞれが辿る道は、やがて合流することになるのだが……この行く末を先読みすることは、決してできない。観客の予想を“裏切り続ける”物語なのだ。「岬の兄妹」から3年――異才・片山慎三監督が世に放つ「さがす」は“唯一無二の衝撃作”というキャッチコピーに相応しいものとなった。

アスミック・エース&DOKUSO映画館による次世代クリエイター映画開発プロジェクト「CINEMUNI」(シネムニ)の第1弾作品となった本作は、韓国との共同製作を行っている。共同脚本には「そこのみにて光輝く」の高田亮、「デイアンドナイト」の小寺和久が参加。「娘の視点」「殺人犯の視点」「父親の視点」という三部構成によって描かれるストーリーは、観客を想像だにしない場所へと誘っていく。

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長編2作目にして、商業デビュー作。“満を持しての挑戦”を支えることになったのは、映画、テレビ、演劇、バラエティ番組、監督業等、幅広い分野で活躍する佐藤二朗。情報解禁時のコメントは、観客の期待値を底上げするようなものだった。

「『よくぞ俺のところに話を持ってきた』と思った。ちょっと凄い作品になると思う。ご期待を」

本編を鑑賞すれば、すぐにわかるだろう。この言葉には“偽りがない”ということが(周囲に「凄い作品だった」と何度告げたことだろう……)。ユーモラスなパブリックイメージを封印して、役と向き合った佐藤。片山監督とともに“唯一無二の衝撃作”を創り上げる過程を振り返ってもらった。(取材・文・写真/編集部 岡田寛司)


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――まずはお二人の出会いについてお聞かせください。初対面となったのは、2002年に放送されたテレビドラマ「アイノウタ」(監督:廣木隆一、主演:池内博之)の撮影現場。片山監督が初めて制作部の見習いとして参加した場となりました。佐藤さんは「ちょっと変わった面白い奴」と認識されていたそうですが、何故そのように感じたのでしょうか?

佐藤:それ、よく聞かれるんですが、さすがに19年前のことを事細かく覚えているわけではないんです(笑)。具体的にこんな返しがあったから「面白い奴だ!」というのはね……。これだけは言えますが、(片山監督は)人というよりは猿といっても差支えはない。

――(笑)

佐藤:人と猿を両極に置いた場合、どちらかといえば猿寄り(笑)。しばらくして、監督が自腹で撮った「岬の兄妹」という凄い映画があると、妻から聞いたんです。その後「さがす」への出演オファーの手紙が届きました。当時「岬の兄妹」の“片山監督”が、“猿の片山”だとは思ってもいなかったんです。手紙を読んで「“あの時”の片山だったのか……」とようやく結びついたんですよね。

――「岬の兄妹」は、いかがでしたか?

佐藤:凄い映画でしたし、それを自腹で撮ったというのがね……色んな人の希望に成り得る作品だと思いました。どこだっけ? 「なんていう映画を撮るんだ」って怒られちゃったのは。

片山監督:ヨーテボリ国際映画祭(北欧最大の国際映画祭)ですね。

佐藤:あ、そうか、ヨーテボリか。美しく、楽しい映画の存在というのは素晴らしいと思うんですよ。ただ“人が見たがらないもの”を描く作品も同様に必要だと思う。自腹で撮った監督がきちんとした評価を受ける――非常に良い話だなと思いました。

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――そんな片山監督からの手紙にしたためられていたのは「自分の商業デビュー作で主演としてシリアスな演技を見せてほしい」というものでした。脚本を読まれて、どう感じましたか?

佐藤:面白かった。純粋に面白かった。あてがきをしたという原田智という男は、当たり前のように妻と娘を愛している、どこにでもいる中年男。そんな男が、誰にでも起こり得るが、誰にも起こってほしくないという過酷な状況に追い込まれていく。メンタル的に相当キツイことになるとは思っていたし、かなりの勇気が必要な役どころ。でも、そんな不安を粉砕するくらい「この役を演じたい」と思わせる脚本だった。(片山監督の)“熱”が手紙で伝わったんですよ。

――脚本を読んだうえで「だから、自分にオファーしたんだな」と感じた点はありましたか?

