すべてうまくいきますように : 映画評論・批評
2023年1月31日更新
2023年2月3日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマほかにてロードショー
オゾン×ソフィー・マルソーの初顔合わせで描く、死を前にした家族の絆
フランソワ・オゾン監督とソフィー・マルソーのコンビは一見、予想外に思えるが、じつはオゾン監督は「ラ・ブーム」でマルソーのファンになって以来、いつか一緒に仕事をしたかったのだという。「8人の女」のキャスティングでマルソーに断られたというのは、よく知られた話だ。そんな彼がようやく夢を実現したのが、本作なのである。しかもマルソーは実の父を亡くしたばかりだったというから、オゾン監督もずいぶん酷だと思えるが、それだけに、近年ないほどに彼女がいい演技を見せているのは、さすが俳優の演出に長けている監督ならでは。本作はその点で、オゾンからマルソーに向けた、美しいギフトと言える。
ホモセクシュアルでありながら結婚して娘ふたりをもうけた父アンドレ(アンドレ・デュソリエ)と、つねに不仲な両親を見て育った姉妹。とくに姉(マルソー)は、幼い頃から辛辣な父の言葉を浴び辟易している一方で、心のそこでは父を愛している。だが、そんな彼が脳卒中で倒れて以来、フランスでは違法とされる安楽死を自ら望むようになったため、娘たちは葛藤しつつも、その方法を模索する。
原作は「スイミング・プール」の脚本家、エマニュエル・ベルンエイムが自らの体験を綴ったエッセイ。映画でエリック・カラバカが演じている彼女の夫は、元シネマテークの館長で現ユニフランス代表のセルジュ・トゥビアであり、知っている人が見ると妙に似ているところが微笑ましい。
実際本作は、尊厳死というテーマから想像するような重厚な社会派映画というよりは、型破りな父と娘の絆に焦点を当て、シリアスななかにもユーモアが込められている。独断、毒舌で好き勝手に生き、病床でもわがまま放題でいながら、ふとした拍子に娘の誕生日を口にしたりする憎めない父を、アンドレ・デュソリエが飄々と演じているのも見どころだ。さらに脇役陣もオゾン映画らしく、常連シャーロット・ランプリングや、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー映画のミューズであったハンナ・シグラが、きりりとした味を添えている。
観終わったあと、ずしんと落ち込むのではなくどこか晴れやかな気分にさせられるのは、最後まで謳歌してこそ人生なり、という主人公の姿勢に拠るものだろう。
(佐藤久理子)
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