「演者の良さと映像の美しさ。」余命10年 ゆめさんの映画レビュー(感想・評価)
演者の良さと映像の美しさ。
キャスト、スタッフが好きな方ばかりだったので鑑賞。
原作小説は、作者が自身と同じ病気を持った主人公を据えた恋愛小説とのこと。
ただ、ひねくれ者の私は「病気に侵されたパートナー(彼氏彼女)いずれかが死ぬ話」(+配給会社による「泣ける話」としての売り出し方)に食傷気味だった。
本作も病気で十年は生きられなくなると告げられた二十歳そこそこの女の子・まつり(演者・小松菜奈)が主人公。
おおまかなストーリーはこのまつりが死を自殺未遂を図った青年・カズ(演者・坂口健太郎)と出会い、時間を重ねることで諦めていたと思っていた「生きる喜び」を見出せるようになるけれど、病気は当初の通り進行していて…という感じ。
本作、まず映像がとても美しかったのがとても印象的だった。
春の桜、夏の海、秋の紅葉、冬の雪山。四季(時間の流れを感じさせる)が意識的に画面に取り込まれてて、しかもこれらはそれぞれまつりとカズくんにとって重要なシーンにもなっている。
まつりは病院で亡くなった女性のビデオカメラを譲り受け、友人や家族や風景を撮るのだけど、そこに映る風景が本当に美しく、人々は喜びに満ちていて、だから観ながらどうしても涙が出た。終わりを意識すると普段何気なく見ている景色が美しく儚く見えるものだけど、それが本作の映像からも伝わってきて胸が苦しかった。
演者の皆さんもとても良くてやはり小松菜奈さんはすごい。印象的なのは登場人物とのやり取りの自然さ(本作、直接セリフに言葉で感情を載せるのではなく日常会話の中に悲しみややり切れなさとか、本音を隠してるのが滲むようになってたのが良かった)や、横顔で語る心情。自分の机でひとり、ピルケースに薬を入れる彼女の横顔、キーボードで文章を打ち込む横顔が脳裏に焼き付いている。
坂口健太郎さんもふわっと笑うところが本当に素敵で、カズくんの焦り、戸惑い、喜びが表情やセリフから放出されててとても良かった。
あと山田裕貴くんのノリが良く面倒見の良い同級生も「身近にいそう!」感が良かったし、奈緒ちゃんの程よい距離感でまつりを心から心配する親友感もすごく良かった。
妹の前でしっかりあろうとする黒木華さんのお姉ちゃんもリアルすぎて胸が苦しくなったし、あと松重豊さんの静かに娘を心配し続けるお父さんも良かった。
リリーフランキーさんの焼き鳥屋大将の静かでぶっきらぼうだけど温かい感じも良かった…。
まつりとカズくんの恋は本作のひとつの主軸ではあるけど、それだけではないと感じられるのも良かったな。
カズくんがちゃんと生きようと思い直す物語でもあり、病気になってなんでも諦めてようとしていたまつりが手を伸ばせるようになった物語でもあった。
あと私たちは未来が当たり前にあることを前提に話をしたり、人生の予定を立てたりするんだな、と本作を観て気付いた。
来年また来ようね、とか、数年後の東京オリンピックが、とか。
それが決して当たり前のことではない感覚は忘れないでいたいなと思う。