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漫画家夫婦の妻が夫の浮気に気付き、不倫を題材にした漫画のネームを彼が読むよう仕向けて心理戦を展開する。
「信頼できない語り手」佐和子に、ネームという通常ならフィクションが描き出されることが多いツールを操らせることで、見事に観客を翻弄してくれる。
佐和子の自動車教習所での体験は、連載漫画を想定したネームによって語られる体裁だ。だが、リアルタイムで彼女が教習所に通っていることに加え、第1話に描かれた夫の浮気が事実であるため、俊夫にとっては佐和子の浮気描写が俄然真実味を帯びてくる。
そこから俊夫の、自分のやらかしたことを棚にあげたような疑心暗鬼と足掻きが始まる。
現実に起こっている事の描写と、(ほぼ現実通りであるかのように描かれた)佐和子のネームの内容の描写が交互に繰り返されるうち、「ネームの部分は嘘かも?」という気がしてくる。
新谷先生との浮気話は嘘かなと最初思い、さらに見ているうちに、そもそも新谷先生は実在するのか?いやそもそも俊夫の浮気まで込みで全部漫画でしたって夢オチ的顛末?などと、だまし絵を見せられているような感覚に陥る。
終盤でちゃんと話が出来ました元鞘に戻りますといった雰囲気になり、二人並んで佐和子のネームを原稿に仕上げ出したところで、不穏な違和感に襲われた。浮気相手の千佳の清算が出来てないのに、この空気感はあり得ないでしょ。
でもエンディングの雰囲気が漂っていたせいか、後列のお客さんが一人ここで退席した。
その後の、ラスト数分の展開が本作のキモだった。やっぱり無聊をかこって妻の仕事相手と浮気して、話し合いも出来ないような夫は許されないよね!よかったよかった。
出ていったお客さん、作品の結論を誤解してそうだなあ。
佐和子が、疑念に対して相手をすぐダイレクトに問いたださないのは母親譲りかも知れない。俊夫と千佳が2階でキャッキャウフフしていた時、黙ってテレビを消した母の後ろ姿の恐ろしさ。
佐和子がしばらく帰って来なかった時も本人の携帯に連絡したり通報したりせずおっとりしていたが、もしかして早い段階から俊夫の不倫や佐和子の決心を察していてあの態度だったのか?ちょっと怖い。
よく考えると佐和子の復讐は陰湿だし俊夫は甲斐性がないし、不倫相手は仕事関係だしでなかなかドロドロしそうなシチュエーションだ。
それが、漫画のページをめくるようなサクサクした話運びと、柄本佑の飄々として憎めない雰囲気とくすりと笑わせる演技、浮気者に鉄槌が下る結末によって全く胃もたれしない軽さが生まれ、メンタルに負担のない娯楽作になっている。