パーフェクト・ケア : 映画評論・批評
2021年11月23日更新
2021年12月3日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
ロザムンド・パイクがダークなヒロインを好演、痛快な社会派サスペンス・ドラマ
「ゴーン・ガール」のロザムンド・パイク、「アリス・クリードの失踪」のJ・ブレイクソン監督によるブラックなコメディ・スリラー。マーラ(ロザムンド・パイク)は裁判所から委託された法廷後見人。パートナーであるフラン(エイザ・ゴンザレス)とタッグを組み、認知症などで判断能力が低下した老人たちに対して、その資産管理をする名目で財産を搾り取る悪徳ビジネスを展開していた。ある日、裕福な老婦人ジェニファー(ダイアン・ウィースト)を紹介され2人はロック・オン、まんまと後見人の座を手に入れるが、身寄りがないと思っていた老人の背後に、ロシアン・マフィアのローマン(ピーター・ディンクレイジ)の影がちらつき始める。
日本でもトラブルや誤解が多い成年後見人制度にフォーカスした話題性のある作品。最近ではブリトニー・スピアーズがこの制度を巡り、後見人である父親の資格解除を求めて、裁判を起こしたことでご存じの方も多いだろう。詳しくはドキュメンタリー「ブリトニー対スピアーズ-後見人裁判の行方-」(Netflix)をご覧頂きたいのだが、作品の中で、裁判所がブリトニーに対し後見人の必要を認めた理由に「認知症の可能性」があったり、ブリトニー本人は後見人を選べなかったり、自分の子供との電話や面会、自宅の敷地内の移動さえも許可が必要だったりと、裁判所と後見人に絶大な決定権が不当に与えられているのが現状だ。また、認知症になると本人のストレスが軽減され、寿命が伸びる傾向にあるため、劇中のマーラのように長期間に渡り委託料を受け取るビジネスモデルが成立、不動産を所有している場合は、固定資産税や管理費を理由に、本人の許諾無しに後見人が売却できるので、うま味はさらに多い。
前述の「アリス・クリードの失踪」では誘拐事件、脚本を手がけた「ディセント2」では洞窟の遭難、「フィフス・ウェイブ」では宇宙人襲来と、予想外の状況に放り出されたヒロインの戦いを描いてきたブレイクソン監督、今回は実在の事件を元にオリジナル脚本を書き上げ、製作に漕ぎ着けた。監督は過去作同様セクシャリティをストーリーに取り入れつつ、リアルさ重視で狡猾かつ逞しい主人公像を構築。ロザムンド・パイクは共演のエイザ・ゴンザレスと共に、ウォシャウスキーの出世作「バウンド」のような、痛快な世界観でのダーク・ヒロインを演じきった。
最近は「プライベート・ウォー」「ベイルート」などハードな役が多かったパイクの違った一面を引き出し、誰の身にも起こる題材から、大人の上質なサスペンスを生み出したブレイクソン監督。前作「フィフス・ウェイブ」で不完全燃焼だった映画ファンはもちろん、身近に高齢者を抱える人も一度は見る価値のある作品だ。
(本田敬)