「【”様々な死への抵抗、甘受の姿。” 中盤から終盤にかけて、観る側に誰もが避けえぬ重いテーマを投げかけてくる作品。名優の存在感が素晴らしき作品でもある。】」Arc アーク NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”様々な死への抵抗、甘受の姿。” 中盤から終盤にかけて、観る側に誰もが避けえぬ重いテーマを投げかけてくる作品。名優の存在感が素晴らしき作品でもある。】
ー ”不老不死” 古くは、始皇帝が魅了された人類永遠の願い・・。
だが、その実現は果たして人類にとって、本当に幸せな事なのであろうか・・。ー
■感想
1.序盤
・17歳で男の子を産んだリナ(芳根京子)だが、産み落とした子を見ても、表情には嬉しそうな気配が余りない。戸惑いの表情だ。
『リナの第一の別れ:17歳』
・18歳になったリナは、相変わらず虚無的な表情をしているが、エマ(寺島しのぶ)のプラスティネーション(簡単に言うと、生き生きとした外見のミイラです・・・)と言う仕事に惹かれて。
ー 時代は近未来なのだろうか・・。リナが飛び入り参加するコンテンポラリーダンス(大駱駝艦か、もしくはリメイク版「サスペリア」を思い出してしまったぞ!)
邦画は、SF描写が苦手なのかなあ・・。世界に誇る”ジャパニーズアニメ”があるからかなあ・・。序盤は、イロイロと由無し言を考えながら鑑賞・・。ー
2.中盤
・会社を追われたエマの弟、アマネ(岡田将生)が後を継ぎ、不老不死のクスリを作り出し、彼は今やプラスティネーションの第一人者となっているリナと結ばれる。
一方、エマは、不老不死研究を拒否し・・。
『リナの第二の別れ:30歳』
そして、リナとアマネは30歳で、不老不死の身体に・・。
だが、50歳になったアマネの細胞の一部がクスリに不適合と分かり、彼は急速に老い、生を終える。
『リナの第三の別れ:50歳』
3.終盤
・経済的に、アマネの開発したクスリを打てなかった人を受けれている”アマネの庭”がある鄙びた島に舞台は移る。
・そこに、住む多くの老人たちの中に、リヒト(小林薫)の明るい妻(風吹ジュン)の姿があった。リヒトは献身的に末期癌の妻を看病するが、リナが運営する”アマネの庭”への宿泊は、頑なに断る。彼が、不老不死施術をしていない事も明かされる。
ー 殆どの人は、ここでリナとリヒトの関係性が分かるであろう。
そして、この物語は一気に面白く、奥深いモノになって行く。ー
・リナがアマネの冷凍精子により授かった5歳の娘ハナの生き生きとした表情。リヒトもハナとは、仲良しだ。ハナは長寿の印である亀をペットとして飼っている。
・リヒトが壊れたカメラや舟を直した際の言葉。”ちゃんと修理すれば、動くんだ・・。”
そして、リヒトの舟に乗って一緒に沖に出たリナに対してのリヒトの言葉。
”俺は、妻に会って初めてこの世に生まれた意味を知った。貴女もそろそろ、自分の人生をキチンと生きてみたらどうだい、母さん・・。”
◆今作の白眉のシーンである。
それまで、母の存在、行いを頑なに拒否してきたリヒトが初めて息子として母に語る言葉。
リナの涙が頬を伝う。
実に沁みるし、生きている意味って何だろう、と考えさせられるシーンであろう。
小林薫さんの真骨頂が発揮されているし、それに応える芳根京子さんの涙と目のみで演技する凄さ。
ーーーー
・時は過ぎ、リナは"ある選択"をし、総白髪である。
美しき成人になったハナ(中村ゆり)が、島の海岸で老いた母に、優しく寄り添う姿。
周囲には、ハナの子供達と思われる小さな子から大きな子(芳根京子)までが、賑やかに海岸を走り回る姿。
ー 滅びゆく命と、新しき命を象徴するシーンであろう。ー
◆燦燦と降り注ぐ陽光と、大空に向かって手を差し上げるリナの姿。
そして、そのリナを演じる現代邦画界の至宝と言っても過言ではない、大女優さんの姿。
見事なラストである。
<”生と死とは何かであるか”という重いテーマを、様々な点から考えさせられる作品。
様々な人々が死と不老について語るドキュメンタリータッチのシーンも効果的で、今更ながらに、生と死を深く考えさせられた作品である。
私論であるが、不老不死のクスリなど要らないと思う。
劇中でも、ラジオで流れるが、出生率は低下し、自殺率が上がるのは必然だ。
それよりも、全ての人が人生の末期を安らかに迎えられる世の中にする事が、必須であろう。
古きモノは、新しきモノに変わって行くのが、世の定め。
そして、徐々に変化、進化して行けば良いのである。>
こんばんは、
少しニュートラルなスタンスで臨んだ作品だったのですが、NOBUさん同様、後半に引き込まれた感じでした。
山形は出羽三山を抱え、修験道が良く知られていますが、神仏習合では仏教は密教の天台宗の時期が長かったんです。でも、天台宗の前は、真言宗の時期もあって、本明海上人は、その頃の高僧だったような気がします。
ラストの大女優……
お兄ちゃん(言わずもがなですが、寅さんのことです)、私もそろそろそちらに行くからね。
あまりの貫禄の演技だったので、そんな縁起でもないことを一瞬思ってしまいました。