佐藤:原田智は、どこにでもいるおっさんですよね。SNSでエゴサーチをしていると、こんな投稿をよく見かけるんですよ。「電車に乗っていたら、目の前の人が佐藤二朗(に似ている)」「大学の先生が佐藤二朗(に似ている)」「行司が佐藤二朗(に似ている)」「生後3カ月の娘が佐藤二朗(に似ている)」。一体、この世の中には何人の佐藤二朗がいるんだと。そういう意味では、僕なのかなと思いました。

――(笑)

佐藤:片山監督の手紙には「(全ての出演作を見ているわけではないですが)『宮本から君へ』を鑑賞して、二朗さんは凄いんだと思った」と書いてあったんです。原田智はコミカルでもないし、癖も強くない、市井に存在しているおっさん。僕のパブリックイメージとは違うことをやらせたいんだな、と。カウンターを狙いに来ているという意図はわかりました。「岬の兄妹」を撮るような監督ですから、攻めているわけですよ。「この役のイメージは、この人だ」という考えを裏切りたい。極端な話、自分が俳優の“ある一面”を初めて見せつけてやりたいと考えている。だからこそ「よくぞ俺のところに話を持ってきた」と思いました。

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――片山監督からも、改めて「主演:佐藤二朗」に至った経緯をお話いただけますでしょうか?

片山監督:「やれたかも委員会」というドラマがあって、その現場へ応援に行ったんです。その時、二朗さんに「失礼ですけど、いつから“今のような芝居”をするようになったんですか?」といった話題を振りました。「最初、会社員Aや刑事Bみたいな役が多く、爪痕を残すような芝居をしたら、その後もそういう芝居を期待されて短いシーンで面白いことをする人という認識をされてるが本当は普通の芝居もしたい」と仰っていて、その言葉に感心したんですよ。その後に「宮本から君へ」を見る機会があって「すごく上手いな」と。その姿を見たら、自分の映画にも出てほしいなと思い始めたんです。

佐藤:あのー、俺、そんな風に答えたっけ? ごめん、正直言って、全然覚えてない(笑)

片山監督:(笑)

佐藤:俺は「ブラック・ジャック」(カルテII:医師役/主演:本木雅弘、演出:堤幸彦)のワンシーンに出たことがきっかけで、今の事務所に所属することになった。こういう風貌だし、二枚目でもないし、癖の強い役をふられることが多い。「少ない出番でかっさらっていく」と、一時期ずっと言われていて、与えられる役もそういうものばかりだったんですよ。もちろん、少ししか出演しない役で面白いことをするというのは好きだし、今でもふられればやりますよ。でも、俺としては滞空時間の長い、色々な顔を見せられる役もやりたい。だから「はるヲうるひと」のような作品を作ったりしている。俺に限らず、俳優は皆そう考えていると思います。俳優業には、無限の可能性があるんだから。出演時間が短くて面白い役――このおかげでバイトをせずに、役者として食えるようになった。「――でも、それだけじゃないんだ」という話はしたんだと思います。

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――ありがとうございます。引き続き、片山監督に質問させてください。発想の源は「大阪に住む父が指名手配犯を見かけた」という実体験です。ここにどのようなスパイスを加えて、フィクションとして成立させていったのでしょうか? 実際に起こった事件――例えば「座間9人殺害事件」の要素も加えられていますよね?

