劇場公開日 2021年12月10日

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「「60年代ロンドンの音楽と文化にオマージュしたホラー調で泣ける最高のシスターフッド映画」」ラストナイト・イン・ソーホー ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「60年代ロンドンの音楽と文化にオマージュしたホラー調で泣ける最高のシスターフッド映画」

2021年12月12日
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鑑賞方法:映画館

『ベイビードライバー』も見事な作品だったエドガー・ライト監督が今回は、タイムスリップモノにサスペンスホラーを組み合わせて60年代ロンドンのソーホの一見華やか繁華街でアーチィスト目指す女性達の悲哀をトリッキーな映像と編集で仕立てている。

若干ネタバレもしてます。

ファッションデザイナーを目指す主人公のエロイーズのダンスと生まれもつ霊感を視覚情報として観客に提示してから上京してロンドンへと向かう車窓までを、軽快にテンポよく捌く見事な導入から、若い女性達を品定めするような運転手や傲岸不遜な寮生達などの人物配置も巧みで、次第に重苦しくなるが、寮を出て下宿した部屋で見る夢の中でサンディと共に夢を追い解放されてゆく前半は良質な青春映画を彷彿とさせてくれる。

個人的には最初に60年代の夜の街に迷い込む場面のワクワクする高揚感が最高で『007/サンダーボール作戦』の看板もアガる。(もちろんこれも目配せや匂わせだが)
余談ですが、以前読んだ映画本だと『007/サンダーボール作戦』は、当時のロンドンで、ともかくヒットして何週も24時間上映されても引っ切り無しに客が入ってたらしい。

彼女が亡くなった母の姿を鏡などに見出だす霊感を説明せずにサラリと視覚情報で提示するなどのうまさで後半は、ロンドン幽霊奇談に通じるホラー展開にサイコスリラーの要素を盛り込んでいて、ジャンル的融合がとても良い。

現在を生きるエロイーズと60年代のサンディの夢の中での意識的融合は、徐々に現代にも及び、ちょっとした仕草などに影響される場面も微笑ましくも少しずつ暗い影を落としてゆく展開は、ポランスキーの『反揆』やニコラス・ローグの『赤い影』などのイメージも公言されているが、個人的には、新海誠監督のアニメーション映画の傑作『君の名は』のテンポ感が影響にもある感じだが、こちらは男女ではなく女性達の苦難を体験して共感を育み、ラストで立ち上がり共鳴する二人は、良質なシスターフッドでもあると思う。

画面作りも撮影編集も奮っており、ソーホの部屋に入ってくる煌びやかだが毒々しい色彩のネオン光に画面が包まれる場面は、ヒッチコック監督の『めまい』を彷彿とさせて、最後のところは同じヒッチコック監督の『フレンジー』(これもロンドンが舞台)や『サイコ』などの傑作もサイコスリラーを取り込んでおり、本作のエドガー・ライト監督同じ英国出身であるヒッチコック監督への目配せとしても機能していると思う。(もちろん別の意味合いもあるのが後記します)

近年の映像作品でジェンダーバイアスを取り上げた作品として傑作『プロミシング・ヤング・ウーマン』などがあるが、本作もその系譜に入る男性社会に搾取されてきた女性達への哀歌であり、自分も含めて世の男性陣への意識にも訴える要素が多々あるのが特徴的で今日的。

ソーホの夜の世界で夢や希望に満ちた若い女性達を精神的にも性的にも無惨に食い物にする男達の醜悪さは普段紳士として高価なスーツに身をまとって上品に振る舞う当時の自分勝手な男達へのカウンターにもなっていて、ラストで殺されて幽霊になってまで、自分の罪を意識出来きずに助けを求める連中に、NOを突きつけるエロイーズの姿は痛快でもある。

あと『007/サンダーボール作戦』などのコネリーボンド映画の定番でボンドに協力して殺されたり、性的な関係の後に文字通り弾除けに使われている女性の場面などは、この映画のテーマを思うと何とも象徴的。
ヒッチコック監督も女優への性的なパワハラが再度クローズアップされているのも意識してしまう。

