劇場公開日 2022年1月28日

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「自分が畠山刑事に追い詰められている気がした」ノイズ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0自分が畠山刑事に追い詰められている気がした

2022年2月2日
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鑑賞方法:映画館

 観ていてとても苦しい映画である。判官贔屓でどうしても立場の弱い3人の主人公に感情移入してしまうから、永瀬正敏が演じる畠山刑事が憎き敵に思える。ましてや暴力も不法侵入も脅しもなんでもありの無法刑事である。この刑事を嫌うなというのは無理だ。
 3人の主人公は、胆の据わったふたり、藤原竜也の泉圭太と松山ケンイチの田辺純に対して、気の弱い神木隆之介の守屋真一郎には恐怖感の落差があり、圭太と純の間に微妙に流れている違和感があって、関係性はとてもスリリングだ。そこに畠山刑事が揺さぶりをかけてくるものだから、こちらまで脅されている気になる。
 後半になると畠山刑事の推理が冴えてくる。バイオハザードのゾンビのように、レオンやクリスの前に島民が立ちはだかってくる気さえしてくる。もし畠山刑事が「相棒」の杉下右京警部のように穏やかで紳士的であったらどうだろう。暴力的な畠山刑事よりももっと怖かった気がする。廣木隆一監督も本当はそうしたかったのかもしれないが、あちらのドラマがあまりにも有名なので、同じようには出来なかったという事情があるのかもしれない。

 芝居の上手な4人に加えて、柄本明と余貴美子の名人ふたりが脇を固めて物語にリアリティを与え、守るべき対象としての役割の黒木華の加奈が、圭太の恐怖心を増すと同時に、覚悟も決めさせる。事情を知らずに落ち着いている加奈と、当事者である圭太の会話は、どれも短いシーンではあるが、スリルに富んでいる。流石に舞台俳優同士の面目躍如だと感心した。
 神木隆之介はこういうナイーブな役がとても合っている。ある意味で事態を収拾困難にしてしまった守屋巡査の「カサブタ」というひと言が、その後守屋巡査自身を苦しめ続けることになるのだが、その一連の演技が素晴らしい。
 松山ケンイチは映画「BLUE」で演じた温厚でストイックなボクサーの主人公瓜田がこの人の真骨頂だと思った。本作品の純は物語の中で唯一複雑な役だが、心に闇を隠しているような演技が秀逸だった。

 観ていて苦しいのは、本作品が人間の欲や恐怖や愛情や怨嗟をストレートに表現しているからだと思う。まるで自分が畠山刑事の鋭い視線にさらされているかのように感じるのだ。その意味でも畠山刑事の人物造形は成功しているし、永瀬正敏の演技は実に見事だった。

耶馬英彦