リバー・オブ・グラスのレビュー・感想・評価
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奇妙に開放的
ケリー・ライカート監督の長編デビュー作がU-NEXTで観られるようになっていたので、「ファースト・カウ」鑑賞の前に観てみた。30歳の主婦が自由な生き方を夢見ている。そんな時に、うだつの上がらない男と出会い、あてのない逃避行に出てしまう。なんだか「ボニー&クライド」っぽいが、あんなに格好良くはないのだ。というか、ほとんど何の取り柄もなさそうな二人が、「ここではないどこか」に憧れて、「何者かになりたくて」行動するが、全くどこにもいけないし、何者にもなれない。そう書くと、閉鎖的な物語っぽいのだけど、奇妙な解放感がある。
なぜかこの映画、格好良くなさがすごくいいし、どこにも行けないくせにちょっと救われたような気分になれる。アメリカ南部の雰囲気のせいだろうか。
バーバラ・ローデンの「ワンダ」に似ているという人が多いみたいだが、確かに雰囲気は似ているし、家庭に縛られていた女性の自由を求める逃避行という点でも共通している。
主婦の煮詰まった日常と湿地。
ケリーライカート研究第2弾、彼女の長編一作目。やっぱりデビュー作は凄い良い。
アメリカの湿地帯で煮詰まりまくったダメ主婦と悪にもなりきれない男のショボい逃避行話。拳銃無くす癖がある警官で主人公の父親がまたショボい。
70年代風やる気の無い映像もカッコいい。
ぶっきらぼうに見えるけど繊細で計算されてる。
長編一作目だけど凄い濃密、こりゃ注目されるわな。
ダメ主婦が覚醒する終わり方が結構凄いよ。
ブラック味が割と強い、ライカートのデビュー作
ライカートの長編デビュー作らしい。
舞台は、自分が生まれ育ったマイアミ。ライカートの実際の父母も警察関係者だったようなので、主人公の父も刑事という設定。
デビュー作ということで、満を持して勝手知ったるその二つを手堅く据えつつ、その分伸び伸びとストーリーを膨らませていったのではないかと想像するが、結果的にとても面白い作品になっていると思う。
ネタバレを避けるが、父の落とした拳銃の数奇な行く末や、まるっきりの偶然だったはずの出来事が、いつの間にか全く違った意味を持って結びついてしまう展開がよくできている。
想像力豊かなコージーの脳内では、ドラマチックな逃避行だったはずなのに、ズレてズレて見事に陳腐になっていく様子は哀れであるが、同時に、観ているこちら側を「そんなに大袈裟なことは簡単には起きない」と、ホッとさせもする。
だが、映画冒頭から様々に繰り返し写真や言葉で提示されるように、些細なことの積み重ねが、結果として取り返しのつかない殺人等のきっかけにつながってしまうこともちょこちょこ明示され、「そうした大袈裟なことは、案外簡単におきる可能性もある」ということが同時に伝わってくる。
相手への攻撃を容易に行える「銃」というものの存在について問いかけるとともに、自分の人生を変えようとするならば、流されたままではなく、自分の意志で線を越える必要があることを、ブラックな味付けで描いた作品と受け取った。
主人公のコージーと一緒に逃げるリーの情けない僕ちゃんな感じが、自分には微笑ましかった。
そして、コージーの父が、物をなくした時の、泣きたくなるような状況をとても上手に表現していて好印象。まあ、あれだけ無頓着ならそうなるよねぇ…。プロを目指していたというドラムソロにはシビれた。
全編通して、ライカート監督の張り切り具合が伝わってくる一作。自分は、一番笑えた。
やさぐれロードムービー
なんという廃退的な世界。これは全くの他人事なのか、それとも意外にも身近で誰の心奥底にも潜んでいるものなのか。
色々と考えさせられる作品なのだが、何を考えさせられたのかもおぼつかないほど本作には独特な雰囲気がある。
映像や音楽が日常と非日常とのコントラストとうまく調和していて、行きどころのない主人公達の想いを浮き立たせている。
本作の感想を言葉にするのはとても難しいのだが、とにかく評価されるべき作品だとは思う。全体を通して完成度は高い。
何でもいいから何者かになりたい!?
