83歳のやさしいスパイ
劇場公開日 2021年7月9日
解説
老人ホームの内定のため入居者として潜入した83歳の男性セルヒオの調査活動を通して、ホームの入居者たちのさまざまな人生模様が浮かび上がる様子を描いたドキュメンタリー。妻を亡くして新たな生きがいを探していた83歳の男性セルヒオは、80~90歳の男性が条件という探偵事務所の求人に応募する。その業務内容はある老人ホームの内定調査で、依頼人はホームに入居している母が虐待されているのではないかという疑念を抱いていた。セルヒオはスパイとして老人ホームに入居し、ホームでの生活の様子を毎日ひそかに報告することなるが、誰からも好まれる心優しい彼は、調査を行うかたわら、いつしか悩み多き入居者たちの良き相談相手となっていく。舞台となった老人ホームの許可を得て、スパイとは明かさずに3カ月間撮影された。第17回ラテンビート映画祭や第33回東京国際映画祭では「老人スパイ」のタイトルで上映。第93回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞にノミネート。
2020年製作/89分/G/チリ・アメリカ・ドイツ・オランダ・スペイン合作
原題:El agente topo
配給:アンプラグド
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高齢者施設に潜入して内部捜査せよ。そんな任務を負った素人スパイのご老人が、ひみつ道具や慣れないスマートフォン機能を駆使しながらその様子を探偵事務所へ報告する。この設定だけですでにドラマや映画へ応用できそうな気がするが、しかし本作の面白さ、というか”素朴さ”は、ドキュメンタリーだからこそ獲得できたものと言えそうだ。入居者たちも、83歳のスパイも、決して”演じている”わけではない。それぞれが素の人間としてここで出会い、言葉を交わし、交流を深めていく。そうやって人々の心に触れる自然な能力が、主人公にはもともと備わっているのだろう。作品として「スパイ」というキャッチーな部分が強調されているものの、その芯にあるのはここで暮らす高齢者たちの心の内側を覗き見ること。はたまた、任務を通じて生じる主人公の”心の移ろい”を感じること。全てはその瞬間をカメラに刻むための壮大な仕掛けですらあったかのように思える。
2021年6月29日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
冒頭はドキュメンタリーっぽくなく、まるでドラマのような感じで、アル・パチーノの写真が映ったりする。だが不意に83歳の主人公・セルヒオを捉えていたカメラの後ろにドキュメンタリーを撮っている監督やスタッフがいることが映し出される。ドキュメンタリーでありながら、フィクションとの境界線を敢えて曖昧にすることで、リアルな人間の冗談のような本当の話こそが、まるでフィクションのようなドラマとなり得ることを描こうとしているようだ。
この作品を魅力的にしているのは、なんといってもセルヒオの人柄である。雇われスパイであることを隠し、老人ホームに同じ入居者として潜入してみると、誰よりもやさしくて涙もろく男前な彼は、スパイなのにホームのおばあさんたちの人気者となってしまう。そして、いつしか入居者たちの良き相談相手となった新人スパイが見つけ出したのは、老人たちの孤独、彼らの心の叫びだった。
だが、この作品が深い感動を呼ぶのは、老人たちの孤独な現実を重く受け止めるだけでなく、同じ老人でありながら、生きがいを求めて新人スパイとして奮闘するセルヒオを通し、ある種の“喜劇”へ昇華しているからではないだろうか。
2022年7月8日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
83歳の男性が探偵に雇われ、老人ホームにスパイとして潜入し、虐待疑惑を調査する。
おもしろい設定だ。
潜入前の準備段階ではスマホの使い方に四苦八苦し、大丈夫かと思わせたが、潜入後は入居者たちと円滑にコミュニケーションを図りながらうまく仕事をこなしていく。
ただ、当該老人ホームには全く問題はなかった。
緊張感は全くなく、ただ入居者たちとふれあいながら毎日を過ごすだけという感じで、この点は少し拍子抜けした部分はある。
ネタバレ! クリックして本文を読む
主人公のセルヒオが探偵事務所の面接を受ける以前から先行して撮影はしていて「映画の撮影です」というのは施設にも入所者にも知れわたっている。【潜入調査をする目的でセルヒオが入所】する事は、映画を観ている人と製作スタッフしか知らないというのが外枠のドキュメンタリー。
入所してすぐのランチタイムで私のデザートあげるわとセルヒオに近づくベルタ。そのあと身の上話しをして妻が亡くなったのを知る→花占いをするシーンという仕込みかと疑うほどの流れ。日本だと好き・嫌い・好き・嫌いと恋の行方を占うアレなのだけれど、ここはチリ国なので、スキ..チョットスキ..キライというポジティブ版。花びらのラスト1枚に隣に座っていた親友の婆様が食い気味に「イケる!」とか言う。これがまるで女学生みたい。
そこにセルヒオはいないのだが、恋に落ちるのをまざまざと見せつけられては記録するしかなかったのだろう。ベルタは外出許可をとって二人で出掛けようとするのだけど、明るく可愛くなってる。髪型も最初モッサリしてたのに、髪をとかして留めてオシャレになってる。それでも花占いは当たらずで、セルヒオは死んだ妻がまだ私の心のココにもココにもいるとジェスチャーを交えてベルタに伝えるのだけれど。これもますます惚れてまうやろポイント。本当にいい男だ。
内偵する対象者のソニア・ペレスを探すも、似てる婆様4人いてわからんとか初日に報告したんだけど、全然違う顔しててはっきり言って似てない。これも妻一筋で生きてきたので他の女性が全てカボチャに見えるとかいうやつなのでは。タイトルに「83歳」と「スパイ」と入っていてコメディ的な要素を想像しちゃうけど、セルヒオが優秀過ぎてその部分では殆ど何もおこっていない。「はじめてのおつかい」で、そつなく買物して帰ってきたのを見せられた感覚に近い。任務遂行能力、コミニュケーションスキルが異様に高く、真面目さ、所作どれをとっても兎に角素晴らしかった。
虐待はないし、盗難は自分のものと他人のものな区別つかないような婆様のやった事で、調査結果はあって、ないようなものだった。
かわりに老人の孤独に焦点をあて、そこを映画の落とし所にしているようだった。依頼者に対して、直接母親に会いにくるべきなのではないかというセルヒオ。家族から大事にされ、会う人会う人皆から愛され、亡き妻のことを想い続けているから、そうすべきだという結論を導き出す。何が必要なことなのかわかる。
ロムロは複数いた応募者の中からよくセルヒオを選んだものだと思う。見る目あるわ。
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