片山監督:実は“座間”だけではないんです。物語にする際に、さまざまな実在の事件をリサーチしました。かつて、白い靴下が好きな犯人がいたらしく、白い靴下に欲情してしまうので、拘置所内で「白色スクールソックス禁止」という規定ができた。そんな実在の事件の要素を組み合わせていきました。

――物語の舞台となるのは、出身地でもある大阪。特に西成地区での撮影にこだわったそうですね。

片山監督:子どもの頃「西成に行ってはいけない」と言われていたんです。でも、行ってはいけないと言われると、逆に行きたくなるじゃないですか。当時は今よりも退廃していたというか……本当に怖かった。車で訪れたんですが、車外に出ることもできないくらい。そんなこともあって「いつかこの町を映画にしたいな」と考えていたんです。今は行政の力が働き、住んでいる方々の高齢化も伴って、撮影がしやすい状況にはなっていました。

佐藤:でも、監督、言われてましたよね?

片山監督:「雑魚が」ですね。やっぱり絡まれるんですよ。

佐藤:毎日絡まれてたよね。俳優部は、数少ないスタッフが守ってくれたんですけど……監督は、酔っ払ったおじさんに「消えろ、雑魚が」と。「雑魚が」って言葉、久々に聞いたなぁと(笑)。それ、セリフとして採用していましたよね。ムクドリ(森田望智)が、僕に「雑魚が」という場面。

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――思わぬ展開からセリフが生まれたのですね……(笑)。重苦しいストーリーが続いていきますが、要所要所でユーモアが取り入れられている点も印象的です。これは「岬の兄妹」にも通じるものだと思っています。

佐藤:「笑い」というものに関して、あれこれ言える資格はありませんが、シリアスとコメディは表裏一体だと思っています。笑っていたのに、いつの間にか泣いている。怒っていたはずなのに、いつの間にか笑っている。そういう瞬間におかしみを感じる。この作品も、まさにそうですよね。どんなに過酷な状況でも、人は飯を食い、クソだってするし、笑う時は笑う。もちろん「ここまで笑わせて、ここから泣かせる」という線引きがはっきりしている作品もあっていい。でも、自分は“いつの間にか……”というような作品が好きなんですよね。実際、リアルの世界では、線なんて引かれてないじゃないですか? シリアスも、コメディも、意識しないで生きている。そういうところに、人間のおかしみが詰まっているような気がするんです。それに「さがす」は重い内容を描いていますけど、非常にエンターテインメント性が高い。だから、映画を見慣れている人だけでなく、見慣れていない人にも鑑賞して欲しいんです。

――片山監督は、劇中におけるユーモアの塩梅について、どのようにお考えでしょうか?

片山監督:わりと意識しているんです。一つの感情に偏らないように、バランスを見ながらやっています。そうやってシーンを構成した方がいいなと思っていて、撮影時も意識していますね。悲しい出来事を悲しく描いて、ここは「泣くところです」という形で表現する。そうやって描くことが、少し恥ずかしくなってしまう。もう少し歳を重ねれば、変わってくるとは思うんですが……今は恥ずかしい。なんか癪なんですよね(笑)。

佐藤:今の話を聞いていて、片山はやっぱり面白いなぁと。俳優は、そうであってはいけないんですよ。恥ずかしがってる場合ではなく、演じないといけない。でも、今の意見は、監督の考え方のひとつとして、非常によくわかる。俳優をやっている時に思うんだけど、悲しいセリフを悲しいように言うのではなくて、セリフの意味・内容とは全く関係のない感情で話した方が伝わるという場合があるんですよね。一方で、セリフの通り、むしろ突き抜けるような形で言った方が良いこともある。ケースバイケースです。(片山監督は)こういう作品を撮るんですから「恥ずかしい」と感じるのは、もっともなこと。その通りだと思った。でも、片山が言った通り、歳をとったら変わるかもしれないね。

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――では、片山監督には、どのような作品を撮っていってほしいですか?