ケリー・ライカート監督の『ファースト・カウ』がとても良かったため、さかのぼって一作目から鑑賞することにしました。
リゾート、じゃない方のマイアミの湿地帯。何もない場所で、何者でもない男と女の逃避行…しかし全てがショボくてサエないのです。
どこへも行けない者たちの悲哀が綴られた映画。
味わい深い作品でした。このどうしようもなさ…かなり好きです。
これはいかんでした
この監督の映画とにかく雰囲気がよい、何も描いてなさそうで心に刺さる、なのに独りよがりじゃない映画を作るなーと感心してましたがこれはダメでした。まさに独りよがり、映像もおしゃれ意識しすぎて安上がりの独立系映画に仕上がっちゃってますね。救いなのは長編デビュー作とのことなのでここからドンドン良くなったってことね。なので今後もこの監督の映画は安心して見て良いんだ。
短い時間の中に、目を見張るような構図と意外性があふれている一作
近年、アメリカインディペンデント映画の旗手としてケリー・ライカート監督に対する注目が急速に高まっていますが、本作はライカート監督の劇場公開映画としては初監督作品となります。
スタンダードサイズの、通常の劇場公開作品と比較してやや狭い印象を受ける画面は、1990年代よりももっと以前の映像であるかのような印象すら持ちます。約70分と、長編映画としてはコンパクトですが、目を見張るような構図と、意外性のある展開が凝縮しています。
…と書くと、本作は見せ場に次ぐ見せ場のジェットコースターのような映画であるかのようですが、実際はその逆で、主人公コージー(リサ・ドナルドソン)の父で刑事のジミー(ディック・ラッセル)が、酔っぱらって落としてしまった銃を、それを周囲の人が拾い上げて本人に渡す…、といった程度の緊張感です(まあそれでも結構深刻な状況ですが)。
育児に疲れたコージーも、彼女と出会うリー(ラリー・フェセンデン)も、何かに鬱屈を抱えていて、冴えない風貌をしています。そしてコージーとリーが行動を共にするようになって、ロード・ムービーのような展開になっていく、かと思いきや。
ライカート監督自身が本作を、”道のないロード・ムービー、愛のないラブストーリー、犯罪のない犯罪映画”と形容したそのままの展開となっていきます。本作の舞台となるフロリダは、ライカート監督が生まれ育った場所でもありますが、『WAVES/ウェイブス』(2019)と同様、陰と陽の対比が強烈で、何かを語らずにはいられない場所であることが十分に伝わってきました。
本作の公開にあたっては、配給会社のグッチーズ・フリースクールの尽力が大とのこと。感謝です!