ホラーやスリラーの定番でもある怪しい人物が、実は?なところも忠実に機能していて、エロイーズに忠告をする謎の男にイギリスの名優だが怪優寄りでもあるテレンス・スタンプを配役しているのも嬉しい。
そういえば彼が出演した名匠ケン・ローチー監督の初期作の『夜空に星のあるように』(1967年)でも当時の60年代のロンドンが舞台で、劇中のスタンプの妻であるヒロインが怪しげなバイトで素人ヌードモデルしていて、そこの客人であるアマチュアカメラマン達も高価な機材を手にした富裕層のオッサン達で、本作の夜の紳士達にも似た、やーな!バイブスを感じる。
ヒロインがモデルしている場面でオッサン達がポーズを指示するところで「最低なケモノ見る目線で自分を見てくれ」と床に這いつくばる無様な姿のオッサンには、鑑賞時に爆笑したが!(川崎市民ミュージアムのケン・ローチー特集にて鑑賞)

本作の重要な役どころで、嬉しかったのは個人的にも007のベスト作である『女王陛下の007』の悲劇のヒロインであるダイアナ・リグを起用しているのは、本作のテーマの一つでもあるジェンダーバイアス的観点からも意味合いがあり、エンターテインメントの世界で、男に搾取された女性の栄光と悲哀も007映画や当時のハマー映画など時代と共に反映されていて、60年代辺りからロンドンを起点に女性の服飾にミニスカートなどが流行して、肌を隠していたイギリスの女性達も一斉に開放感を味わっていたのだろうし、その影響でお堅いイギリス映画などでも、肉感を強調した露出の大きい服装の女性が映画に多く登場して来たと思う。
その象徴が007や時代物なのに露出度の高い女性が多々でるハマーホラーなどの映画だと思う。

今年やっと公開された最新作の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』も完全な『女王陛下の007』へのオマージュ映画なので、両方の映画を観ると判るが、偶然とは言え同じ時期にダイアナ・リグに関係する映画が並ぶ奇跡!しかし残念ながら彼女は結果を見ずに昨年亡くなっているのが、ラストの炎と共に消えてゆく場面ダブって何とも悲しい。

主演のサンディ役のアニヤ・テイラー=ジョイとエロイーズ役のトーマシン・マッケンジー共に見事な演技と魅力があり日本でも知られて欲しい俳優だと思う。

気になるところは、些細で個人的観点ですが後半のゾンビ化した幽霊達の映像処理が若干ガチャガチャとして安ぽく見えてもう少しシンプルなメイクなどで抑えてもいいのでは?と感じた。

音楽も当時の有名なヒット曲をふんだんにまぶして時代を振り返りながらも、効果的に機能しているのは『ベイビードライバー』でも証明済みで、効果音で驚かせるところもあり、ぜひ音響の優れた映画館で本作を鑑賞することをお勧めします。なかなかの傑作だと思う。

本筋とそれるが、最近放映されているアニメで霊感を持った女子高生の日常を露骨に性的な絵と視点から描いている作品があり、おや?大丈夫か?と思ってしまう。原作にその要素は薄いと思うけど

ミラーズ
NOBUさんのコメント
2021年12月13日

今晩は。
 コメントバック有難うございます。又、フォロー頂き有難うございます。(営業成績の上がらない営業マンみたい・・)
 ミラーズさんは、明らかに私より映画に精通されていますね。
 幾つかのレビューを拝読させて頂き、その感を強く抱きました。
 これからもよろしくお願いします。
 あ、このコメントへの返信は不要です。では、又。

NOBU
NOBUさんのコメント
2021年12月12日

今晩は
 素敵なレビューですね。
 ”画面作りも撮影編集も奮っており、ソーホの部屋に入ってくる煌びやかだか毒々しい色彩のネオン光に画面が包まれる場面は、ヒッチコック監督の『めまい』を彷彿とさせて、”
 ”007のベスト作である『女王陛下の007』の悲劇のヒロインであるダイアナ・リグ・・”
 参りました‥。では又。

NOBU