佐藤:こういう感じでずっといって欲しいですけどね。もっと大きなバジェットの作品もね。今回は、テイク数を重ねるような撮り方をしたんですよ。1日2ページくらいだったかな? 竹野内豊さんとタッグを組んだ「さまよう刃」(WOWOW版)の撮影でも、そんな感じでやっていたら大変だったろうなぁと思っていたんです。でも、後日、「さまよう刃」に参加していたスタッフに聞いたら「その時は普通でした」。そこで片山に確認してみたら「『さがす』で試したんです」。いや、試したんかい!と。この前、話を聞いたら「こういうやり方は、スタッフに負担がかかるし、今後はやらないかもしれない」と言っていたんです。だから、ちょっと寂しい。

片山監督:潤沢なスタッフの人数で、「さがす」のような手法を試せるようになりたいんですよね。それが一番ベストかなと思っています。今、別の作品を撮影しているんですが、やっぱりきついですよね。

佐藤:1日何ページ撮ってるの?

片山監督:8ページとかですかね。

佐藤:片山にしたら、無限のページ数じゃないの(笑)! でも、1日8ページって、そんなに多いページじゃないぜ? あんた、助監督やっていたから知っているだろうけど。「やれたかも委員会」の時なんて、1日18ページとかあったからね。

片山:それはわかっているんですよ(笑)。演出部として参加していると、時間の制約があるということはわかるんですけど、いざ自分が監督をするとなると、欲が出るじゃないですか。本当はもう1回やりたい。でも、それを許さない空気もある。自分の思いを押し殺して、オーケーを出してしまう。いかに予算を確保して、撮影期間を長くとれるか――今後は、これが重要になってくると思います。

佐藤:俺としては、同じような思いをした俳優と飲みたいわけです。「片山組は大変でしょう? 何テイクも、何テイクも……」と。この思いを分かち合いたいんだよ。

片山監督:松浦(祐也)さんとは分かち合えると思います(笑)。でも、何度もテイクを重ねても、そんなに芝居が良くならない俳優さんもいらっしゃるじゃないですか。1発目が最も良くて、それ以降は精度が落ちていく。何度も演じさせることが、一概に正解とは言えないんだなと思っています。

佐藤:そう仰るわりには、何度もやっていたじゃない?

片山監督:僕もやりながら迷っている部分があったんですよ。クランクインは、智と娘の楓(伊東蒼)の自宅のシーン。そこから始まったので、色々なパターンを撮っておきたかったんです。(撮り逃したことで)その後の撮影に、制限が出てきてしまうのが嫌だなと。

佐藤:いや、片山さ、家のシーン以外でもテイクを重ねているんだけど? あんた「(テイクを重ねたのは)家だけです」みたいに言ってますけど……(笑)。でも、今の話、聞けて良かったですよ。片山自身も何テイクも重ねることが良いかといえば、一概にそうではないと思っている。ただし、現場としてはゆっくり撮っていきたい。でもよく聞くよね、1発目(の芝居)が良いっていうのは。

片山監督:えぇ、1発目が良いんです。一番集中しているじゃないですか?

佐藤:いや、俺に言わないで! 「だったら、なんであんなに何テイクも……」って言いたくなっちゃうから!

一同:爆笑

佐藤:ちなみに、1発でオーケーになったカットはありません。あ、違う! ひとつだけあるよね! どこかわかってる?

片山監督:わかります。大声を出すシーンですよね。

佐藤:正解!

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――物語の後半、ある家を舞台にした重要なシーンですね。智は、過酷な決断を迫られることになります。

佐藤:寄りのカットは何度もやっているんだけど、広い画だけは1発オーケーだったんですよ。片山には初めて言うんだけど……。俺としては、深夜なのに何テイクもやることがわかっている。実はね、あの場面ではガラスが割れているんです。ガラスはね、一度割れてしまうと復旧するのが大変なんですよ。

片山監督:だから、二朗さんがガラスを割った瞬間、「めちゃくちゃ終わらせたいんだな」と思ったんです。

一同:爆笑

片山監督:「これで終わらせてくれ」という合図なんだなと。そう受け取ったからオーケーを出したんですよ。

佐藤:片山、その受け取り方、大正解(笑)。俺も必死だったからね。

片山監督:いや、でも結果的に良い芝居でしたから(笑)。

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