カムバック・トゥ・ハリウッド!! : 映画評論・批評
2021年5月18日更新
2021年6月4日よりグランドシネマサンシャインほかにてロードショー
作り手たちの愚直な映画愛がはじける、愛すべきハリウッド業界コメディ!
ロバート・デ・ニーロにとって、自分の出演映画で一番のお気に入りが「ミッドナイト・ラン」だというのは有名な話。本作は、その「ミッドナイト・ラン」で脚本を手がけたジョージ・ギャロが製作・脚本・監督を務め、デ・ニーロと久方ぶりにタッグを組んだ、愛すべきハリウッド内幕コメディだ。
舞台は'70年代のハリウッド。デ・ニーロが扮するのはB級エクスプロイテーション映画を連発するプロデューサー、マックス。最新作(「Killer Nuns」、字幕の題「尼さんは殺し屋」よりも「尼さん殺し屋軍団」の方がイメージに合いそう)」が悲惨な大コケを喫し、出資者である映画マニアのギャング(モーガン・フリーマン)から借金返済を迫られ崖っぷちに。そんな彼が思いついたのが、けしからん計画である。老いた往年の西部劇スター、デューク(トミー・リー・ジョーンズ)を主演にカムバック映画の撮影を始め、デュークをスタントで死なせれば、多額の保険金をガッポリ丸儲け! だが、しぶといデュークはマックスの罠を次々と交わし、華麗なスタントを決めていく……。
このプロットは、ブロードウェイのミュージカル界を描いた「プロデューサーズ」のハリウッド版といった趣だ。元となったのは、ギャロが高校時代に見た同名の自主製作映画。主軸のアイデアを気に入ったギャロはその権利元を探し続けてようやくたどり着き、リメイクを実現したのだという。
ギャグが機能してかなり笑えるとは言え、天晴れなアイデア満載だった「ミッドナイト・ラン」と比べれば、この映画はゆるい。映画に顔があるとすれば、マックスよりもその相棒であるイノセントな甥、ウォルターに似ていそう。毒々しい設定にもかかわらずタッチが無邪気で毒に欠けるし、同じく内幕もの「ゲット・ショーティ」のようなスタイリッシュな展開やスリルもなければ、リアリティもいまひとつ。だが、映画ファンならどうして嫌いになれるだろう。ここには、映画屋たちのロマンが詰まっているからだ。
マックスには長年大事に温めている脚本がある。映画化できればオスカーだって獲れる、という傑作で、いわば彼にとっての"夢"そのものである。映画という夢にとりつかれ、映画を諦められないマックスのような人間は、ハリウッドに掃いて捨てるほどいるに違いない。もちろんギャロ監督もそのひとりだろう。映画にかける彼らの愚直な思いが透けて見えるからこそ、けっして憎めない。この映画は、夢を手放さなければならなくなったジイサンたちのリベンジ物語なのだ。
エンドクレジットの前に決して席を立たないで。サプライズのオマケ映像が待っていて、最後まで笑わせてくれるから!
(若林ゆり)