「生命の生と死を問う力作」Arc アーク さうすぽー。さんの映画レビュー(感想・評価)
生命の生と死を問う力作
映画を観終わってこれほど強い余韻を与え、なおかつ深く考えさせてくれる新作映画も珍しいです。
SFとしては、これは快挙です!
世界的なSF作家ケン・リュウの短編小説「円弧」を石川慶監督が日本で映画化した本作。
彼の作品は愚行録しか観ていませんが、日本人の監督の中でも独特な映像美を得意としている監督と言えるでしょう。
前作2本とも同じポーランド人の撮影監督を器用しているので、もはやこのタッグは今後も不動のものになるでしょうね。
それも相まって、彼の映像表現は愚行録でも驚かされましたが、今回もまたしても驚かされました!
序盤は石川監督らしい青みと赤みのある映像から始まり、不思議な映画の世界観を彩っていました。
そして、中盤のとある時代をモノクロにした事に驚きです!
洋画だったら時々モノクロの作品を見掛けますが、全編ではなく途中の一部のみモノクロにした作品はラース・フォン・トリアーのニンフォマニアック以来ですが、日本の情景を異国感のある世界に変え、なおかつディストピアのような息苦しさもあり、そして美しいモノクロの映像にただただ酔いしれてました。
また、美術や衣装のスタイリングもお見事です!
寺島しのぶ演じるエマの会社の中をヨーロッパの映画らしく派手でオシャレな衣装と興味深いセットで作られていました。
また、プラスチネーションという遺体永久保存する技術を行いますが、遺体が生きているように見せるものになっています。
劇中では、永久保存された遺体が会社に飾られており、小学生の社会科見学でもそれを見せてる描写もあります。
現実的に考えると、かなり不気味にも取れることをしているようにも思えますが、劇中ではそれを微塵も感じさせてくれません。
その永久保存された遺体をマリオネットのように操って芸術のようにポージングをさせる描写があります。
マリオネットではありますが、どちらかというと着想は昆虫の標本と思われます。
実際、寺島しのぶの会社の社長室をよく観ると蝶の標本が置かれてるのがわかります。
昆虫の標本はフィクションでホラー映画で不気味な人の象徴のように描かれる事が多いですが、標本は本来、未来に残す大切な宝物という意義で作られています。なので凄く神聖なものだと思うんです。
だからこそ、飾られた遺体を不気味に描くことなくどこか神聖で美しいものになっていました。
ですが、描き方を一つでも間違えるとホラーになってしまうものをホラーにさせることなく映したというのは本当に素晴らしいです!
芳根京子についても話したいです。
この映画の役どころは、17歳から老齢までの歳を演じるので、今までの役の中でも非常に難しいことだったと思います。
にも関わらず、そのリナという難しい役を自分の想像してた以上に自然に演じられています。
本当に、度肝を抜かれました!
テーマは不老不死ではありますが、メッセージ的にもかなり攻めていると思います。
鬼滅の刃でも煉獄杏寿郎も「老いることも死ぬことも、儚い人間の美しさだ」と言ってましたが、本作は更に上を行ってる言葉を言っていて意表を突かれました。
ラストでは、主人公なりの回答が提示されますが、映画を観た観客に問いかけるような内容だったと思います。
ヒューマンドラマ要素が強い本作は和製メッセージとも言えますが、色々な所で欠点になっている映画にも思えます。
その欠点はネタバレなので省略します。
賛否解れる作品だと思いますし、ヴィルヌーヴのメッセージほど強い脚本と完成度とまでは言えませんが、観た誰かの心に必ず深く残る作品です。
自分もそのうちの一人です、傑作です!