レッド・ロケットのレビュー・感想・評価
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アメリカの等身大
テキサスの工場地帯を舞台に、落ちぶれたポルノ男優がドーナツ屋で見つけた少女を使って再帰しようとする物語。南部のホワイト・トラッシュの日常が赤裸々に描かれていて、アメリカの"意識の低い"等身大の現実がこの映画にはある。仕事がなくてLAから別れた妻の元に転がり込んで、昔のつてでマリファナを売って日銭を稼いで、ドーナツ屋でバイトする若い女の子を引っかけてポルノスターにしようと奔走し始める。妻と同居している義母は口うるさく、妻は妻で、まだ主人公のことを想っていたりするし、隣に住んでいる若い奴は、軍歴があるとウソをついてちっぽけな自尊心を満たしている。酷い現実を詩的な美しさを感じる映像で切り取るショーン・ベイカーのセンスが見事。 ときおりテレビのニュースから流れるトランプの演説が、どういう人々の虚しさを埋めていたのか、この映画を見ると実感できると思う。トランプが提示したのはまやかしの救いだが、まやかしの救いしかないなら、それにすがるのも無理ないのではないか。主人公が追い求める栄光も実現しそうにないまやかしだけど、誰だってそんなまやかしの救いにすがって生きていることに変わりないのではないか。ショーン・ベイカーのアメリカを見つめる視点はとても正確だ。
アメリカンスピリットの体現者か。それとも死神か。
果たしてこの男は不屈のアメリカン・スピリットの体現者なのか、それとも死神か。ショーン・ベイカー監督が主人公に据えるのはいつも、一般的な映画ではあまり大々的に描かれない人々だ。本作も元ポルノスターという肩書の男をメインに、工業地帯のコミュニティ内に波紋が広がっていく様を、雲ひとつない晴天下で刻んでいく。主人公マイキーは口が達者で、彼が手を合わせて必死にお願いすれば、たいていの人はそのポーズに根負けして、渋々ながら承諾してしまう。その結果、道を踏み外したり、思わぬ結果をもたらすことも多いが、しかしベイカー監督は決してこの男に否定的な烙印を押すことはない。これはアメリカの隅っこの話ではあるけれど、主人公は他者をどれだけ巻き添いにしようとも、人生の主軸を自分自身に持ってこないと生きられない人なのだろう。どこかトランプ大統領にも似たお騒がせ男の人物研究に、頭を抱えつつも不思議と見入ってしまう作品だ。
生きることに貪欲すぎるクソ男に魅入られる。困ったことに。
この映画の主人公がクソ男であることに異論は出ないだろう。確かに愛嬌はある。が、自己愛だけが強くて決して思いやりを持つことのないエゴの塊。しかしやたらと生存能力にだけは長けている。それでもロサンゼルスではやっていけなくなったらしく、地元に戻ってどん底の状態から裸一貫やり直す。と、そんな物語だと捉えることもできる。しかし、主人公のマイキーがやっているのは徹頭徹尾、懐柔と搾取であり、周りもわかっているはずなのに、なかなか切り捨てることができない。
実際にこんな人間が近くにいたら嫌いだろうし、魅力があってもお近づきにはなりたくない。劇中のほとんどキャラと同じように、出会いがしらに眉をしかめて当然だ。それなのに、映画になったらやたらと面白く、非道であれば非道であるほど魅入られてしまうのだから恐ろしい。こいつの無駄に過剰な生きるエネルギーに勝てないのだ。生きるということに貪欲な人間は、正邪に関係なく弱いものを巻き込む力がある。つい笑わされてしまうことも怖い。
2016年のトランプとヒラリーの選挙戦が背景にあることは、あからさまに意図的で、この映画に出てくるような貧困地帯の人々がトランプ支持の基盤になった。トランプも搾取が身上であり、そのくせ弱いものの味方のようにふるまって大統領にまで上り詰め、さらにはQアノンのようなカルトの信仰対象にまでなった。
