天才ヴァイオリニストと消えた旋律
劇場公開日:2021年12月3日
解説
「海の上のピアニスト」のティム・ロスと「トゥモロー・ワールド」のクライブ・オーウェンが共演した音楽ミステリー。1938年、ロンドンに住む9歳のマーティンの家に、類まれなバイオリンの才能を持つポーランド系ユダヤ人の少年ドヴィドルがやって来る。マーティンと兄弟のように育ったドヴィドルは、21歳でデビューコンサートの日を迎えるが、当日になってこつ然と姿を消してしまう。35年後、コンサートの審査員をしていたマーティンは、ある青年のバイオリンの音色を聴き、がく然とする。その演奏はドヴィドルにしか教えられないものだったのだ。マーティンは長い沈黙を破ってドヴィドルを捜す旅に出る。監督は「レッド・バイオリン」「シルク」のフランソワ・ジラール。「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのハワード・ショアが音楽を手がけ、21世紀を代表するバイオリニストのレイ・チェンがバイオリン演奏を担当。
2019年製作/113分/G/イギリス・カナダ・ハンガリー・ドイツ合作
原題:The Song of Names
配給:キノフィルムズ
スタッフ・キャスト
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2021年12月13日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
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特別な才能に恵まれながらも身勝手で社会性に難のある天才と、そんな才人を支え時には振り回されてしまう善き凡人たちの対照性は、現実にもよくある。第二次大戦の緒戦でナチスドイツに侵攻され占領されたポーランドで起きたユダヤ人迫害と、ユダヤ教のラビがホロコーストで犠牲になった人々の名を詠唱する「名前たちの歌」を取り上げている点は、人種差別という負の歴史を伝える啓発的な意義が認められよう。青年になった天才バイオリニストのドヴィドルがデビューコンサートの直前に失踪した謎を35年後に追う、ミステリー仕立ての展開にも引き込まれる。音楽も素晴らしい。だが、これらの要素がまとまってひとつの作品になったとき、微妙な不協和音が生じているように感じた。
幼い頃のドヴィドルを大戦前のポーランドから受け入れた英国人家庭の子で、兄弟のように育ったマーティン。だがドヴィドルのデビューをお膳立てしたマーティンの父は、コンサートのドタキャンで借金を背負い失意のまま死んでしまう。それから35年後、中年になりピアノの指導などで生計を立てているマーティン(「海の上のピアニスト」で超絶演奏の熱演で魅せたティム・ロス、本作では演奏場面がなくて残念)が、ある審査会で手がかりを得て、ドヴィドルを探す旅に出る。
ドヴィドルの失踪をめぐる謎は主に2つ。第1に、リハーサル後に演奏会会場を出たドヴィドルはどこに行き、誰に会ったのか。第2に、なぜ会場に戻らず、そのまま姿を消してしまったのか。マーティンがようやく探し当てたドヴィドル(クライヴ・オーウェン)から、第2の謎の真相が明かされる。あの日、ドヴィドルはバスを乗り過ごして偶然ユダヤ人コミュニティに行きつき、そこで「名前たちの歌」の詠唱を聞いて家族の死を知ったのだった。確かに彼にとって衝撃的な事実であり、絶望するのも無理はない。しかしだからと言って、10年近くも養ってくれた家族に迷惑をかけるのを承知で、連絡もなしに消えることを正当化できるだろうか。
第1の謎については、ある人物からラスト近くでマーティンと観客である私たちに真相が明かされる。その内容もまた衝撃的ではある。だがしかし、ここでもドヴィドルというキャラクターの身勝手な印象を強める結果で終わってしまう。原作小説の書き手は著名なクラシック評論家だそうだが、ミステリーの謎解きのインパクトを優先するあまり、キャラクターを魅力的に描く点で妥協した気がする。
レビュー冒頭で「不協和音」とたとえたが、もちろん不協和音がすべて悪いわけではない。基本の協和音に非和声音を重ねて緊張感や陰影を生むテンションコードは、古くは現代音楽やジャズで、20世紀後半以降はポップミュージックにも当たり前のように使われている。本作の“不協和音”も、観る人によっては良いアクセントになるのかもしれない。だが評者には哀しいかな、マスターピースのようには響かなかった。
フランソワ・ジラール、久々にその名を聞いた気がする。音楽に造詣の深い彼の映画では「楽器」や「旅」というモチーフが繊細に絡まりあい、独特な手法で物語が紡がれ、奏でられていく。このあたりに不慣れな監督が撮ると「音楽」の部分がひどくぞんざいに扱われてしまうことも多いが、ジラールだと楽器の弾き方、演奏家の癖、奏でられるフレーズに至るまで、表現が行き届いていて安心感が漂う。一方、本作では時代背景も非常に独特だ。戦時下における音楽家の混迷や、コミュニティ、ユダヤ教のあり方など、我々があまり目にできない描写が次々と登場する。子供時代の主人公らの純朴な演技もさることながら、それがティム・ロスとクライヴ・オーウェンという大物二人へ引き継がれていくキャスティングも、クライマックスで一段と豊潤な香りを放つ。人生の謎を追う旅。感情的なカタルシスとは一線を画した渋くコンパクトな幕切れも、心の内側に独特の印象を刻む。
2023年2月14日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
エピソードが過去と現在を行き来して、重なるようにドンドン惹き込まれるミステリーだが、ストーリーが「転」ずるところがやや急な気がする。ここが丁寧であれば、もっと評価されてよい映画になったかもしれない。
2023年2月13日
Androidアプリから投稿
なかなか興味深いユダヤ人ヴァイオリニストとホロコーストにまつわるお話。捜索は上手くいきすぎの感はありましたがよくできてました。
邦題は直訳で「名前の歌」にした方が断然いいと思うのだが。