Swallow スワロウのレビュー・感想・評価
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ななめ上をいきます。
自己否定感が強い主人公が異食症となり、自身の問題と向き合い、他者からの承認を得て前へ踏み出す話。
役どころは、人の顔色伺いHappyを装う主人公、ばりばり宗教右派の母親(声だけ)、レイプ犯の父、モラハラ夫と偽善者な義父母、シリア出身の介護士…彼らのちょっとした言動から背景や心情が見えます。
予告や解説を読んでおけばストーリは想定内なんですが、ところどこぶち込んでくるので”ひぃ!””ひょぇ〜!”となりました。
例えば…
”レイプによって出来た娘が主人公”
”刑務所で袋叩きに合い、人工肛門をつけることになったレイプ男”
”介護士が脱走を手助けするシーン”
”ラストの堕胎シーン”
あたりが”ナナメ上いくなぁ〜”と感じました。
淡々とストーリーは進みますが、行間に観てる側の想像を駆り立てるものがあり、飽きませんでした。
※ネタバレ箇所を少し削り、修正しました。
正しい幸福感
主人公のハンターはビジネスで成功を収めてる旦那を持ち、立派な豪邸に住む。もちろん彼女が外に出て働く必要もなければ表面上は旦那も優しい。ただハンターはどこか幸せでないのは冒頭から伝わる。
旦那の仕事柄上、旦那の家族と関わりが冒頭からあるのだが、その家族からも彼女が一生懸命話していても途中で遮られたり、本人は気に入ってる短い髪型を否定されたり…彼女の存在自体が彼らには大した存在でない事がひしひしと伝わる。もちろんそこには悪意があったり、彼女を虐めてやろうという気持ちもまた無いのは伝わる。シンプルに彼女の存在がはっきりと伝わり、それが返って彼女をさらに苦しませる。
結局そこのわだかまりが妊娠しても尾を引く。旦那も家族も表面上はハンターに優しく接するが、ハンターの心配以上にお腹の中の子がとにかく気になってるのが伝わる。もちろんそれは普通の事なのかもしれないが、元々きちんとした信頼関係がない上だとさらに彼女を傷つける。そこで異食症が爆発する。
この作品はもちろんこの異食症が主となるが、決してあれこれ異物を食べるシーンが沢山ある訳ではない。
孤独や寂しさの気持ち、満たされない欲がMAXに近くなるとそういった衝動に出る。その描写が丁寧に描かれているためとても見入ってしまう。
確固たる描写で彼女が明らかに、意図的に苦しめられる、虐められるような描写が決してあるわけではないが、彼女の寂しさ、満たされない欲は十分伝わり心が痛くなる。
後半ではハンターはレイプの末生まれた事が明かされ、終盤ではその犯人(刑期は終えた)に会いに行き気持ちを伝える。
そこで彼女は本心では望んでなかったお腹の中の子を中絶し、そしてこれから一人で生きていこうとする姿で作品は終わる。
このハンターは顔もカッコよく、そしてお金もあり、決して意地悪とかではない旦那を持っているのだから誰もが羨み本来は幸せであってもおかしくない。
もちろんハンターでなければこの生活でも十分幸せに感じ、ハンターの旦那と一生を暮らしていける者も沢山いるだろう。
決してハンターがおかしい訳でもなく、旦那も特別おかしい訳でもない。ただ人それぞれ幸福感、幸せに繋がる欲というのは違い、その違った欲、幸福感を強要することが返って不幸となり人をダメにしてしまうという描写が非常にうまく描かれておりとても好きな作品であった。
決してドラマ性の高い作品ではなく、異食症含め精神病になってしまうありえそうな過程を淡々と描いていくがそれでも見応えはある。
今は便利な社会にどんどんなるにつれて幸福感を満たされにくくなっていくというのはメディアで何度も目にしたことがある。僕自身もその1人であるが、そのような人は沢山いると思う。
時には人が羨む事、望む事が幸せだと思ってしまう事もあるが、自分自身の幸福感というものを明確にし、それを形にする事が大切なんだという事を改めて感じさせてくれる作品であった。
またその幸福感を形にできない、前に進めないのはハンターの様に過去の大きなトラウマが邪魔をしている場合もある。時には幸せを掴むにはまずトラウマを消し去ることが必要であったりもする。
自分の過去を振り替えながら、そして心と会話しながら楽しめるそんな作品であった。
magenta
会社経営者の義父母とその会社の取締役となった旦那に囲まれて、一見幸せそうな専業主婦が、異食症に陥って行く話。