マイキーにそこまでの器はない。だからこいつのペテンはひと月ほどで破綻する。変種の人情コメディとして最高に面白い映画だと思うが、大きな社会というレイヤーが重なっている。レイヤーという意味では、マイキーのクソっぷりをわかりつつも、つい面白がってしまうストロベリーというキャラクターは、別種の搾取を象徴するような非常に興味深いキャラクターだと思う。にしてもみごとにクソ人間ばっかりで凄いな、この映画。皮肉でなく全力の誉め言葉として。
元ポルノ俳優が演じる元ポルノ俳優のトホホな人生
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ではディズニーワールドに隣接するモーテルを住まいにしているシングルマザーとその娘の、ホームレス&ホープレスな日常を描いたショーン・ベイカー監督。アメリカ・インデペンデント界の俊英と呼ばれるベイカーは、あの時、夢の国を謳う遊園地のすぐ側で繰り広げられる夢とは程遠いアメリカの現実を浮き彫りにして、世界中に衝撃を与えたものだった。 そして、続く『レッド・ロケット』では、落ち目の元ポルノ俳優が故郷のテキサスに帰って人生を再生しようと試みるものの、結局、ポルノ絡みのビジネスに逆戻りするしかないという、まさにトホホな現実を描いて、前作に勝るとも劣らない苦い後味を残す。 主人公のマイキーが長らく疎遠だった妻のベッドに転がり込み、すぐに安易なドラッグビジネスに着手したり、ドーナツ屋の娘をポルノ業界にスカウトしようとしたりと、『そんなのダメに決まってる』ことを何の迷いもなくやってしまう。やがて訪れる悲しくて痛烈な結末は、『フロリダ~』のエンディングを思い起こさせもする。 ペイントアートのような背景に人物を配置する独特のロングショットや、周囲の雑音で度々セリフがかき消される演出は、居ながらにしてアメリカの田舎町へと観客を誘ってくれる。時代はヒラリーとトランプが大統領の座を奪い合っていた2016年。しかし、テキサスの田舎では選挙の行方とは関係なく生々しくも愛おしい人間の生活が営まれていたという視点が、ポリコレ時代には新鮮に感じる。マイキーを演じるサイモン・レックス自身も元ポルノ俳優だったとか。その憎めないお色気が映画の感触を複雑なものにしている。
Rotten at the Core
Sean Baker once again demonstrates his gift for highlighting the stories of the fray on the streets in American city outskirts. Red Rocket is the story of Mikey, a recently retired adult actor who returns with his wife and mother-in-law. Obviously in trouble, he starts off a likeable guy and the center of a comedy of making ends meet. By the end he is totally detestable though no less eccentric.
ショーン・ベイカーいいなー
今まで見た2本と雰囲気が同じ、この空気いいのよなー。映画やドラマや旅行に行ったって永遠に触れることのないアメリカ、でもこういう人たちが多数派なんでしょ?日本人からは考えられないトランプが大統領になるメカニズムもそれよね。まあでもそんな難しいことはいいんです、映画として最高。キャラクターが全員たってるしみんな必要。そして結局考え込まず能天気に生きてるヤツが勝ちっていうものすごいポジティブメッセージ。シニカルなのにポジティブ、これはすごい才能です。
私が今まで見てきたアメリカ映画であれば終盤で刺されるか撃たれるかし...
