「原作履修済みである事が前提の作品です」シン・仮面ライダー NEKさんの映画レビュー(感想・評価)
原作履修済みである事が前提の作品です
仮面ライダー=本郷猛は改造人間である。
彼を改造した秘密結社ショッカーは世界征服を企む悪の組織である。
仮面ライダーは人間の自由の為にショッカーと戦うのだ。
上の文章は初代仮面ライダーのOPテーマの後に流れるナレーションであり、仮面ライダーという番組の主人公、敵、そして戦う理由を簡潔に説明した名文章です。
初代仮面ライダーをリメイクした本作内容もこのナレーションでざっくりと説明が出来ます。
ただし、主人公の本郷猛は頭脳明晰スポーツ万能ではあっても、本作ではヒロインのルリ子にばっさりコミュ障と切り捨てられる内向的な性格だったり
ショッカー、もといSHOCKERは愛の秘密結社と掲げる看板が違います。
それでも、3番目の人間の自由の為にSHOCKERの押し付けてくる自由の無い愛を否定する為に戦う部分だけは全く変わりません。
この上記の基本部分を踏まえた上で本編の内容に触れたいと思います。
まず、このレビューのタイトルで原作と言いましたが、この場合の原作とは特撮版と漫画版の2つどちらも指します。
本作のストーリーは漫画版の大筋を準えた上で展開されており、主人公本郷猛ともう1人の主人公一文字隼人との最初の出会いは敵として出会い、和解、共闘という流れが描かれています。
そこに細かい味付けとして特撮版をオマージュした描写が多数散りばめられており
例として、本郷猛がフラッシュバックで回想する自身を拉致するSHOCKER構成員が女性だけなのは、原作特撮版と全く同じ展開である事
ハチオーグに操られた民主から逃げる際のサイクロン号で階段を駆け降りるシーンが特撮版OPと全く同じだったり、
敵として現れた一文字隼人の戦闘前の「お見せしよう」という台詞は特撮版原作でも一文字が初変身前に言った台詞であり、
一文字との戦いで本郷が負傷したのは左足であり足首が完全に反対を向いているという、特撮版原作で本郷猛を演じられた藤岡弘、氏が仮面ライダー撮影中にバイク事故で足を複雑骨折した有名なエピソードをそのまま作中の展開に落とし込んでいます。
この様に原作を知っている事で話の展開や台詞のあれこれに納得出来ますが、逆に知らない方が観た場合はストーリー中に度々謎の描写が挟まっている様に見えるかも知れません。
これはファンサービスというより、庵野監督自身がファンとしてやりたい描写、外せない描写を入れたのだろうなと思います。
そして、ラストバトルでは明らかに仮面ライダーV3をオマージュしたであろう仮面ライダー第0号とダブルライダーの泥臭いバトルが描かれ、死闘の果てに本郷猛はその命を散らします。
1人残された一文字隼人ですが、本郷の意思を受け継ぎた戦い続けると誓い新たな仮面ライダーの姿と新たなサイクロン号と共に走り出すシーンで本作の物語は幕を閉じます。
これは原作漫画版でも本郷猛が死亡し、残された一文字が新たな仮面ライダーとして戦い続ける展開そのままですが、原作では残された頭脳と機械の身体で本郷は復活します。
本作でも本郷の魂とも言うべきプラーナという物が残されているのは示唆されており、本作の未来でもいずれ本郷の復活は出来るのかも知れませんが、物悲しくも明るさを感じさせるラストの為には蛇足と感じたのかそういった描写はありませんでした。
本編が原作を知っているからこそ分かるシーンが多いだけに、原作を知っているからこそいずれ本郷は復活してくれる筈だと希望を抱くのだと思います。
とにかく原作を知っているか知らないかで本作の印象は変わります。
それに原作者である石ノ森章太郎先生もこうおっしゃっています。
「時代が望む時、仮面ライダーは必ず蘇る」と