「歌と映像美でハマって観た人勝ちな映画」竜とそばかすの姫 Raytaroさんの映画レビュー(感想・評価)
歌と映像美でハマって観た人勝ちな映画
公開初日に新宿バルト9のど真ん中の席で観られた。
細田守監督作品の特徴なのかも知れないが、全体の物語の作りにフィクションとしての非日常感や陶酔性が混ざっていても、なんとか日常意識に戻って来られる範囲の穏当さに抑えられていて、極端に深い狂気やいびつな綻びを感じさせないさじ加減になっている。
若い女性観客らが上映後口々に、
「久しぶりにアニメの映画観て、めっちゃ感動した」
「ね〜、めっちゃ良かったね〜」
と囁き合っているのが印象的だった。そうかあ。こういうのが女の子に効くロマンティック・ファンタジーなのか、と妙に納得。
疑いようもなくハイクオリティーな作品なので、自分的にも相当感動したが、秀逸だったのは映像美と歌、という印象。
ストーリーは総じて予定調和的な健全さの範囲で収まっていて、「女の子の夢と学園ドラマ、ホームドラマを、程よい落とし所で全部叶えます」的なドラマだったなあ、と言うのを真っ先に感じたのも事実だ。
まあ、だから、逆を言えば、歌と映像美で2時間10分引っ張っていく映画で、ストーリーはオマケ感が強い。ストーリーも「美女と野獣」をトレースして、ちょっと未来の高知県の田舎に暮らす高校生の暮らしを舞台としているなど、かなり特徴的ではあるが、細部にこだわると、一つ一つのファクターが十分には掘り下げられ切らずに煮え切らない感じがして、モヤモヤ不完全燃焼な感想を持つだろう。
でもおそらくは、感性で観て、そのまま酔っちゃえばいい映画として作られている気もする。
歌と映像美だけで引っ張っていく加減が凄いし、そこに素直にハマっちゃえば「ああ、良かった」という感じで終わるだろうし、 若い女の子が観たら、最高に感動した映画、という印象で長らく記憶に残るのではないか。
観たらぐったり疲れてしまうくらい凝ったストーリーを期待する人向きではないだろうが、この日常感をほんのちょっとファンタスティックにアップデートした加減で描くロマンティックな物語が、案外今風なのかも知れない。