劇場公開日 2021年6月25日

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「【”ヒト”の可能性】」Arc アーク ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【”ヒト”の可能性】

2021年6月27日
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僕は、ヒトは、代を重ねたからこそ、強い遺伝子を残し、繁栄してきたのだと思う。

個人として死をどう考えるかなど、哲学的・宗教的な問いかけの他にも、いろいろ考えることの多い映画だった。

昔、ある宗教家の人に叱責されたことがある。

僕が、Cというお寺は、ある大きなAというお寺の「末寺」だと説明してことが気に食わなかったのだ。

Cというお寺を見下しているように感じると怒っていた。

だが、末寺の「末」は、末裔や末広がりの「末」と同じで、教えが広く伝わっているとか、繁栄していることを表しているので、この人の考え方は間違っている。

伝教大師の「一隅をを照らす」は、僧が自ら灯りとなって隅々を照らしなさいという教えで、「忘己利他」は、己を忘れて他を利するようにしなさいという教えだ。

天台宗は、その後、多くの高僧だけではなく、臨済宗の栄西、曹洞宗の道元、浄土宗の法然、浄土真宗の親鸞、法華宗の日蓮、時宗の一遍など日本の主要な宗派の宗祖も輩出して、仏教が、日本の知識層だけではなく、貧しい一般層にも広がる礎にもなっている。

天台宗延暦寺大講堂には、こうした宗派が寄贈した宗祖の像が祀られている。

作品のプラスティネーションのチャプターで、即身成仏が話題に上がる場面があったが、即身成仏を目指した空海も、法相宗の高僧・徳一(とくいつ)に諭され、それを成し遂げる前は、治水などを中心に利他行が中心の布教活動を行なっていた。

不老不死が利他とは対極にあるように感じるのは、僕だけだろうか。

ヒトも、仏教と似て、新しく教えを受け継いだジェネレーションが、更に新しい価値観を見出して、社会を発展させてきたことは間違いない。

僕達の上の世代が、LGBTQへの差別を止めようなんて考えただろうか。
更に、その上の世代が、男女の格差を無くそうなんて考えただろうか。人種差別は良くないなんて考えただろうか。

ヒトは、代を重ねて強い遺伝子を残し、繁栄し、更に代を重ねながら、価値観を発展させてきたのだ。

ヒトは、怪我を負った人や、年老いた人を労ったり、助けたり、子供も含めて弱者に寄り添いながら、少しづつ人らしさを育んできたのだ。
それは、いつか自分自身が弱者になるかもしれないという人間の想像力に基づいたものでもあるはずだ。

映画の物語のように、不老不死が実現するとは思えない。

でも、可能性としてだけ考えても、利他とは程遠いことは分かる気がする。

レビュータイトルに、”ヒト”の可能性と書いたが、それは不老不死を実現するという科学の可能性を考えたものでは決してない。

前に、進化人類学者のジャレド・ダイアモンド博士が、ヒトが農業を始めてから数千年から一万年経ったというが、ヒトは農業に適したように未だ進化していないと言っていた。

国連は、世界の人口増加と、エネルギー資源や水資源の保全のためには、先進国を中心に人類は肉食をかなり減らさなくてはならないと提言を行なっている。

ヒトは、代を重ねてより農業に適した進化を遂げる必要が、まだまだあるのだ。

それは、不老不死で手に入れられるものではない。

この「もし不老不死が実現したら」という物語は、ストーリー自体や、死は生の一部という哲学的とも取れる問いかけの他に、もっといろいろ語りかけるものがあった気がする。

原作も読んでみようと思う。

ワンコ
ぷにゃぷにゃさんのコメント
2021年6月28日

原作読みました。
けっこう淡々としてます。
原作通りにする必要はないし、そういう期待はしてませんが、映画がどれくらい原作のエッセンスを表現するか、気になってます。

ぷにゃぷにゃ
NOBUさんのコメント
2021年6月27日

今晩は。
 ”不老不死が利他とは対極にあるように感じるのは、僕だけだろうか。”
 私は、不老不死思想に対しては、否定的ですので、同感です。
 それより、お書きになったレビュー通り、死しても”知は滅びないので”生物の発展に寄与すべきように、優れたDNAを後世に残すべき手段を考えるべきだと思っています。
 ですので、今作の再後半にリナが選択した行為は、彼女自身が自らの真の生き方を見出したと解釈しました。私が今作を後半が良かったなあ・・、と思った点はここにあります。
 若き日に、庄内地方にある、本明海上人の即身仏と僥倖な事に出会えた事も私の思想のバックボーンにあるのかなあ・・、とも思っています。

NOBU