「してやられたと思った人は喜んでいい。」アンテベラム 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
してやられたと思った人は喜んでいい。
ネタバレ厳禁である。だからなのか、公式サイトも紹介サイトも、どうにも歯切れの悪い説明をしている。どうしてネタバレ厳禁なのかを説明するとネタバレになってしまうから、とにかく映画を観れば解るとしか言えないが、何故この作品が作られたかは説明できる。
アメリカでは黒人差別や女性差別がいまだに根強い。映画でも毎年、何作かは正面から差別を扱うか、正面からではないが物語の中で取り上げた作品が公開されている。同じ人間を奴隷として一切の人格をスポイルした歴史はそう簡単に消えるものではないし、特に奴隷を使って大規模な綿花農場を営んでいた南部の州の人々には、差別する側の精神性として残り続けているのかもしれない。
人間は差別をし、戦争をする。それが人類の歴史だと言っても過言ではない。だから常に差別と闘い、戦争反対を訴え続けなければならない。人道主義や平和主義よりも経済を優先するべきだと言う人がいる。しかしそれはアホの論理である。文明の利器が発達すればするほど、人間はアホになる。自明の理だ。
自家用ジェットで移動する金持ちを羨ましがる人々がいるから、いつまでも人間は富を求め続ける。あれはアホが乗るものだ。哲学と想像力が欠如している人をアホという。自家用ヘリに乗っているアホのCMを見れば一目瞭然である。
必要十分な生活で満足する人には、自家用ジェットは必要ない。ごくわずかの金持ちの自家用ジェットのためにどれほどの人々が貧しい生活を強いられているか、その構図を理解する想像力があれば、人類が求めなければならないのは、平和と平等であることがわかる。
本作品の主人公ヴェロニカは女性差別、黒人差別と闘う活動家である。アホたちはそれが面白くない。アホには哲学も想像力もないから、直情型で暴力的だ。暴走族やチンピラを見ればわかる。超然と振る舞うヴェロニカだが、その生活は常に差別と危険にさらされている。
本作品は、鑑賞後にしてやられたと思う作品のひとつである。同じように観客をミスリードする映画「マスカレード」を観たばかりだと言うのに、まんまとミスリードされてしまった。敢えて自己弁護をするなら、想像力があって、アメリカの歴史を少しは知っている人ほど、ミスリードされやすいと思う。
ある意味、アメリカにも沢山いるアホに対する挑戦状みたいな作品である。多分アホは観ないと思うが、観たとしてもアホだからミスリードされず、作品の面白さも理解できないだろう。してやられたと思った人は、アホでないことが証明されたと喜んでいい。