「一日で一生を体験」オールド SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
一日で一生を体験
面白かった。
ホラーなのだけど、何が襲ってくるかって、「老い」が襲ってくるという。
ある意味これは究極の恐怖なんではないか。
誰しも「老い」の恐怖を必ず経験する。
たぶんこの映画は、本来何十年もかけて、少しずつ、ゆっくり味わう一生分の「老い」の恐怖を、たった一日に凝縮してしまった、ということだ。
登場人物たちへの不思議な共感がある。それは、「老いは自分が思っているよりも早くおとずれる」ということ。「今がずっと続く」とつい錯覚してしまうものだが、「気づけばいつの間にか老いている」。そのことに焦るが、最終的には認めて受け入れるしかない。
受け入れるというのは、「老い」そのものもそうだが、それまでの過ちであるとか、自分の無力さであるとか、自分のそれまでの人生そのものとか、これから死んでいくしかないこととか、いろいろなものを含めた受け入れだ。
おそらく誰もが、老いを重ねるごとにそれらを受け入れた、ある種の諦念を身に着けていくのだろう。そんなことを感じさせられた。
すごく面白かったんだけど、これって出オチみたいなアイデアなんで、予告編見ない状態で観たかった。予告でだいたい全部の恐怖シーンが出てたんで、ストーリーのあらましが分かってる状態に。
序盤では、何が原因か分からない事件が次々に起こって登場人物たちが困惑するところが面白いのだけど、観てる方はその正体がわかってしまっているので、登場人物たちに同調しにくく、もどかしく感じる(「志村うしろ!」状態)。
登場人物たちそれぞれの死にざまが面白い。
みんなを助けるために死ぬ者、老衰していって、老いを受け入れ、心穏やかに死ぬ者…。
壮絶だったのが、美しさにこだわる者が老いを受け入れられずに自ら化け物のように変貌して死ぬ様。
楳図かずおの作品に、「死ぬときにその人の本性が出る」という話があったけど、まさにそれ。
「世にも奇妙な物語」だったら、異常現象の理由は語られずに全員死亡で終わりそうだが、ちゃんと理由が語られてハッピーエンドで終わるところがハリウッド映画的なのかな。
でも下手に科学的に説明してしまったものだから、逆に細かいことがいろいろ気になってしまう。
髪の毛や爪が影響を受けない理由として、毛や爪は死細胞だから云々と言っていたが、いやいやその理屈はおかしい…。爪や毛の根本の細胞が細胞分裂してこれらが伸びるのだから。切開した腹の傷を開いたままにしたら、傷口が開いたまま治ってしまうんではないか…。子供たちが成長していって歳相応の精神性や身体能力を身につけていくのも、「経験」や「学習」が発達に必要だということを無視していてもやもやする。フィクションにおけるリアリティをどう処理するかは難しい問題だ。
終盤で次々に伏線が回収されていく展開は本来なら「気持ちいい~」となるはずなのだが、上記の細かいことがチラついて素直に感動できなかったところがある。
「統合失調症」の描き方が気になった。日本ではたぶんこの映画での扱いはNGだ。最近も、「ルックバック」という漫画で、統合失調症患者に対する偏見や差別を助長するという理由で、修正された。何がOKで何がNGなのかの線がアメリカと日本でどう違うのかの表があったら見てみたい。
冒頭のシャマラン監督の映像は日本の公開だけにあるものなんだろうか?
何の意図でこの映像があるのかわからなかったし、音量が大きめで調整されてないと感じた…。
シックスセンスの「この映画のオチをばらさないでくださいね」的なメッセージはすごく期待感を高めてくれてよかったけど、この映画の場合は無い方が良かったかな…。