私が今まで見てきたアメリカ映画であれば終盤で刺されるか撃たれるかして死ぬことになるような主人公であったけど、持ってるもの全部なくしてもだいたいの人に嫌われても人生は止まらず進んでいくのが良かった。
チャラチャラストーリーなのだが映像良し音楽良しのナイス娯楽作品
ショーン・ベイカー監督作品に興味があり鑑賞。 終始目が離せないイカれた展開に、なんだこの面白さは!期待以上のデキに大満足。 オープニングの懐かしのNSYNC「Bye Bye Bye」でいきなりテンション爆上がり。バスの中で居眠りしていた主人公マイキーが、音楽のテンポに合わせて目を覚ますシーンなんかは100度観したくなるほどの高センス。ざらついたフィルム映像はタフなアメリカンテイストと好相性。 そして、工業地帯の荒廃感とレトロポップな建物とのハーモニーが、ストロベリーちゃんのなんともいえぬキュートさと、その他登場人物のしょうもないダラダライケイケ感を大いに盛り立てる。特にストロベリーちゃんの弾き語りチックな歌声は結構味があり、カーステで聴きたくなるほど印象的。 とにかくストーリーはチャラチャラだが、映像良し音楽良しで観どころ多い作品。とても濃くてクセ強具合は、個人的にはタランティーノ監督を感じる部分も。 ガンガンに登りつめつつ呆気ないラストシーン、うーんナイス余韻。これはとんだ名作だ。
素晴らしきかな、クズ人生。
元ポルノ男優の主人公マイキー。 最低最悪のクズなのに愛さずにはいられない! 登場人物全員クズなのに、どこか愛嬌があって憎めない! それどころか、何ならほんわか心温まる感じさえ味わってしまう不思議な魅力に溢れた珍作。 年老いて尚、ポルノスターだったあの頃に心酔している勘違い主人公マイキー。 そんな彼が別居中の妻の元に無一文で潜り込んできた先に起こるトラブルの連続が描かれる…かと思いきや。 まさかまさかの大恋愛!!www スザンナ・サン演じるストロベリーのあどけなさとエロティックさとのギャップ…からの、昼ドラ&純愛(?)展開には見ているこちらもハラハラドキドキ。 醜態を晒しながらも本能に忠実に生きるマイキー。 どこまでも成長しない彼にヤキモキしましたが、終盤の全てを終えてのはにかんだ表情を見た時。 これこそ彼の魅力のようにさえ思えてしまいました。 ダメながらも欲求に忠実に、けれども一生懸命に生きる姿は最も人間らしいというか、男らしいのかもしれません。 主人公がクズの映画は数あれど、これほど人としてダメなのにチャーミングで憎めないキャラクターは初めてでした。 彼がただチャリンコ漕いでるだけなのに、なんでこんなにも清々しい気持ちになるのか? 自分でももうよく分かりませんが、兎にも角にも非常に心地いい真っ直ぐな作品でした。 初期のタランティーノ作品にも似たダメ人間達の群像劇。それのほっこり日常編というか、そんな感じでしょうか。 他のどの作品にもないチャーミングな作品なので、決して万人向けとは言い難いですがオススメしたい作品です。 エンドロールの後、ストロベリーと結ばれてる事を願わずにはいられません。
個人評価:3.8 ショーン・ベイカーらしいコミカルなキャラクターと...
個人評価:3.8 ショーン・ベイカーらしいコミカルなキャラクターと物語。 ものすごくテキトーな口調と、自分本位の考え方の主人公なのに、どこか憎めず愛着を感じる演出が素晴らしい。 ゆったりとした田舎町で起こる、ダメな人たちの物語をハートフルに描かせれば、この監督の右に出る者はいない。
愛情ある映画
元ポルノ俳優のクズ満載の映画。でも笑えたり、飽きずに見れる。ギャングも登場するけれど皆愛情があるんだ、たとえクズでも。面白かった。 このサイモンレックスの演技が素晴らしい。ドキュメントを見てる様にリアル。それは監督も見事なんだろうね。
山下敦弘、まだ撮れる、発奮を。
良作。 男性性と女性性に囚われる私達の深刻を暴き語る為に、 それにこそ無自覚に盲従する市井の群像を最適配置する天才の筆致。 某政治家演説を背に今こそ撮るべき閑散として美しい風景の底抜けの哀しさと可笑しさ。 山下敦弘、まだ撮れる、発奮を。 劇場で見ねばだった。
正直、マイキーのことクソだが憎めないとゆう感情より気持ち悪いが勝つ...
