「岬の兄妹の監督、父親が失踪する話しと言う予備知識のみで鑑賞したレビュー」さがす mvlvさんの映画レビュー(感想・評価)
岬の兄妹の監督、父親が失踪する話しと言う予備知識のみで鑑賞したレビュー
大阪の街角を急いで走る少女。焦って向かった先に待つのは万引きで捕まった父親。ダメおやじである。嫌味を言う店長に必死で謝る娘、それに悪びれる様子もなく悪態をつく父親。ダメ親父である。示談となり帰宅、西成のゴチャついた路地裏、警察の懸賞金が手に入るかもしれないと話す父親に真面目に働けと呆れる娘、完全なダメな父親。どうしようも無いな、、、、という第一印象を、昔の彼の姿となぜこうなってしまったのかという事情を描くことで一度180度ひっくり返した後、また180度回転させてやっぱりダメ親父だなとしっかり思わせるストーリー展開は、まさにあの少女あってこそのものであった。笑いと涙と切なさと気まずさと、鑑賞中は感情の渦に巻き込まれた良作であった。
正直なところ、謎解きや多面的視点による事件の真相の見せ方なんかにはさほど目新しさや衝撃は感じなかったが元々そこに期待して観に行っていなかったので、伏線やその回収で驚かされた場面は無かったのだがそのせいでガッカリしたと言うこともなかった。そもそも、この作品はサスペンスとしての評価よりもヒューマンドラマとしての評価をこそされるべきであって、上記の理由で星を落とすのは差し控えたほうがいいのかなとも思う。
では、少女が探し出したものは何だったのか?
当たり前だが、少女は卓球場を経営していた両親も見ているし、病気で動けなくなり気弱になっていく母親も見ているし、介護でどんどん闇に飲まれて行く父親も見ているし、母親の自殺(他殺)のあとダメになった父親も見ている。2人で暮らす描写では父親に向けて放たれる言葉にはトゲはあれどもその奥には親子の愛情が感じられた。愛があり期待もあるからこそ厳しい言葉を向けていたのではないか。失踪した父親を探していた中盤、最終章でキーアイテムとなるスマホを手に入れた後、そこで彼女は何を見つけたのか。あのメールが父からのものでは無い、あるいは父の本心では無いと気が付いただけでは無かったはずである。いつから父親が自殺勧誘のSNSアカウントを持っていることに気がついていたのか。切符があったからという事もあるが、なぜあれほどにまで島に父親が居ると空家の中まで探し回り、パトカーのサイレンを聞いただけで父に何かあったのだと確信できたのか。彼女は劇中描かれている以上に賢い子である。
そして最後の卓球。
通報後の最後の父との会話。
ピンポン球なしでのラリー。
彼女、あるいは父親は、探し物が見つかったのではないか。
生きることの厳しさ、死ぬことの先にあるのは自由なのか、お金のために人を殺める事の虚しさ、少女の誠実さ、同級生の少年やみかん爺の正直な人間臭さ。いろんな人間の感情が描かれた作品。是非観て感想を話し合ってみて欲しい。