太陽とボレロ : インタビュー
【インタビュー】檀れい、水谷豊監督の現場で感じた“愛おしさ” 思い出の音楽の話も
「今もこうして笑いながら取材を受けていますが、水谷組は本当に笑顔が絶えないんです」。そう話すのは、水谷豊監督作品「太陽とボレロ」(公開中)で主演を務めた檀れい。初参加となった水谷組の印象を語るその表情を見れば、撮影がいかに充実していたのか伝わってくる。檀、そして水谷に本作の話を聞いた。(取材・文/編集部 撮影/堀弥生 ヘアメイク/山北真佐美、黒田啓蔵 スタイリスト/高橋正史(OTL)※高は、はしごだかが正式表記)
本作は、「TAP THE LAST SHOW」「轢き逃げ 最高の最悪な日」に続き水谷が長編映画のメガホンをとり、自ら脚本を執筆したオリジナル作品。ある地方都市のアマチュア交響楽団「弥生交響楽団」の主宰者である花村理子(檀)は、18年間、音楽を愛する個性豊かなメンバーたちとともに活動してきた。しかし経営は苦しく、ついに楽団の歴史に幕を閉じることに。楽団最後の解散コンサートが開催されることになるが、個性的なメンバーたちは一筋縄ではいかず、それぞれの思いを抱え動き回り、衝突する。
――檀さんは本作で映画初主演を務めました。改めて、オファーを受けたときのお気持ちを教えてください。
檀:主演のニュース記事が出たときに、「オファーを受けて飛び上がるほど嬉しかった」と書いてあったのですが、初主演だから嬉しかったのではなくて、水谷組に自分も出演できることが本当に嬉しかったんです。前2作も当時から拝見していたのですが、なんて素敵な映画を撮られるんだろうと思って、別のお仕事で水谷さんとご一緒したときに「どういう風に演出されたんですか」って質問をしていたくらいです。それから随分経ってこの映画のお話をいただいたのですが、あの水谷組に出演できるんだってことが本当に嬉しくて、すぐにやりたいですとお返事しました。
――水谷監督は、脚本を執筆している段階からあるシーンで檀さんの顔が浮かんだそうですが、どんなシーンでしょうか。
水谷:「白鳥の湖」を使用したホテルのシーンがあるのですが、その後に理子さんが朝方の公園で落ち込むシーンです。それまでは架空の人を想像して脚本を書いていましたが、そのシーンだけ檀さんだったらこんな感じになるんだろうなって思い浮かびました。そのシーンの後はまた架空の人を浮かべながら執筆したのですが、ずっと檀さんが頭に残っていました。
その後キャスティングに入ったとき、檀さんの名前が出ました。でも、檀さんの顔が浮かんでいたことはプロデューサーにも言わなかったんです。オファーすることはできますが、檀さんには断る権利もあります。「顔が浮かんだ」って言ってむなしいことになるかもしれないので(笑)。こうして話せるようにもなったので、引き受けてくださって本当に良かったです。
――檀さんは“念願の水谷組”ということですが、印象に残っている演出はありますか?
檀:犬猿の仲の片岡さん(河相我聞)と与田さん(原田龍二)が喧嘩をして、鶴間さん(石丸幹二)も含めて理子の仕事場で話し合うシーンです。暗い中にみんながいるのですが、「あなたたちに罪はありません、私が悪いんです。鶴間さん、電気をお願い」という理子のセリフを監督が現場で足しました。言い方も言葉を途中で切らずに、流れのまま聖母マリア様みたいな感じでと言われて。それが面白くて、そのシーンはみんな笑いを堪えるのに必死(笑)。カットがかかってからみんなで大笑いをしました。
水谷:暗い部屋から始まりたかったのですが、その後どうやって電気をつけようかなと考えて思いついたシーンでした。このシーンも笑いましたが、撮影中には何回か本番中に僕の笑い声が入っちゃいました(笑)。皆さんを見ていると笑っちゃうんですよ。
檀:それがこちらにも聞こえてくるんです。水谷監督が笑っているっていうのは俳優にとっては嬉しいことなので、余計に笑っちゃいました。
――楽しそうな現場です。檀さんは撮影がない日も現場によくいらっしゃったと聞きました。
檀:今もこうして笑いながら取材を受けていますが、水谷組は本当に笑顔が絶えないんです。でもみんな良い緊張感は持っていて、それぞれが自分の仕事をしっかりやっています。コロナ禍でも良い作品を作るしかないという高い意識のなかで進んでいった現場だったので、その場にいるだけでとても心地よかったですし、監督自身が若いスタッフさんにいたるまで隅々声をかけて士気を高めていて、俳優陣が思いつかないような演出もどんどん作品に入れていって。日々ワクワクする愛おしい現場でした。
私自身、主演だからということは関係なく水谷組の現場が好きでしたし、また皆さんが撮影の合間に楽器を練習する姿を見て、頑張ったキャストたちに対して、檀れいとしてもオーナーの花村理子としても弥生交響楽団に愛着がわいていって。片時も現場を離れたくない、見守っていたいと思っていました。
水谷:檀さんがおっしゃってくれたそういう思いは、空気として現場に広がっていったような気がします。いつも感じることですが、それぞれが持っている熱い思いは、確実に作品のなかにも表れています。
――本作では音楽を愛する普通の人々が描かれていて、改めて音楽の素晴らしさを教えてもらいました。お2人にとって思い出の音楽はありますか?
水谷:僕は昔から映画が好きだったということもあって、中学生から高校生になるあたりに、世界の映画音楽全集というレコードを聴いていました。それを聴くのが本当に楽しみで、見た映画はもちろん、まだ見ていない映画も音楽だけは知ることができました。その音楽を聴くと、空想の世界に行けるんです。それがとても好きな時間で、音楽っていいなって思っていましたね。
檀:私は宝塚時代からいつも身近に音楽がありました。退団後に芸能界に来てからは、今までとは全く違う世界ですし、勝手がわからないこともたくさんあって、自分の生活のなかで何をどう信じたらいいのかわからない時期がありました。
誰も信じられない、何に頼ったらいいかわからないと考えてしまっていたのですが、たまたまテレビで盲目のオペラ歌手のアンドレア・ボチェッリさんを見かけました。目が見えないというのは何が起こるか予測できない暗闇の世界にいるのに、彼は心を開いて歌っていて。その姿に感動して、それからすぐにチケットを買って彼のコンサートに行った覚えがあります。彼はとても強くて、いろんなことを受け止めてネガティブなことさえも包み込んでいるんだ、私もそういう人間になりたいなと彼の音楽を通して感じました。