「神の目※2023/02/07追記」さがす きさらぎさんの映画レビュー(感想・評価)
神の目※2023/02/07追記
観終わってすぐに感じたのは、なんかすごいものを観たな、ということ。岬の兄妹と同じ監督さんだと後から気づいて、なるほどなとなった。
「この先どうなるんだろう?」という気持ちが、いいタイミングで解消されていく展開だった。話を引っ張られ過ぎると気持ちが萎えてしまう自分としてはとても観やすかったし、楓役の女優さんが本当に本当に素晴らしかった。思春期特有のとがった感じも、この作品のような極端な状況に置かれたときの感情の出し・引きもすごく良かった。
そして佐藤二朗である。妻を手にかけようとするも出来なくて感情が爆発する場面、娘の前でおちゃらけて見せる場面、最初の万引きのシーンでの、本当にしょうもない感じ。あの情けない感じがあるから、鬼気迫る演技も説得力があるのだなあと思った。
死にたい人を死なせてあげていると言う犯人は、きっと神にでもなったかのような万能感に浸っていたのだろう。自分の歪んだ性癖のはけ口に人を殺しているだけなのに、もっともらしい理由をつけて笑っている。普通に考えてありえないことなのに、智はわずかな金銭を見返りに手伝ってしまう。罪悪感を感じる必要は無いと犯人は言ったが、結果的にはむしろ相手の罪の意識を利用して犯行を手伝わせている。智の判断能力が正常ではなかったとも考えられるし、犯人に半ば洗脳されているようにも見えた。もしかしたら、妻を死なせた自分を正当化したいという気持ちもあったのかもしれない。もしくは、妻を死なせてしまったことで、自分にも人助けが出来るとか、自分は良いことをしているとか、自分は神にも似た力を持っていると思ってしまったのではないだろうか。偽物の万能感を得たことで、金銭への欲求がよりあからさまになったようにも見えた。犯人が死んだ後もこっそりアカウントの運営を再開してしまったのは、智本人が本当に死ぬつもりだったのか、また同じことを繰り返そうとしているのか……
最後に犯人が「本気で死にたがってるやつなんていなかった」と言っていた。智の妻も最後には生きたいと願ったのだろうか。自分としてはそこが一番キツかった。
※追記
岬の兄妹のときにも感じたのだが、重苦しい空気の中にもユーモアが確かに存在している。笑っていいのか迷うような絶妙なユーモアは、アリ・アスター監督の作品を観た時の感触と似ていると思った。