「「シン」シリーズのレベル低下が気掛かり」シン・仮面ライダー アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
「シン」シリーズのレベル低下が気掛かり
「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」に続く「シン」シリーズ3作目である。前の2作は庵野秀明が「自分ならこう作りたい」という意欲を感じさせるものであったので、今作にもかなり期待して見に行ったのだが、残念ながら完全に期待外れであった。ギャグ映画なのかとも思ったが、どうもそうではないらしい。
リアリティへのこだわりという面で考えると、「シン・ゴジラ」を 100 とした場合、「シン・ウルトラマン」は 60 くらいに低下していたのが残念で気になっていたのだが、今作は 20 もないのではないかと思わされた。世界観の話ばかりでなく、登場人物の人生観やモチベーションなどがまるで掴めないのである。
ある日目覚めたら突然超人的な能力が身に付いていたという話は、古典的には「フランケンシュタインの怪人」からあるもので、フランケンシュタイン博士が良く吟味もせずに犯罪者の頭脳を移植してしまったために人殺しの怪物を生んでしまった訳であるが、本郷の内面や価値観などを観客に示すことが非常に不十分にしかできておらず、ダース・ベイダーのようにダークサイドに落ちないという保証は何もなかった。
ヒロイン緑川との関係も極めて作り物めいたヴァーチャルなもので、これだけの関係性で彼女を命懸けで守ろうとするものだろうかという疑念が最初から最後まで払えなかった。彼女の存在性もよく分からず、ファイナルファンタジー7のエアリスのように、製作側の都合に従って行動しているだけのようにしか感じられなかった。
敵の目的もまた不明で、何が良くてそんな野望を持つのかが全く分からなかった。現存する人類の全てから肉体を奪って精神だけの存在にしたところで、どんな世界が待っているというのか?少なくとも新たな生命が生まれる可能性はゼロになるだろうが、自分の全存在をかけてまでやることかという鼻白む思いを持て余した。
敵は虫をモチーフにして改造された人間ばかりだが、それぞれ持ち味を生かし切っているとは思えなかった。特に、透明になれるマントを羽織ったカマキリ怪人は、何故わざわざそのマントを脱いで戦うのかがわからなかった。また、本郷を倒せばいいのであれば、マスクを他人に預けている時が絶好のチャンスであったであろうに、何故わざわざ見逃すのかが分からなかった。長澤まさみのサソリ怪人は、わざわざやっつけられるために登場したとしか思えず、登場シーンもほぼ一瞬だったので、完全にギャグとしか思えなかった。
役者は、まず本郷役の池松壮亮が完全にミスキャストだった。終始表情が変わらず、新田真剣佑でも出て来たのかと思った。何より話し声が常に囁くようで、敵と対面しても同じなのには頭を抱えたくなった。緑川役の浜辺はいくらかマシだったが、もっと彼女の魅力を全開にするような脚本に出来ただろうにと、非常に残念だった。竹野内豊が「シン・ゴジラ」から3作連続で政府関係者役だったのは良いとしても、斎藤工まで出て来たのはどうだったのかと疑問だった。彼がウルトラマンになってしまえば、解決は早まるはずだろうと思うと笑いをこらえるのが難しかった。
音楽は 50 年前のオリジナルを尊重していたが、ゴジラやウルトラマンと違って時代遅れ感が半端なかった。ショッカーの手下がやられる時の出血ばかりが強調されていたが、そこにこだわるよりは話のリアリティにもっと力を注いで欲しかった。この作品の映画化を聞いたときに感じた不安がほぼ的中してしまったような感じで、「シン」シリーズの今後が不安になってしまった。
(映像4+脚本2+役者3+音楽2+演出3)×4= 56 点。