表面上は優しい旦那と義父母との時間だけど、自分への興味が薄く感じてしまい、寂しさを紛らわす様に氷を噛み砕き、ビー玉を飲み込み、様々なものを口に入れる様になっていくストーリー。
徐々にエスカレートしていくそれは、背徳感かスリルか、それとも自傷の一種か…。
スリラーと言われればそうなのかも知れないけれど、誰しも感じることのあるであろうふとした孤独が、そんな行動に繫がってしまう様は恐ろしいというより哀しい限り。
最期の描写は少しボヤかしたところもあるし、何もなければ過激に感じるところはあるものの、言わんとすることはしっかり伝わって来てとても良かった。
まさに20年代の変態映画+女性の自立映画
2021年元日映画の日で観てきた。きっとヘイリーベネットがたくさん映ってる映画だと思ったらそうだった。但し「あらぬものを何でも飲み込んでしまう妊婦」という恐るべき役どころ。にも関わらず衣装も美術もロケーションも大変おしゃれなのでエレガントなサイコパス風。
というところが前半で、後半は治療と共に金持ちに嫁いできた庶民の出の妊婦がなぜ、というところに話が進む。自傷行為の中でもこれはなかなかのアイデアだな。とりわけ「金持ちに嫁いだ一般人」としてのヘイリーベネットの着せ替えぶりが素晴らしい。『ローズマリーの赤ちゃん』のミアファローを思い出すくらい一回一回がフォトジェニック。パンフは出して欲しかった。
結果、前半エレガントサイコ、後半は自傷行為克服のための「私探し」。更に囚われからの旅立ちというというテーマにまでいく。ただの変態映画ではない、女性の自立に転調させてるあたりが20年代の映画だと思った。
ビー玉も画鋲も土もストレスものみこんでしまう話
予告編を観て物凄く気になっていた作品でした。どうやら“異食症”と呼ばれる、どんなものでも呑み込んでしまう女性というインパクトと「どうしてそんなことするの?」という興味で観に行きました。いや〜不謹慎ながらとんでもなく面白い作品でした。
自分はストレスが溜まったらどうやって解消してるだろうかと考えると、それこそ一人で映画を観に行ったり、カラオケに行ったり、美味しいものを食べたりしてるかなあ。主人公のハンターにはそれが見つけられてなかった。
まず、自分自身に対する肯定感というか、アイデンティティーを示すことができないこと。劇中で明かされる出生までの過程、金持ちの旦那さんを見つけたは良いものの家事を完璧にこなせるわけではないということ、ハンターの結婚していてもどこか孤独な様子が容赦なく描写されていきます。
そして、度重なるモラハラ。結婚することに希望が抱けなくなってしまいますよこんなの見ると。姑のお節介はデフォルメされてないリアリティーを保っているし、夫は「愛している」とは言ってくれるし、愛情表現も頻繁にしてるけど、仕事優先だったり、家族のお節介を止められなかったり、ちょっとのミスで「ファック!」となったり。これも本当に演出が上手くて、ハンターが異食症になってからも、理解しようとはしているし、彼なりに彼女のためを思って行動してるのは伝わってくるのが辛い。「ファック!」と言った後にちゃんと後悔しているのが辛い。つまりお見事。
そして、彼女は花を育ててみたり、カーテンの色を変えてみたりもしたし、夫の同僚のようにハグで寂しさが解消されるかを試してみたりもしたけど、結局氷を飲み込んだ時の気持ち良さをきっかけに、どんどん固形物を呑み込んでしまうんですよね。非常に痛々しいシーンもありました。
この物語をどう片付けるのか途中から不安にもなってきたりもしたのですが、実に見事に着地させたと思いました。ネタバレは避けつつ記録に残しますが、ハンターにとって因縁の相手に会いに行くシーン。「私はあなたとは違う?あなたに答えてほしいの。」つまり、自らのアイデンティティーを取り戻し、さらにとある決断をする、でもその後はあえて描かず想像に任せるという流れでした。ラストカットのハンターは、髪型も表情も全く違っているように見えます。彼女の今後、夫の今後はどうなったんだろうと余韻に浸れる作品でした。
あと、変なところでアップになる演出が面白くて。自分が気付いた変なところのアップは、ドレッシングとか掃除機のコードとか調理に使われた動物の残った眼とか。つまり、何かの付属品のものが多くて。夫にとってのハンターの存在や、ハンターが自分自身を主役と思えないことを暗示しているのかなと思いました。
固形物はもちろんストレスものみこんじゃいけないなと思わされる作品でした。傑作だと思います。
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