正直、マイキーのことクソだが憎めないとゆう感情より気持ち悪いが勝つが このとんでもねぇ、クソ野郎のひと月が映画になってなおかつ、面白いのがショーン・ベイカーのすごいとこ。 今までの作品も、清濁合わせてなんてあたりまえの(むしろ濁がかなり濃い)人間達の物語をずっと描いてきたけど この作品はみごとに男女ともにクソ野郎しか出てこないけど、心地良い映画のビジュアルを観ながらテキサスってこんなことか〜と自慢されたくないアメリカの姿を観ている時間は不思議とそこまで不快じゃない。 役者陣の演技が素晴らしすぎて、 ストロベリーの子の魅力がずば抜けるてるはもちろん、特に妻のレクシー役のブルー・エルロッドさんの生活感ありすぎる演技とギャングの娘役の人の雰囲気もすごく良かったし、レクシーの母親もテキサスの街からそのまま連れてきたかのような、生々しさがあってすごい。 フルチンで走るマイキーのシーンは思わず、笑ってしまったw ショーン・ベイカー作品だとやっぱり今のところ、タンジェリンが1番好き。 配信で鑑賞
迷惑な男が迷惑をかけるだけの物語
この映画は評価が真っ二つに分かれる作品だと思います。 主人公に感情移入して作品を見た人は評価が高くなるし、 主人公以外の登場人物に感情移入してしまった人は評価が低くなります。 なぜならこの作品の主人公はただただ迷惑なだけな人で、本当に迷惑なだけな人です。 普通の映画なら「この後で感動的な展開になるだろうな…」と思ってもその感動的な展開は最後までやってきません。 実際に主人公みたいな人間に人生をぐちゃぐちゃにされた経験がある人がこの作品を見ると主人公意外に感情移入してしまって評価が最低になるかもしれません。 でもいい映画です。
【アメリカの田舎のプア・ホワイトの実情を、”過去のポルノ男優の栄光”を誇る男を主人公にして描いた作品。”甘き人生をもう一度と”画策する男と厳しき現実をシビアに描いた作品でもある。】
ー ショーン・ベイカー監督は前作「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」で、プア・ホワイトの現実をスマホで撮った映像で観る側に見せつけた監督である。
貧しいながらも、全身刺青が入った母親(だが、優しい。女優さんはショーン・ベイカー監督が見出した。)の元、育つ小さなムーニーが”夢のワンダーランド、ディズニーに憧れる姿に、劇場で観て涙、駄々洩れになった事は今でも覚えている。あのカリフォルニアの陽光の元・・。-
■落ちぶれて無一文になったポルノ俳優・マイキー(マイキー・レックス)は、故郷に戻って別居中の妻・レクシーの家に転がり込む。
ブランクのせいで仕事もなく、昔のつてでマリファナを売って糊口をしのぐ日々。
だがドーナツチェーン店で働く18歳の少女、ストロベリーとの出会いを機に、彼は再起を夢見るようになる。
◆感想
・元ポルノ俳優・マイキーの人生を舐め切った生き方と、周囲に迷惑をかけまくりの生き方に苛つく。
ー 職を失ったら、元妻レクシーの家に転がりこむ姿と、口先三寸で過ごす姿。-
・そんな中、マイキーはドーナツチェーン店で働く18歳の少女、ストロベリーに眼を付けるのである。
ー で、驚くのはストロベリーの、飽くなき性への追求である。大丈夫か!アメリカ!-
・マイキーも、精力剤を飲みつつ、レクシーの要求に応えつつ、ストロベリーを一流のポルノ女優にして、自身も第一線に復活しようと画策するが・・。
<前作と比較すると、少し空回りしてしまっているかな。
途中、二度流される忌むべきトランプの演説シーンも効いていないと思った作品。
但し、プア・ホワイトの実情に迫っているとは思うので、この路線でショーン・ベイカー監督には、行って欲しいと思った作品である。
それにしても、マイキーも元妻レクシーも周囲の人もダメダメじゃん!と思った作品である。
これじゃ、プア・ホワイトの現状は抜け出せないよ。
きっと、これは、ショーン・ベイカー監督の意図だと思った作品でもある。>
素晴らしかった
久しぶりにいいクズ男の映画を見た。しかし、クズなりに明るくていい。またヒロインの17歳が話し方がキュートで彼女も明るくてすごくいい。物語は、予想もつかない形で転がって、主人公は全裸で街を走る。ただ、若い女の子を躊躇いなくポルノの世界に誘うのはどうかと思う。
どんな形であれ、明るく生きることができればいいではないかと前向きなメッセージを感じる。
どうしようもない男のファンタジー
日差しが強そうなアメリカ南部、テキサスのどうしようもない男の生活。テレビでは大統領候補のトランプがほえている。 男はそんな生活から抜け出そうとするが、17歳の女の子が未来への希望に目を輝かせている姿は、うまくいかない未来を暗示する。まあ、うまくいくわけがない。 ポルノ俳優ではないにしても、誰しも多かれ少なかれつまらない仕事をして、つまらない毎日を送っている。と考えると主人公のマイキーは我々であり、物語は男のファンタジーである。 「ドーナツホール」という店はテキサス州ヒューストンのあたりに実在するらしい。
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