「シンプルに期待外れだった」シン・仮面ライダー といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
シンプルに期待外れだった
言葉を選ばず言うならば期待外れでした。『シンゴジラ』『シンウルトラマン』と、往年の名作特撮のリメイクを製作してきた庵野監督ですが、右肩下がりにどんどんつまらなくなっていると感じます。
アクションが見辛く、設定が分かり辛く、ラストの展開は飲み込み辛い。
「辛という字に一本線を引くと幸せになる」とは劇中の緑川ルリ子のセリフですが、この映画の「辛い」はどうしたって観客には苦痛です。
しかしながら、好きか嫌いかと問われれば私はこの映画が好きです。
面白くは無かったけど、キャラクターは魅力的だし、実力派俳優を採用しているだけに役者陣の演技は素晴らしかったと思います。見せ場が随所にあるので退屈することもありませんでした。
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頭脳明晰・スポーツ万能の天才である本郷猛(池松壮亮)は、悪の秘密結社ショッカーに攫われ、その体をバッタと融合させた怪物へと改造されてしまう。学生時代の恩師でもある緑川弘(塚本晋也)と娘の緑川ルリ子(浜辺美波)の協力でショッカーの基地から脱出した本郷は、ショッカーの殺し屋・蜘蛛オーグからの襲撃を受ける。
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私個人の一番の不満点は、アクションシーンの見辛さです。
アングルの悪さや画面の極端な暗さ。とにかく戦闘描写が見辛い。特に顕著なのが終盤に仮面ライダー1号2号がイチローの元へ向かい、群生層のバッタオーグたちとの戦闘をするシーン。画面が暗くてマジで何も見えないし、敵も味方も見た目が似ているもんだから、敵と味方の判別がつかない。映画館のスクリーンは暗いシーンの描写に強いはずなんですが、それでも見えないレベルで暗い。間違いなくレンタルDVDやサブスク配信が開始されて、自宅のテレビで観たら真っ暗で何も見えないです。
ストーリーも正直ついていけなかったですね。
自分はウルトラマンの知識が無い状態で鑑賞した前作の『シン・ウルトラマン』では、ストーリー展開についていけずに置いていかれました。そのため本作の鑑賞前に、仮面ライダーについてある程度リサーチしてから鑑賞に臨みました。ただそれでも、ストーリーの展開が急だったり、キャラクター設定が説明不足だったりして、普通に置いていかれましたね。他の方のレビューを見てみても、端折られた部分が多いように感じている方が少なからずいるみたいですね。
本作には蜘蛛・コウモリ・蜂・蠍・カマキリとカメレオン・群生バッタ・蝶などなど次々と敵の怪人が現れますが、ほとんど苦戦することもなく撃退に成功します。見どころであるはずの戦闘シーンが流れ作業のようにポンポン処理され、盛り上がりに欠けます。「テンポが良い」というか「やっつけ仕事」って感じに見えてしまいました。
NHKで放送された本作の製作裏ドキュメンタリーについても触れておきます。私はドキュメンタリーは観ておらず、伝聞での情報しか知らないため、間違ったことを言ってしまったらすみません。
本作の撮影現場、撮影した映像を確認した庵野監督がNGを連発し、何度も何度も撮り直すことになります。激怒するばかりで具体的な指示を出さないNGなので、役者陣もスタッフも何が正解なのか分からないまま、繰り返し同じシーンを撮影します。下準備やスタッフとの情報共有やコミュニケーションが明らかに足りていない様子で、撮影現場の雰囲気はどんどん悪くなっていきます。
とある映画レビュアーさんが「庵野監督は準備された予定調和ではなく、アドリブでしか生まれない爆発力を求めているのでは」という考察をしている方がいらっしゃいました。確かにそれも理解はできるんですが、大量のNGを出して大量の撮影をして膨大な映像を編集して、良いシーンだけを切り取って繋ぎ合わせて作成された本作は、継ぎ接ぎで歪な映像に見えてしまいます。特に戦闘シーンは台詞量が少ない分、キャラ同士の位置関係や動きが観客にも把握しやすいように構図や動きを綿密に練って撮影しないと、ごちゃごちゃで分かり辛い映像になってしまいます。本作のアクションシーンは、まさにこの「ごちゃごちゃで分かり辛い映像」でした。庵野監督の狙いが完全に裏目に出ていたと思います。
ストーリーもよく分からないし、醍醐味であるはずの戦闘シーンもイマイチだったんですけど、個性豊かなキャラクターやそれを演じる俳優さんたちの演技には興奮しました。推し女優の浜辺美波のビジュアルの良さもさることながら、個人的に一番良かったと思うのは柄本佑さん演じる一文字隼人ですね。池松壮亮さん演じる本郷が根暗で声のトーンも低いのに対して、一文字は明るくてハキハキとしたキャラクターです。その対比が素晴らしく、二人が揃ったところでようやくこの物語が始まったような感覚がありました。
期待外れで酷い映画だったと私は思いますが、私は決してこの映画嫌いじゃないです。部分的には楽しめましたし、お金が掛かってる分、クオリティは高かったと思います。本作を「庵野監督の最高傑作」と絶賛する方もいるようですし、試しに観てみたらハマるかもしれませんよ?