何者でもない自分へ。
リバーオブグラスに住む主人公。ただ目的もなく過ごす日々。酒場で出会った男性がきっかけで話が進む。彼との関係性は、父親とのそれに通じるものがあり、特に主張するわけでもなく、なすがままの距離感を描写するシーンは冗長的ではあるものよ、銃を媒介に何かを成し遂げた者として瞬時に覚醒直後、一時停止で勢いよく止めた青いシボレーのハンドルを右に切ったシーンは、初めて彼女の意思を感じるた。
よかった
「WANDA」や
「ジャンヌ・デュエルマン」と共に
引き合いに出されるのも納得の本作。
コージーと一体化するような感覚が
ありましたな。
オープニングに掴まれて、
エンディングで離れられなくさせられるような、
そんな映画でしたな。
【30歳になっても、何者にも成れない閉塞、焦燥、諦観を持った男女の、”草の河”での不可思議な出会いと、強烈な永遠の別れを描くロードムービー。】
ー インディペンデント感が半端ないが、非常に魅力的で蠱惑的な吸引力を持ったロードムービーである。-
■楽園リゾート都市・マイアミのほど近く、何もない郊外の湿地で鬱々と暮らす30歳の子持ちだが、母性のない30歳の主婦・コージー。
彼女はいつか自分の元に現れ、子供も引き取る人が現れる事を期待し、新しい人生を始めることを夢見ていた。
そんなある日、コージーは同じように現実に失望しながら生きる男・リーと出会い、行動を共にすることに。
◆感想
・コージーの父が、ドラマーになる事を夢見ながらも、田舎の刑事になり、しかも自らの拳銃を紛失する。
そして、隣町のリーの友人がその拳銃を拾い、リーに”売ってくれ“と依頼し、そこにフラフラと””草の河”を歩いて来たコージーと出会う設定が、妙に秀逸である。
・二人は当てもなく、車に乗り、”新たなる世界”を目指そうとするが、世界は変わる訳でもなく、モーテル暮らしをする閉塞した日々を過ごす。
ー コージーの顔付が、微妙に変化していく様。自分に新たなる世界を齎してくれると思っていた、リーは、只のチンピラだった・・、と気付いていく・・。-
<ラストの、コージーが平然と行った行為は、彼女が元々、精神的に不安定だった事も鑑みても、衝撃的である。>
監督自身の焦燥をストレートに焼き付けた傑作
名古屋シネマテークのケリー・ライカート監督特集からの第一弾。
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これは1994年の長編デビュー作。「ロードの無いロード・ムービー、愛の無いラブ・ストーリー、犯罪の無い犯罪映画」とは言い得て妙。
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南フロリダの郊外、草が生い茂った湿地帯「草の川」にほど近い田舎町。事故物件らしき平屋建ての家を格安で購入し、夫や子供たちと暮らす30歳の主婦コージー。
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家族に対する愛情が足りてないんかなぁ。
退屈な毎日に不満を募らせ自由を夢見る。
酒場で出会った男はホントしょうもないヤツ。
人を殺したと勘違いしての逃避行。
遠くへ逃げようとしてもお金がない。
何一つままならない。
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すぐに「バッファロー'66」を思ったが、今作の4年後の作品だったのですね。影響を受けたんだろうなぁ。知らんけど。
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これは何者でもないライカート自身の焦燥をストレートに焼き付けたような傑作。ヒリヒリした。
これがデビュー作らしいけど、撮れば撮るほど洗練されていくのが見てと...
これがデビュー作らしいけど、撮れば撮るほど洗練されていくのが見てとれて面白い。この作品は外連味たっぷりだけど、この人特有の話を最後にひっくり返して突破していくのは素晴らしい。
"Evergladed"
幼少期からの断片的な映像とコージーが語るナレーション、小気味良くドラムが鳴るJazzの雰囲気、全体的にグランジやオルタナ臭が香りエンディングはSammyの「Evergladed」と、ケリー・ライカートの初期衝動がUSインディー・シーンと共に炸裂。
逃避行にすらならない男女カップルにもなれない、鬼気迫る緊張感すらない、シュールで間抜けな少しの珍道中、呆気にとられる衝撃的なラストシーンは笑えてしまうし、どこまでも突き進む無理矢理な暴挙に出るコージーの逃亡に誰かが気付いてあげて欲しい。
法という線をまたぐ=アイデンティティー?異色の男女逃避行モノ
コカ・コーラの提供でお送りします
法という線をまたいだ男女逃避行モノ。孤独なふたりが人殺しによって自己アイデンティティーを確立しようとするヘンテコ犯罪コメディ。
アウトローに憧れて。大きなことでなく些細なことの積み重ねを描くケリー・ライカート監督が、良作傑作も多いこのジャンル・プロットを扱ったデビュー作品で、演出や空気感なんかもそれ以降のドキュメンタリータッチなものとは異なる。意外と笑いどころも多く、この監督のフィルモグラフィーにおいて作品のタッチ作風も含め一見異色の作品ではあるけど、どこかへ向かう道中・漂流中という点ではその後の作品たちと一貫しているかも。娘も拳銃も行方不明。
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